3.西の邦の王―11
天子は指をぱちんと弾いて鳴らした。するとすぐ近くの大人二人分程の空間が歪に揺れた。
そしてそれがそのまま人の形になる。一瞬のうちに、誰も居なかった所に男が二人立っていた。筋の通った高い鼻、磁器のような白い肌、色の抜けた灰色の目、坊主頭には短い金色の髪が生えていた。
それが二人分。同じ顔、同じ背丈に御揃いの黒い背広を着ていた。ネクタイの柄まで一緒。
ただ、唯一違うのは、左のこめかみに書かれた数字だった。黒いアラビア数字で一人にはA0011と、もう一人にはN0874と表記されている。まるで墨汁で悪戯書きをされたような有り様だ。
「これでいい?」天子はしれっとした顔で、宮司に振り返った。
宮司は口をあんぐりと開いたまま、金縛りにあったように固まっていた。宮司だけではない。その場に居た担ぎ手達もネネも、揃って同じ表情を作っていた。
やがて金縛りの解けた宮司が口を開いた。「て…天子様…?この者達は、一体…」
「これ?…んー、何て言うか、使い魔?みたいな?」
「ツカイマ、というのは…」宮司はこわごわと首を傾げる。
天子は溜め息を吐いた。こういうのが一番面倒だ。こちらの言葉が伝わらない。再現性を高めるためにそう設定したのだろうけど、こう融通が利かないのは直せないものか。
「えーっとねぇ…」とは言え、文句を並べても仕方がない。これが仕事なのだと割り切るしかない。「そのー、あれ……式神?そう式神。…式神は分かる?」
すると宮司は表情を明るくした。「はは、それならば。嘗て陰陽道にて使役されたと云う鬼の類いでありましたか。…この者達が、それであると?」
「そうそう。そんな感じのやつ」天子はうんうんと頷く。「こいつらに調べさせるから、それでいいでしょ」
「はぁ…」
宮司は突如現れた男二人を眺めて途方に暮れたような声を出したが、やがて天子様の御心のままに、と平伏した。
これで一段落だな。天子は男二人を見上げた。こいつら、一昔前のロシアの大統領みたいな顔してるな、とどうでもいいことを思う。
「ねぇ、じゃあそういうことだから。データは送らせるから、調べて潰しといて」二人にそう声を掛ける。
すると、畏まりましたと、顔に似合わぬ日本語が返ってくる。
天子はくるりと踵を返すと、配下の者達に声を掛けた。
「じゃあ帰るよー。飛んでくから近くに来てくれる?」
ばらばらと、男達と女が一人、天子の下へと集まった。すると彼ら全体を包むように、空間がぐにゃりと曲がる。
「あーそだ。報告は随時送ってね」天子は最後に、残った男二人にそう言った。そして他の人間共々、霞のようにきえた。
手入れがされずひび割れた、荒廃した林道に、ロシア人風の男が二人佇んでる。彼らは置き去りにされた鋼鉄のように、じっと動かずに居た。
やがて何処かでピピッと電子音が鳴り、次の瞬間には二人の男は、天子らと同じように姿を消した。




