5.強襲―17
リュウは目を覚ました。随分暗いな、もう夜か。最初に思ったのはそれだった。
誰かに声を掛けられている気がする。ここどこだったっけ。…ああ、そうだ。ヒガシノクニに帰ってきてたんだったな。確か江城祭りで、エミが浴衣を──。
「─エミっ!」リュウはがばっと体を起こした。いや、起こそうとしたが全身に激痛が走り、呻いて身悶えしただけだった。
「まだ起きてはならん。じっとしていろ」誰かに優しく押さえつけられ、為されるままになる。
見ると甲冑姿の男だった。それであの時差し出された手を思い出す。
目の前の男はもじゃもじゃとした髭を蓄えていた。あの時の若武者ではない。あの人はどうなったのか。考えても仕方はない。
頭の下から振動が来る。ここはどこなのだろうか。そういえばガタガタとうるさい。
「エミは…?」何とかそれだけ口から溢す。酷く弱々しい声で、自分でも驚いた。
辺りでは人の話す声や呻く声が飛び交っていた。それでどうやら自分が今、地下のトロッコに乗っていることに気が付いた。
「エミ?この娘のことか?」
その返答を聞き、またがばっと体を動かした。まだ動いてはならん、とまた押さえつけられるが、全身が痛みに襲われる中、ちらりと見た隣には少女がいた。
薄ぼんやりとした灯りの下、暗い赤色の浴衣が見えた。心なしか薄汚れて、生地が所々擦り切れているように見えた。
「エミ…っ!…エミはっ、どうしたんだ…っ」痛みに息を絶え絶えとさせ、それでも確認せずにいられなかった。
「案ずるな。息はある」髭もじゃの侍はそう言ってリュウを寝かしつけた。「ただ、お主よりも些か状況は良くない」
「え…っ」
リュウの言葉を失った様子に慌てたのか、髭もじゃは早口になる。「ああいや、見た限り怪我らしい怪我はしておらん。しておらんのだが、衣がぼろぼろになっていてな。他の御仁が掛けた布があるものの、着替えはなくてな」
リュウは寝ながら首を回してエミの方を見る。仰向けに寝る彼女は目を閉じたまま身動ぎしない。上からくすんだ黄色い布を掛けられているが、その下から赤い浴衣が覗いていた。浴衣は少し傷んでいるように見えたが、髭もじゃが狼狽えるほどにも見えない。
その傍らには見知らぬ女性が看病するように座っていた。布を掛けてくれた人かもしれない。エミちゃんて言うんだ、と言って微笑みを浮かべ、エミのお腹辺りをとんとんとしていたが、貨車の縁に掛けられた灯りが、女性の顔に憔悴の色を浮かべていた。
「しかし、お主が飛んできた時は驚いたぞ」髭もじゃは安心させるためか話を変えた。「空から急に落ちてくるのだからな。そこの娘はお主を庇うようにしていた。そのせいか分からぬが、衣の背中の方が破れてしまっていてな。まぁ、傷はなかったのだが。状況が状況なのでな、避難者の者らと協力してお主らを運んで地下のトロッコへ逃げ込んだわけだ」
「トロッコ…」礼を言わなければならないと思ったが、上手く口が動かない。そうしている間もトロッコは地下道を駆け抜けていく。




