第38限 第二回校外出動・出発の朝
大人だけが消えた世界……
……そしてやがて、学園は国家となる
初の校外への偵察から、五日が経ち、早朝。
僕はグラウンドの朝礼台であぐらをかいて、膝で頬杖を突き、桐可市を囲う山々から顔を覗かせる朝日を眺めていた。世界がこうなってしまってから、朝というものが待ち遠しくなった。
これまで朝というのは、一日の始まり、学校の始まり、頑張りの始まり、とずっと眠っていたくなるようなものでしかなかった。しかし、今の世界の夜は暗すぎる。布団の中でボーと眺める動画も、友人とのくだらない通話も、不必要なほど明るい電球も、今はないのだ。
だから光が帰って来る朝というのが、今の僕には素敵なおまじないのように感じられる。
「安芸」
「うん?」
後ろから声が掛けられる。山城だ。
「荷物の積み込みが終わったぞ」
「分かった。みんなを集めて」
パンパンとお尻を払って、僕は立ち上がり、伸びをする。
……今日は、二回目の校外への遠征『校外出動』の決行日だ。
「よぉしッ! 校外委員全員整列ッ!」
山城の号令に、「おう」と返事をして委員五名が一列に並んだ。全員、今日まで五日間必死に訓練してきた。人数は少ないが、間違いなく学園の誇る少数精鋭の戦闘部隊だ。
彼らの右肩には黒く光る小銃が帯で提げられていて、腰には弾倉と、太ももには拳銃がホルダーに仕舞われている。灰色の学園の防寒コートを全員が纏っていることもあり、野球部員たちの精強な顔つきも相まって、まるで本物の軍隊のようだった。
僕は朝礼台から整列した総勢五名の委員たちの顔を一人一人眺める。
「みんな、今日までよく訓練してくれた。大切な仲間を失いながらも、誰も欠けることなく、全員が英雄のままでいてくれたことに、まずは感謝したい。……後から参加を決めてくれたサッカー部の二人もありがとう。みんな本当にありがとう」
一歩下がり、頭を下げる。本当に彼らには感謝してもし切れない。彼らがいるからこそ、僕らは希望を持てるのだ。
「自分のために戦ってくれる誰か」……この「誰か」になることを決断することは、簡単ではないだろう。一生、その「誰か」に守られる生きやすい選択肢があるにも関わらず、彼ら校外委員たちは、自分以外の多くのために命を掛けるのだ。これが英雄でなくて、何と呼ぶ。
「今回の目的地は、まずすぐそばのスーパー『マルソト』だ。ここで食料飲料、菓子や石鹸や衣服、そして医薬品、とにかく何でも収集する」
次に今回の校外出動に発つ《校外委員会》の仲間たちと朝礼台から任務を再確認する。
「そのために輸送車一台と、学園の通学バス、さらに機関銃の付いた装甲車も出す! 装甲車に邪魔なフラッドを片付けてもらい、後続に各車両がつく!」
全員、真剣な眼差しで話を聞いてくれた。
今、僕の前に並んでいるのは、第一回校外出動で自衛隊基地から生還した信頼に足る者たち。彼らがいなければ、学園は何も出来ない。ただただ、今ある食料を食い潰して、心中を待つだけだった。あんな不死に近い化け物と戦うのに、金属バットしか武器がない時によく立候補してくれた。本当に信頼に足る仲間だ。
「最後の目標は学園近くにある桐原中学校! 生存者の確認をし、いなければそのまま撤退。いれば救出する!」
この桐原中行きの任務は、言ってしまえば不必要な任務だ。ボランティアと言ってもいい。必ずしも、実行する必要はないのだ。
そして実際に戦いに赴く彼ら委員たちが、もし「いやだ」と言えば、僕は実施する気はなかった。ただ僕一人で妹だけでも助けに行っただろう。だが、彼らは「会長と部長に従う」と言ってくれたのだ。正義感と責任感の強い山城が真っ先に「俺は助けられる者を助けぬほど、薄情ではない」と言ったのが大きかったのだろう。
そして僕は壇上で大きく息を吸い込み、柄にもなく声を張り上げた。
「準備は出来ているか?!」
すると、何の指示もなく全員がザッと背筋を伸ばし、姿勢を正した。
つい最近まで普通の高校生だった身体には不釣り合いな、重く大きな黒い銃。
だが、もう扱う資格は十分にあるだろう。
「行くぞ! 全員乗車ッ!」
「「「おおっ!」」」
前回から間をおかず、僕たち桐可学園《校外委員会》は次の校外出動を開始した。
仲間を守り、他の命を救う旅に、僕たちは出掛ける。
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