第17限 校内掃討戦
大人だけが消えた世界……
……そしてやがて、学園は国家となる
僕らは二階の階段登り切りくらいのところで、バリケードを再構築していた。
階段を登り切った場所を半円で囲むように机を壁状に並べている。階段を塞ぐバリケードを解体し、ここでウッドデッキの化け物たちを迎え撃つためだ。
階段を半円上に囲うバリケードの後ろには、箒を持った男子生徒十数人が配置されている。
「……よし、みんな準備はいいか」
みんなの顔を見渡す。緊張しているのは目に明らかだし、拭い去れない恐怖が顔を汗で濡らしている。
そして今回の作戦の要・山城はというと、机製のバリケードの真ん中で、金属バットを握って、目を閉じている。彼は息を長く吸い、そして短く吐き出すと、キッとした目つきで前を向いた。
「よいぞ」
うん、と僕は頷き、僕はさっき山城と塞いだ階段のバリケードを固定する紐を外していく。そしてバリケードを構成する机と机同士の固定が全て外れると、バリケードはぐらぐらと揺れ始めた。
「ふっ」
そして僕は思い切りそのバリケードを蹴とばす。
すると、派手な音を立ててバリケードは崩れ、机がバラバラになって階下へ転がっていく。
『んぶッ』
『あがああああッ』
その音に反応して、ウッドデッキにいた先生たちが、こちらへ一斉に振り向いた。彼らは焦点が合っていなかったり、白目を剥いたりした双眸でウッドデッキに崩れ落ちた机の山を不思議そうに睨む。
作戦の第一段階は、彼らをこの狭い鉄階段に引き込むことだ。
「日向」
「おうよォ!」
名前を呼ぶと、制服を着崩した不良・日向が一歩前へ出た。彼はスゥーと息を吸い込んでから、その口元に、拡声器を当てた。
「こっち見ろ化け物教師どもがああああッ! そこのマヌケ面のテメエだよ北藤ィィッ! あ、お前もだコラ、谷田ァッ! テスト簡単にしやがれェェェェッ! このクソセンコーどもがァァ! 今日も今日で赤点の答案ばっか返しやがってよォォォォッ!」
……僕を助けるときに日向が化け物の口に突っ込んでいた紙の束。あれ、赤点の答案だったのか。
と、いうことはともかく、日向がそう悪口を叫ぶと、まるでその侮辱の意味を理解したかのように化け物たちが机の山から視線を日向へと移して、睨んだ。
『ぐ、ぐぶッ、ぎぎぎ……』
『がああぁァァ』
『ごっ、ひゅッ……ぎィ』
そして、洋画のゾンビのように、先生たちは聞くに堪えないどろどろとした声を上げながらこちらへ殺到し始めた。
「うっへええ、来やがった来やがった、おっかねえなああ!」
日向はそう言うと舌を出しながらバリケードを器用に乗り越え、すぐさま退散。こいつの逃げ足は昔から光るものがあるな。
「じゃあ、山城」
「……うむ」
「あとは、任せたぞ」
「…………うむ」
山城は覚悟を決めたように言って、足を踏み出し、二階へ上がる道をふさぐようにバットを突いて仁王立ちした。
「……来い」
『ンンンンンゥ……ブガアアアァァァァッ!』
鉄階段の一番そばにいた、痩せた中年の教師が、そんな山城を標的に真っ先に駈け出した。それに他の先生たちが続く。その痩せた化け物は女子のような内股で不器用に、しかし高速で、散乱した机の山を乗り越え、そして鉄階段を登ってくる。
計画通り、この細い鉄階段で化け物たちは渋滞し、一匹ずつしか登って来れていない。
『ぶが、ぶがあ、ぶがああああああァァ!』
血交じりの泡をまき散らしながら鉄階段を登ってくる化け物。
それを山城は見下ろす。彼は威嚇するような化け物の動作にも物怖じしない。
『ガアアァァッ!』
両者の距離は徐々に縮まる。そして、階段を登る化け物の頭が山城の足元ほどのところまでやって来たとき、山城がバットを振り上げた。
「……ふっ」
