3.西の邦の王―10
「…お誉めいただき身に余る光栄に御座いますが…はて、何が上手いと…」
「まぁいいじゃないか、じゃあ帰ろうか」
ネネは怪訝そうに麿眉を顰めた。けれど天子はそれを気にも留めない。その会話を聞いてか宮司が訊ねた。「天子様、もうお帰りになられるので?お調べ物はもう宜しいので?」
「うん。もういいよ。大体分かったし。それにこの程度のものを放置してても、西の国には何の脅威にもならないよ」
そう言って天子は落ちてひしゃげた御輿の方へ歩み寄った。「随分酷く壊れてしまったなぁ。まぁいいか、また新しいの作れば。それより、担ぎ手の人達はどこ行ったかな」
「…確かに、天子様にとっては取るに足らぬものかもしれませぬが」
「そんなことはないよ。彼らも僕の国の民だからね。連れて帰るよ」天子はそう言って辺りを探すように見渡した。
「いえ、そちらのことではなく…て、え?あの者共をお許しになられると?天子様を捨て置くような輩共に御座いますが」
一体どの口がそんなことを言うのだろうね。天子は冷たい目を宮司に向けた。「僕の意向に反対なの?」
すると宮司は急いで平伏した。「いえ、決してそのようなことはっ!」
その宮司の姿に天子は溜め息を吐く。
すると少し離れた木々の影がもぞもぞと動いた。見ると、先程逃げ出した担ぎ手達だった。今の会話を聞いて出てきたのかもしれない。
「おーい、帰るぞー」天子は彼らの方へ手招きした。
担ぎ手達は互いに顔を見合わせた後、ぞろぞろと四人連れだってこちらに駆け寄ってくる。はて、四人だったか。人数までは覚えていなかった。
担ぎ手達は天子達の目の前まで来ると、そのまま揃って土下座した。
「申し訳ねぇ天子様っ!俺達逃げちまって!」
そんな彼らの頭上で天子は優しく微笑んだ。「そんなことはいいよ。君達に戦闘は期待してなかったから。それより、僕じゃなくてネネに謝らないと。あの御輿に乗ったままだったんだから」
すると彼らは酷く驚いた様子で目を丸くした。そしてネネの方へ向き直り、また思い思いに頭を下げた。
「奥方様が未だお乗りになられてたんで!?申し訳ねぇ、奥方様っ!」
ネネはその様子を少し不機嫌そうに見ていたが、やがて諦観した様子で口を開いた。
「天子様が赦すと仰せになられているのに、妾の申すことはありません」
ネネの言葉に四人は呆然としていた。だから言葉を掛けてやる。
「許してもらえて良かったね」
すると四人は目をぱちくりとし、再び頭を下げた。「ありがとうございますっ!」
「天子様」宮司が水を差してくる。
「山根くん、まだ何かあるのかい」
「いえ、その者達の処遇に異は御座りませぬ。ネフィルのことに御座ります。天子様のお力さえあれば、斯様な悪霊は国難とは為り得ぬと重々承知いたしております。しかし、此度のように天子様が留守の際、ニシノクニにネフィルが現れぬとも限りませぬ。その際、この者達のように国の民は恐らく無力であります。そのような際に─」
「分かった分かった。山根くんは回りくどいんだから」天子は小指で耳を掻いた。
「じゃあ、あれの発生源を探して潰すってことでいい?」




