4-2
この話は昨日投稿した4-2話を改変したものとなります。削除した話と内容が違うことをご了承ください。
削除、改変理由については活動報告にて記載しております。
私の不手際にて混乱させてしまい申し訳ありませんでした。ぜひ改めまして4-2話をお楽しみいただければと思います。
「アルビンも買い物?」
「ええ。今までエボルシリーズの討伐へ行ってまして。物資が少なくなってきたので補充に来たのですよ」
彼は何でもないことのように言っているが、エボルシリーズというのは魔物の中でもレベルが違うものにつけられている名前だ。
突然変異種とでも言えばいいのだろうか。
例えば豚のような頭を持つ人型の魔物であるオークで言えば、桁外れの統率力と戦闘力を発現した個体をエボルオークと呼ぶ。
ゴブリンであればエボルゴブリン。
蛇の魔物であるナーガであれば、エボルナーガと呼ぶ。
なぜ発現するか等の理由は分かっておらず、故に突然変異種と言われているのだ。
これまた恐ろしいのは、エボル化するとどれほど弱い種族であろうが最低でもBランクの魔物になるという点。
新人冒険者がただのゴブリンと間違えて襲い掛かり、返り討ちに遭うと言う話は騎士団でも聞いたことがある。
「いやぁ、エボルオーガはAランクというだけはあって歯応えがありました。とはいえ半日以内に終わりましたけどね。レイさんは確か休日でしたか」
「ん。だからデート中」
レイは得意げに言う彼の言葉を流しながら、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
普段なら純粋に羞恥などで心臓が跳ねるのだが、この状況に置いては別の方向に跳ねてしまった。
アルビンが親の仇を見るかのような顔で俺を見ている。
レイと同じレベルとまでは行かなくても、Aランクの魔物を倒せる冒険者に睨まれるとここまで体が委縮するのか。
「貴様、テオと言ったな。この前聞きそびれたが、一体貴様は何者だ。なぜレイさんとそれほどまでに親密にしている?」
「お、俺は……」
俺は――何だ?
言われてみれば、俺はレイにとっての何者に当たるのだろうか。
今の状況を鑑みるに、俺自身が抱いている印象としては――――。
「えっと……ヒモ?」
「っ! 貴様ぁぁぁあ!」
アルビンが剣を抜いて襲いかかってこようとする。
しかしすぐさまレイが俺の前に立ち、その襲撃を阻んだ。
「どいてくださいレイさん! その男はあろうことかあなたを金づる扱いにしたのですよ!」
「違う。今のはテオの言い方が悪かっただけ。ちゃんと働いてもらっている」
「働いてる!? 一体こいつが何をしていると言うんですか!」
「家事」
「か、家事!?」
予期せぬ言葉に面食らったのか、アルビンはふらりと後ろに倒れそうになり、それを慌てて仲間たちが受け止める。
確かに言い方が悪かった。
萎縮するあまり変な言葉が出てしまった。
とはいえ、俺としては報酬が高すぎてヒモと呼ばれても仕方がない生活をしていると思っているけれど……。
「あのですね、レイさん。俺だって家事くらいできます! そんなどこぞの馬の骨とも分からない男よりも、俺を頼ってくれれば――」
「テオは、私の家を綺麗にしてくれたよ?」
「あ、あの屋敷を!?」
再びアルビンは面食らい、後ずさる。
それと同じように、後ろに控えていた彼の仲間たちも驚き、ざわめきだした。
『あのゴーストハウスを……?』
『何かの間違いじゃないか? あんなところ掃除できるやつなんていねぇだろ』
『ああ。明らかに燃やしちまった方が早かったよな』
ひどい言われようだ。
ちょっとレイが涙目になっている。
「……なるほど。貴様はつまり家政夫ということだな?」
「あ、ああ……そうとも呼べると思います」
「ならば――俺と勝負しろ」
「は?」
アルビンは俺に対し指を突きつけてきた。
必死だ。目が必死すぎる。
「レイさんの家政夫としての役目をかけて、俺と戦え!」
「な、なんでそうなるんですか?」
「うるさい! レイさん! もし俺がこの男よりも家事ができたら、俺を側に置いてもらえませんか!」
彼はその必死な形相を、レイへと向けた。
しかしレイは一切表情を崩さず――――。
「それは、無理」
そう言い放った。
「何故だ! 家事ができるのであれば、別にその男じゃなくてもいいんじゃないですか!?」
「そういうわけじゃない。テオだからお願いしている」
「納得いかない! 納得がいきません! 俺の方がずっとあなたと長くいた! 信頼関係は俺の方があるはずだ!」
もはや、アルビンの顔は怒りに染まりきっていた。
しかし、レイはそんな彼の様子を前にして顔色一つ変えない。
やがて燃料切れを起こしたかのように、アルビンは道端に膝をつく。
「こんな男のどこがいいんだ……家政婦ならいくらでも雇えるはずだろ……」
うわ言のように、彼はブツブツと言葉を吐き始める。
さっきまでの得意げな顔は、とうに何処かへと消えていた。
今は、まるで欲しいものが手に入らない子供にしか見えない。
「あーあー……なんか騒がしいと思ったら、みんなうちのファミリーの連中じゃないの!」
そんな中、突然聞き覚えのある声が俺たちへと近づいてくる。
顔を上げてみれば、そこに立っていたのはもう一人のSランクこと、カノン・ポートリフであった。
「カノン? 帰ってきたのか」
「ええ。ちょうど昨日依頼が終わって、今朝帰ってきたの。ところで、この騒ぎは何?」
カノンが現場を指して言う。
「ん、アルビンが癇癪を起こしている」
「はぁ、またなのね」
――――また?