大上段に振り上げられたバット。山城は短く息を吐き出すと、それを、思い切り振り下ろした。
グジュ、という柔らかい何かが潰れる音と、ゴキッ、という固いものが砕ける音がした。どちらもとても耳当たりが悪く、初めて聞くような音だった。
頭頂部を全力で振り下ろされた金属バットで殴られた化け物は『ぎゃ』と呻いて、殴られた勢いでその顔面を階段の角に強打する。
『ぶッ、ぶぅッ……』
もちろん、それでも先生の姿をした化け物は立ち上がる。不細工に嗚咽しながら、肘をついて何とか上体を起こそうとしている。階段の角でぶつけた鼻は折れて血が垂れ、前歯がごっそりとなくなった歯茎をこちらへ見せて、微笑みかける。
ベルンは、首のマイクロチップがフラッドの脳の代わりに働いていると言っていた。僕らも頸椎に埋め込んでいるこのマイクロチップは、視覚や聴覚などに接続することで今まで不可能だったことを可能にしてきた情報端末だ。それが頸椎から、体中に電気信号を発し、神経を介して命令を筋肉に伝える。だから彼らにとって脳は機能する必要のないものなのだろう。
つまり、破壊するのはゾンビ映画の定番である頭部……ではなく、首ということだ。
「……トドメだ」
山城はそう呟くと、もう一度バットを振り上げた。
一度頭を下げさせることで狙いやすくなった頸椎目掛けて、山城は再びその剛腕でバットを振り下ろす。ビュン、と風を切る音がして、化け物の頸椎に重い一撃がお見舞いされた。
『ガアッ……ァが、ァ、ァ、ァ……』
再びゴッという嫌な音がして、そして一緒に、バチッという何かの弾ける音も響いた。見れば、化け物のうなじが皮膚越しに内側から淡く、青く発光している。マイクロチップの光だろうか。それは一度大きく輝くと、すぐに点滅を始める。やがて点滅は感覚の長いものになって、やがてその首筋から光は失われていった。
その光に呼応するように、化け物も動きを止める。電池の切れたおもちゃのように活動を停止した化け物は、体から力を失って、ずるずると鉄階段を滑っていって、もう、二度と、動くことはなかった。
何をしても死ななかった、あの化け物を、殺した。
「……やっぱり、マイクロチップが弱点なんだ」
予測の当たった安心も束の間。すぐさま死んだ仲間の躯を乗り越えて、次の化け物が鉄階段へやってくる。今度は大所帯でやって来たが、やはり狭い階段という性質上、渋滞を起こして、上がってこられるのは一匹だけだ。
狭い鉄階段で、僕らを齧ってやろうと近づいてくる化け物たちは列を作らねばならない。だが、今の教師たちに理性はない。国語教師の姿をした化け物が先頭を進んでいたが、後ろの化け物が彼の頭を掴み、後ろへ引き倒した。仲間同士仲良くするという考えはないらしく、髪を引き抜かれた教師は負けじと別の化け物の足首を掴んで握り潰す。足首が潰されてなくなった教師は「ぐぎぎ」と呻いて、バランスを失い、前に転倒。額を階段の段差の角に強打し、そこが衝撃で大きく陥没した。額が凹んでも、足首がなくなっても、化け物は……フラッドは生きている。
やがて一匹が山城の元へたどり着くが、そこで待っていたのは、振り下ろされるバット。
イレギュラーな動きをする個体が現れれば、ウッドデッキに面した窓で待機していた和泉がアーチェリーの弓を放ち、動きを遅くさせる。
そういった掃討作戦を、僕らは数時間にわたって続けた。
挿絵は僕がスマホで描いたものなんですが、いかがでしょうか。イラストの練習だとか勉強だとかはしたことないので雑な線だけの絵ですが、好評なようでしたらこれからもゾンビ絵くらい描いてみたいと思います。
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