第39限 第二回校外出動・往路
大人だけが消えた世界……
……そしてやがて、学園は国家となる
僕ら《校外委員会》が第一回校外出動で日向たちを失ってから五日。その日の朝日が顔を出してすぐ、僕らは総勢七名の委員で、輸送車と学園の通学バス、装甲車に乗り込み、第二回校外出動を開始した。先頭車両が上部ハッチに機銃の取り付けた装甲車、中央が通学バス、最後尾が輸送車の順で、僕らは市中を進んでいる。
「あいかわらず、だな」
僕は最後尾の輸送車の助手席で街を見渡し呟く。
あちこちで車が事故を起こしていて、瓦礫の隙間から変色した人間の手足が飛び出ていたり、『ぐぶうぅ』と不気味な唸り声を上げながら人間の肉を探し求める化け物『フラッド』の姿が見えたり、さながらゾンビ映画だ。
大人が化け物になったあの時は、ちょうど正午頃だったために元々、通行していた車両が少ないこと、桐可市の道路が大きかったことが幸いして、ぎりぎり僕らの車両群は道を進めている。
僕は学園の先生たちがイベント時に使っていたトランシーバーを懐から取り出し、先頭車両へコンタクトを取る。
「…こちら安芸です。先頭車両、問題ないかな」
『はい。フラッドの姿もまばらで……ーダダッー……進行に問題はないです』
返答の途中、銃声が聞こえた。装甲車の機銃がフラッドを狙い発砲したのだろう。進路を塞ぐ邪魔なフラッドを除去するのが先頭車両、装甲車の役割だ。
その装甲車が発砲した付近を、僕の乗る輸送車が通りかかると、右足の膝から下が千切れてなくなった男のフラッドが悔しそうに僕を睨み、地べたを這っていた。そいつは残った左足と両腕で地面を手繰り寄せるようにして必死にこちらへ向かってくる。だがこの輸送車の荷台には小銃を構えて後方を警戒する二人の委員がいて、彼ら射撃によって、そのフラッドは頭と首元が弾け飛び、バタリ、と地面に倒れ伏した。「うわぁ」とつい言葉が出て、バックミラーでその様子を見ていた僕は目を逸らした。
「そうか、よかった。マルソトまでもうすぐだから、予定通り頼むね」
『はい!』
そこで無線を切り、僕は街並みに視線を戻す。
ぼーっと、荒廃した景色ばかりを映す車窓を眺めていると、「変わっちまいましたねぇ」ととなりの運転手が話し掛けてきた。
「つい最近まで、この辺歩きながら帰って、マルソトのゲーセンに寄って、帰りにラーメン食ってって感じだったのに」
「ほんとにね。何ならゲーセンに寄ってみる?」
「……ゾンビシューティングゲームでめっちゃ低いスコア出たらどうします?」
「ああー、それは嫌だね。何というか、ご時世、的に」
そうしばらく後輩の委員と話している内に、商業施設『マルソト』が見えてきた。
道路沿いには「マルソト」と書かれた大きな看板があり、比較的大きな駐車場がある。
マルソトは桐可市国道沿いにある、ショッピングモールよりは小さく、スーパーマーケットよりは大きい商業施設だ。三階建ての建物で、食料飲料はもちろん、日用品も置いてあり、一階には百均や薬局、洋服店にケーキ店、酒屋などもあり、二階にはゲームセンターと、別棟には本屋とDVDショップがある。ショッピングモールのような大きさやテナントの豊富さはないが、市民が日々を暮らすには十分な施設だ。
駐車場に止まる車の数はフラッドの発生時間の関係でまばらで、職員駐車場すらガラガラだ。
「どこにでも止め放題だね」
「……どれでも盗み放題でもあります」
「……何だって?」
「だってもう誰も乗りゃしないですよ」
「でも……」
「……でも、なんです?」
「…………今度燃料やバッテリーは拝借しよう」
「了解です、ボス」
僕は再びトランシーバーを取り、全車両へ指示を出す。
「まずは装甲車、駐車場にいるフラッドを機銃で掃討して」
『了解』
「スクールバスはここでは使わないから、とりあえず作戦終了後、発進し易いように位置取りしておいて」
『はい』
「しばらくは車を降りずに、装甲車の仕事が終わるのを待つ」
『『はい!』』
それから僕の乗る自衛隊の輸送車と、桐可学園のスクールバスはひとまず入り口の近くに止まる。
装甲車の機銃で駐車場にいるフラッドを駆逐するためだ。上部ハッチから上体を出した委員が、そこに取り付けられた機銃のグリップを握る。そして運転手が目標近くまで接近すると、狙いを定めた機銃主が発砲。
それを五回ほど繰り返すと、不気味に唸る化け物に姿は駐車場から消えた。全てのフラッドが首の辺りを大きく損傷し、地面に倒れて血の海を作っている。
「……よし。全員、小銃を持って降車。作業に掛かる」
『はい』
安全を確保した駐車場で、輸送車は荷台を施設の入り口に付けるようにして停車。僕も車両を降りる。
「みんな、準備はいい?」
車両を降りた、山城も含む五名が僕を囲う。みんな緊張した、だが覚悟を決めた面持ちでいる。
「……ここでの仕事は、食料品、飲料水に、医薬品や洋服、とにかくあるもの全部をいただくことだ」
回収対象に優先順位はあるが、このマルソトですることは、役に立つモノ全てをかき集めて、輸送車に詰め込み、学園へ持ち帰ること。言うだけなら簡単だが、もちろん障害もある。
「……施設内には多くはないがフラッドもいて、戦闘は避けられないだろう」
フラッド、戦闘……それらを聞いて、みんなが小銃のグリップを握る力を強め、仲間を見やる。
「だけど大丈夫だ。きっと上手くいく。僕らはしっかり訓練をした。練習通りに、的を、狙うように、落ち着いて、やろう」
言葉を区切りながら、みんなの注意を引くようにハンドジェスチャーをしながら励ます。
「そして、作戦が終わったらみんなで乾杯しよう。……どうせなら、お酒の二本や三本くらい開けて、ね」
冗談を言うとみんなが少し口角を上げて、互いに視線を合わせる。
そして僕もコートの内側から拳銃を取り出し、安全装置を解除する。この五日間の訓練で、僕も拳銃の扱いには少し慣れた。
僕は円陣の真ん中に自分の拳を突き出す。それにみんなも拳を合わせてくれる。
「……行こう」
「「おう!」」
今、自分が握る拳銃を見て、思い出す言葉がある。これから戦いに向かう僕らを表したような言葉。
イギリスの哲学者バートランド・ラッセル曰く、
『戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ』
である。
僕らは正しさだとか、大義なんかのために戦うんじゃない。ただ、この世界に生存し続けるために、戦うんだ。
未成年の飲酒は違法です。
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