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【受賞】ノアの学園~国父とよばれた高校生~  作者: 大塚 可修
第1章 ノアの大洪水
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第22限 自衛隊基地

大人だけが消えた世界……

……そしてやがて、学園は国家となる

 突如として現れた人喰いの化け物・フラッドから学園を守るための銃器を手に入れることを目的に、自衛隊の基地へやって来た僕たち。


 ゲートを突破し、僕ら《校外委員会》の面々は、頼りない武器である金属バットを片手に基地の建物内へ侵入した。玄関をくぐると、まず受け付けカウンターのあるエントランスのような場所に出る。エントランスと言っても、小さな町病院のような造りで、入って真っ直ぐ細い廊下が伸びていて、右手に壁をくり抜いたような受け付けがあるだけ。窓がないため、電気が点いていてもどこか薄暗い。


 駐車場から背後を取られるのを防ぐため玄関の扉は閉めておく。


「ここからは出来るだけ静かに。物音がしたら敵だと思って」


 僕の指示に、日向、山城をはじめとした仲間たちは頷いた。

 廊下にフラッドの姿はないが、基地が無人ということはないだろう。相当数が基地内に居るはずだ。警戒しながら、音を立てずに廊下を僕らは進む。


「……アキ、あれ」

「ん?」


 日向に小声で呼ばれる。

 彼が指さした方を見れば、右側に受け付けの扉に「管理室」と書かれたプレートがぶら下がっていた。


「ここかな」


 まず鍵を見つけなければならない。

 武器庫などに入るにはおそらくそれが必要になるからだ。鍵なら管理室にあってもおかしくはないが。


 受け付けのカウンター越しに管理室内を覗く。


「……あった」


 小さな小窓から光の差し込む部屋にはデスクがいくつかあり、奥の壁にはいくつもの鍵が並んで引っかかっていた。


 そして……


「それと、一匹……」


 犬のように歯を食いしばって唸る、血色の悪い人の姿をした化け物が部屋の中に一匹いた。体格のいい男の化け物で、迷彩服を着ている。


 頚椎マイクロチップに『ノアの方舟』プログラムという名のウィルスをインストールされ、凶暴化した人間……ベルンの言う『フラッド』である。


「どうする?」


 日向が僕に尋ねた。

 廊下の曲がり角に見張りを出し、残りの僕らで円になり作戦会議をする。


「そりゃ……殺るしかないよ」

「正面からやり合うのか?」


 脳が破壊され、自制や理性のない化け物・フラッドは、痛みを感じず自壊を恐れないため、人間の発揮し得る力以上の怪力を持っている。


「……なにも、ボクシングをするわけじゃないさ」


 そんな化け物と馬鹿正直に殴り合えば、負けるのは僕ら人間に決まってる。だが僕らはスポーツで勝敗を決するのではない。単純な命の奪い合い……殺した方が勝ちというルールもなにもない勝負をするのだ。


 僕は野球部の後輩に「あれ、貸して」と言って手を差し出した。


「は、はい」


 野球部の彼がバットと一緒に担いで来たのは、刺叉(さすまた)だ。学校に不審者が侵入したときに、教員が対処、捕らえるための、大きく長いフォークのような拘束具である。


「僕がこれでヤツの動きを封じるから、山城、悪いんだけど」

「トドメはまかせろ」


 互いに頷き合う。

 僕と山城が最も戦闘に慣れているため、これから否応(いやおう)にも戦いを強いられる《校外委員会》の彼らに手本を見せないといけないだろう。


 僕は足元に転がっていた手頃なガラス片を手に取り、カウンター越しにフラッドの向こう側へ投げる。


 軽く音がして、化け物はこちらに背を向け、音源の方へ歩き始めた。

 その隙をつき、僕はカウンターを乗り越え、駆け出す。


「ふっ」


 刺叉を化け物に突き入れ、壁に押し付けて動きを止めた。「ぐゔっ」と奇妙な声を上げ、迷彩服を着た化け物は壁に押し付けられ、じたばたと暴れる。


「今だ!」


 無防備に弱点である頚椎を晒す化け物に、山城は金属バットを薙(な)ぐように叩き込む。


「うらぁ!」


 山城のバットは、勢いに乗って化け物のうなじに直撃した。筋骨隆々な山城の腕力をもって放たれた横凪の強烈な一撃は、その兵士のフラッドの首をへし折り、「く」の字に曲げる。


『ぐがあ……』


 力のなく声を出したフラッドは、その山城の金属バットによる一撃でマイクロチップを破壊され、だらりと腕を下げると暴れなくなる。


 刺叉を彼から離すと、化け物はドサリと床に崩れ落ちた。


「すげぇ」


 その様子を見ていた後輩たちは感嘆の声を漏らす。

 なぜか日向が鼻を擦り、威張る。


「ふふん。まぁな?」

「いや、あなたじゃないです」


「なんだよ、俺は場を和ませようと……」

「いや、そういうのいいです」


「……冷たくね?」

「いや、そんなことないです」


「…………」


 そんなやり取りをよそに、僕は必要と思われる鍵を探す。手に取ったのは「銃器保管室」と書かれた札のついたものと、「弾薬庫」の鍵、それと車両のキーだ。車両のキーには細かな番号が振られていてどれがどの車両にハマるのか分からないので、とりあえず全部持っていく。


「山城」


 ポケットにキーカードの束をまとめてつっこみ、振り返ると、山城は山城で仕事をしていた。


「見ろ、安芸。基地の見取り図だ」

「ほんと?」


 日本国旗や旭日旗の飾られた壁に、一枚の豪華な板が打ち付けられている。基地内のマップのようだ。全四階建ての構造をしている。目的地は鍵を回収した「銃器保管室」という場所だが。


「銃が置いてあるのは……一階……すぐそこのようだ」

「よし急ごう。いつまでも金属バットであんな化け物と戦っていられない」


 僕はなぜか元気がなくなっている日向と、真顔の後輩たちを連れて、慎重に基地内を進んだ。


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