「あんた、そろそろ幹部としての自覚を持ったら? みっともないわよ」
「か、カノンさん……ですが! レイさんの周りに馬の骨が――」
「だーかーらー! レイの周りに男が近づくたびにそうやってうじうじ文句言うのをやめろって言ってんの! 自分たちで勝手に幹部なんぞ名乗ってるなら、親に当たるレイにとやかく言うな!」
「だけど! 俺たちのレイさんが!」
「いつレイがあんたらのもんになったのよ!」
「ヘブっ!」
カノンの前蹴りが、アルビンの顔面にめり込む。
次の瞬間アルビンの体が高速で吹き飛び、近くにあった商店街の屋台に突っ込んだ。
砂埃が舞い上がり、誰かの悲鳴が響く。
「な、何してんだカノン!」
「頭の悪いガキにはこうして教えてやんないとダメなのよ! ほら! アルビン! 立ちなさい!」
何を無茶な――――。
そんな風に思った矢先、屋台の残骸が派手な音とともに吹き飛ぶ。
「嘘だろ……」
瓦礫をかき分けて出てきたのは、口から血を流すアルビンであった。
彼はその血を手で拭うと、息を吐いて拳を構える。
「街中で手を出してくるってことは……分かってますね?」
「もちろんよ。面倒臭いあんたらを統括するために、これはあたしが考えたルールなんだから」
同じように、カノンも拳を構えだす。
まさかこの二人、こんな街の中で戦うつもりなのだろうか。
「やっぱり、アルビンの天敵はカノン」
「い、一体どうなってるんだ?」
「ん、テオには言ってなかった。私たちファミリーの掟」
「掟……?」
「私はファミリーの親だけど、正直無関心。だから勝手に幹部になってたカノンとアルビンに、ファミリーの決め事は任せてる。その中で、揉め事の解決に必要な手間をできる限り省くために用意された掟が、完全実力主義。喧嘩して、敗者が勝者に従う」
「……身も蓋もないな。けどこんな街中であんたらみたいな化け物がやりあったら、それこそ大災害になるんじゃないか?」
「大丈夫。見てれば分かる」
俺は再び向かい合う二人へと視線を戻す。
すると、二人は突然互いに拳を繰り出した。
両者とも頬に拳をめり込ませながらも、逆に相手の頬へと拳をねじ込む。
「よいしょぉ!」
競り勝ったのは、カノンだった。
再び吹き飛んだアルビンは、別の屋台を崩してしまう。
砂埃が舞う中、その屋台の主である男が慌てたように表に飛び出してきた。
こんなことに巻き込まれ、男もたまったものではないだろう。
しかし、男の反応は俺の思っていたものとは違った。
「おいおい! レイファミリーの喧嘩が始まるなら言ってくれよ! 今日は酒を切らしてんだよ!」
男は興奮した様子で、店の中で倒れているアルビンの腕を引く。
無理矢理立ち上がらせられた彼の背中を押し出すようにして、屋台の男は場を煽るかのように声をあげた。
「ど、どうなってるんだ?」
「周りからすれば、うちのファミリーの喧嘩は見せ物なんだって。終わり次第修繕費とかは払っているんだけど、喧嘩中に壊れた店は建て直した後に売り上げが増えるって言ってた」
「そんなことがあり得るのか……でもこれだけ暴れれば、巡回中の騎士団が駆けつけるんじゃないか?」
「騎士団は騒ぎが起こると近づいてこなくなる。手を出しても怪我するだけなんだって。それに、街のみんなも喜んでるから、止めるに止められない」
――思い返してみれば、確かに巡回中明らかに巡回ルートから外れることが何度かあった。
ブラムの気まぐれとばっかり思っていたが、こうした理由があったのか。
「だけど、このままだとアルビンが無事じゃ済まないんじゃ」
「きっと大丈夫。アルビンはAランク冒険者。柔じゃない。カノンほどでは、ないけれど」
そうして話していると、突然一際大きな歓声が商店街に響き渡った。
大変申し訳ないのですが、これ以上の混乱を防ぐため削除済みの4-2話に対しての感想は失礼ながら削除させていただきます。何卒ご了承いただければ幸いです。




