第61限 再編、校外委員会
大人だけが消えた世界……
……そしてやがて、学園は国家となる
翌日、明朝。
僕は生徒会室に招いた七人の男女と握手を交わしていた。そばにいつもの生徒会役員である甲斐や壱岐さんはいないが、代わりに《校外委員会》の副委員長・山城が厚い胸板を誇示するように背筋を伸ばして横に立っている。その筋肉のせいでパツパツな黒いブレザーの制服をネクタイまでしっかり締めて着ており、右腕には「校外」という文字が丁寧に刺繍された腕章を通す。
「……期待してるよ」
「あ、ありがとうございますッ!」
会長席に顔を向けて、横一列に並んだ七人の男女は、新たに《校外委員会》への参加を決めてくれた勇気ある者たちだ。
僕は右端の生徒から順番に激励している。中ほどには一年生のまだ小柄な子……しかも女子生徒がいたが、彼女に握手をして、激励を述べると威勢よく返事をしてくれた。
僕はそれが嬉しくて、笑みを浮かべながら小さく何度も頷いて、彼女の肩をぱんぱんと叩いた。
「頼むね、人材不足なんだ」
「はいッ! が、頑張りますッ!」
「うん。ありがとう」
最後にそう礼を言うと、小さな彼女は緊張した面持ちから惚けたような表情になって固まってしまった。握手をしたまま固まられたので、しばらく扱いに困っていると、隣の男子生徒が「んっん!」とわざとらしい大きな咳払いをした。
それにハッとしたのか彼女は我に返り、「す、ずみませんッ! つい……」と言って、やっと僕の目から視線を、握り合う手と手を離した。彼女は顔を赤くして、両手を後ろに回して俯いてしまった。
そんな彼女の前から左に一歩ずれ、今度は大柄な男子生徒の前に立つ。
昨日みた顔……元陸上部員の三入だ。
「……彼女は知り合い?」
彼の隣にいる顔を赤くした一年生の女の子。彼女に咳払いをしていたのは彼だ。
「ん? 妹だよ。俺が《校外委員会》に入るって言ったら、なんと『あたしも!』だってさ」
三入は妹さんの頭に手を乗せ、ぐりぐりと彼女の髪をかき乱す。よく見れば少し吊り目なところ、気の強そうなところがとても似ている。仲の良い兄妹だ…。
「女の子が珍しいね、ありがたい限りだけど」
「あぁ、こいつはな、会長に片想い中なんだよ」
その発言に僕が目を丸くしていると、俯いていた妹さんが「うわあああ!」と言いながら兄である三入に飛び掛った。
「馬鹿兄貴ッ! なんてこと言うんだァッ!」
「なんだよ、本当のことだろ」
「ち、違うッ! 違うんですよ、会長! あた、私はただ……なんというか……会長の……その、会長を! そう! とても人として尊敬しているんですよ! はい!」
小柄なのに大きく跳躍して、三入の頭に飛び掛る様子をみて運動神経に問題はなさそうだと思った。
それに、尊敬してくれているとはありがたい。そんな感情に似合う男だと自分を評価できないのが残念だが、これからはみんなから慕われるリーダーたりたいとも思う。彼女の抱くような思いに答えることこそが、僕の果たすべき成長なのかもしれない。
「……ありがとう、嬉しいよ。三入さん」
彼女への二度目の礼。
兄の顔を両手でぐちゃぐちゃにしていた彼女はまた硬直し、彼から手を離し、床に足を戻すと、今度は「えへへ」とにやけながら俯いた。
そんな彼女に三入が横からチョップを入れる。それに抗議する三入妹。
二人を見ていると、やはり……思い出す。
僕は今は不要な感傷を振り払い、気丈な笑顔を保つ。
「二人とも、よろしくね」
「おう」
「はいッ」
そして兄妹の前を一歩ずれ、別の男子生徒の前に立つ。
「……君が来ると聞いたときは、正直驚いたよ」
僕がそう言うと、彼は照れ臭そうに笑って、へっ、と鼻を鳴らした。
先日、幼馴染み数名と校外へ飛び出し、そしてその幼馴染み全員を失い、学園に帰還した生徒がいた。
「……吉田くん」
それが彼、吉田だ。
「校外委員会みたいなことは、性分じゃないって言ってたけど」
「……俺は、お前について行くことにしたのさ。ただ、それだけだ」
「期待してるよ」
「安芸も俺を裏切ってくれるなよ」
「もちろん、善処するよ」
吉田に腕章を託し、固く握手を交わす。
僕や、友達、そして学園のために命を賭けるのが《校外委員会》だ。そこに所属する委員たちが、リーダーである僕に誠意と正義を求めるのは当然だ。僕は決してそれを裏切ってはいけない。この握手は、その誓いを体現したものだ。
「……みんなの活躍を、心から期待しています。学園のために、どうかよろしく」
それから残りの新入委員とも挨拶を交わして、彼らはさっそく今日から始まる《校外委員会》の訓練に向かった。
体力作り、筋トレを山城が指導し、全員で試行錯誤しながら銃の扱いを研究。
そしてしばらくの訓練に耐えることができ、山城に認められれば正式に校外委員だ。
今回集まってくれた七人は、僕と山城が《校外委員会》に協力してくれているのではないかと踏んだ生徒たちだ。
三入さんのような嬉しい飛び入り参加もあった。
これで、《校外委員会》の戦力は僕を含め合計12人。始めは野球部員7名と僕、山城、日向で結成された委員会だが、その日の内に日向を含む5人が死亡。戦力は半減したが、その後、三名が勇敢にも参加してくれ、そして今日で委員数は倍増した。
だがこれで戦力が十分とは考えられない。
やはり《校外委員会》の強化は急務課題だ。そのために必要な要素……それは……
◆
僕はそれから生徒会室にて、会長席に座り、腕を組んで思案を続けた。
そこに、甲斐と壱岐さんがやって来る。
「おはようございます」
「おはようございますぅ!」
彼らの早い……出勤に感謝しつつ、僕は天井を眺めながら、独り言のように呟いた。
「……うん、決めた。経済をつくろう」
「……え?」
「はい?」
僕が突然口にしたその言葉に、二人は素っ頓狂な声を出した。
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