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5.強襲―16

 「慎重にな。触れたら洒落になんねぇから」同僚が緊張した面持ちで言ってくる。もう腕捲りは止めており、スーツの上着もすっかり羽織っていた。

 「言われなくても分かってるよ」そう返しながらも、手に持つトングは震えていた。


 黒いもやもや。これに触れたら死んだも同然だ。この国の連中はどうやってこれを国内に持ち込んだのか。そんなどうでもいいことが頭を過ぎる。

 駄目だ、集中しなければ。気持ちを改めて、黒いもやもやの中心部分に狙いを定める。掴めるのはその部分だけ。上手く掴めずに落としてしまったら大変なことになる。

 おいモタモタすんなよ。同僚の発破に意を決して、トングを開いた。



 「よし、これで任務完了」同僚が軽やかに言う。手に持った金属製の容器を楽しげに振った。すると中からカランカランた音がした。

 「あんまりはしゃぐなよ、また落とすぞ」

 トングでその容器に入れる際、一度滑って落ちた時には、酷い悲鳴を上げていたのに、喉元過ぎれば何とやらか、上機嫌に容器を振り回していた。


 「さ、帰ろうぜ。これで今度の監督員はこの俺かな」

 「馬鹿な。何でお前が選ばれるんだよ」

 「そりゃあよ、この卵俺が見つけて─」


 同僚の軽口がぴたりと止まった。どうしたのかと思うと前方を見て眉を潜めている。その視線を追って見ると、帰りの道中に男が二人立ち塞がっていた。


 奇妙な二人だった。色白の肌。灰色の目。高い鼻。逆三角形のような顔。その顔が二つ。瓜二つの男が、同じ背広姿で立っている。

 「何だこいつら。双子、か?」同僚はそう言ってこちらを眺めてきた。

 確かにこちらも同じようなものだ。坊主頭にサングラス、お揃いの背広。仲良し兄弟のように頭から爪先まで揃えてある。けれど当然ながら顔も違うし、身長も体格も違う。

 だが、目の前の二人は見分けがつかないほどそっくりだった。違うのは額の横に書いてある、黒い模様くらいだ。


 「何か用か」とりあえず問いかけてみる。東の連中には見えないし、西の連中とも格好が違う。所属も分からない。

 双子のような二人と、兄弟のような二人が向かい合っている。何とも変な状況だなと、頭の隅で思った。


 向かって左側の男が腕を上げた。同僚の持つ円柱状の黒い金属製の容器を指差す。

 「それは何ですか」

 純朴そうな男の声がした。初め、それが目の前の双子から発せられたものだと気付かなかった。あまりにも似つかわしくないからかもしれない。


 「…あ?これ?教えるわけねぇだろうが」ワンテンポ遅れて同僚が言った。こいつにも予想外の声だったに違いない。

 双子の右側の男が一歩踏み出した。だから、直ぐ様懐に手を入れ、拳銃を構えた。「動くな」

 拳銃を向けられた男は、従順にも立ち止まった。これが何か分かっているらしい。が、目の焦点は明後日の方を見ている。この状況で何を見ているのか見当も付かず、気味が悪い。


 「お前ら何処のものだ」得体の知れない双子へ質問を投げかける。銃で脅している時点で対等な対話とは言い難かったが、気を遣う必要も感じなかった。


 その時、どこかでピピッという音がした。何の音だろうか。素早く辺りを見渡して見るものの、他に変わった様子は窺えない。

 すると、双子が息を揃えて発声した。

 「尋問の仕方、初心者編をインストールしました」


 「……は?」今度はこっちが同僚と声を合わせた。

 双子の片方の目が、まっすぐにこちらを見てくる。二人揃ってこちらに足を動かし始めた。

 「動くなっつってんだろ!」拳銃を構える。その手が少し震える。


 「貴方のお名前を教えて下さい」双子の片方が言った。

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