4-3
前回(4-2)についてですが、内容についての問題が多く大幅に内容を変更しております。
お手数ですが、そちらをご確認していただいた上で4-3を閲覧していただくことで、話の内容が繋がるようになっています。この度は読者の皆様に大きな混乱を招いてしまい、大変申し訳ありませんでした。今後はこういったことがないようにしていきますので、応援していただけると幸いです。
「まだだ!」
アルビンがカノンへ向けて飛びかかる。
この喧嘩、見ている限りはかなり一方的だ。
どれだけアルビンが飛びかかろうが、カノンはそれを軽くあしらってしまうのだから。
「甘いのよ!」
カノンは身を屈め、宙に浮く彼の足を払う。
バランスを崩したアルビンが背中を地面に打ち付けるのと同時、そこにカノンが馬乗りとなり、顔面に拳を突きつけた。
「……あたしの勝ちね」
「くっ……参り、ました」
アルビンが言葉にて完全に降参した。
すると、周囲から歓声が沸き上がる。
「よし! やっぱカノンだよな!」
「くっそー! 大穴狙ってアルビンに賭けたってのによぉ!」
かなり商店街は散らかってしまったというのに、店の主人たちは賭け事で盛り上がっていたようだ。
何というか、たくましい。
いや、おそらくはこういったことに慣れているだけなのだろう。
「というか、カノンって素手でも強いのか。俺はてっきり彼女は魔法使い寄りなのかと思っていたけど」
「ん、確かにカノンは魔法が得意。私は苦手だから、羨ましい。でもカノンは肉弾戦も弱いわけじゃない。Aランク相手ならそう辛くないはず」
「……住む世界が違うな」
Aランクだって竜とサシで戦えるだけの力を持っているはず。
それをこの二人は片手で捻ることができると言うのだ。
改めてSランクという格の違いを感じる。
格の違い――。
自分の中でその部分に思考が行き着くと、途端に気分が揺らぐ。
確かに俺は、レイの所有物として側にいることを決めた。
しかし、周りから見たらどれだけ不自然に映ることだろう。
アルビンの言う通り、俺よりもふさわしい人間は山ほどいるはずだから。
「これでもう、テオについては何も口出ししないようにしなさいね」
「っ……! なぜ――なぜあの男がこれほどまで贔屓されるのですか! 確かに俺はレイさんに憧れ、勝手に後ろをついて歩いているだけだ! それでも! 彼女に尽くしたいという想いは誰にも負けないつもりです!」
アルビンは痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
そして、俺を睨みつけた。
「カノンさんや、それと並ぶような者であれば俺だって文句は言いません! しかし! あの男は何なのですか!? どう見ても不釣り合いだ! なぜ……なぜ、そのような無名の男が選ばれるのだ……」
俺はアルビンと正面から視線を合わせる。
ああ、そうか。
彼は、自分の中では分かっているのだ。
レイの生活に意見を言う資格など持ち合わせていないことを。
それでも、感情だけが先に走ってしまっている。
俺がこの場所に収まっているだけの、理由を求めているんだ。
自分を納得させるために。
「……レイ」
「ん」
「アルビンさんを、屋敷に泊めることってできるか?」
「どういうこと?」
どうしてこうなったのか、その理由を求めてしまう気持ちは痛いほどに伝わってくる。
俺が彼に同情する資格なんてないだろう。
だけど、少しでもいいから「納得」してほしい。
そのためには、俺が証明しなければならないのだ。
「俺が、何故レイの側にいるか……自分なりにはなるけど、その理由を示したいんだ」
アルビンは悪い人間ではない。
しっかりと理由を示せば、ちゃんと納得してくれる人だ。
約五年間、騎士団で顔色を窺い続けてきた俺には分かる。
そして彼からも納得を得ることができれば、俺はまた一つ、レイの側に立っていていい者としての証が増えるんじゃないだろうか。
「テオは、優しい人」
「ちゃんと俺自身の下心もあるさ。別に慈愛の心で生きているわけじゃない」
「それでも、自分に噛み付いてきた人間に手を差し伸べようとすることは、誰にだってできるわけじゃない。私はそう思う。だから、そんなあなたに免じて、今回は思う存分やりたいようにやってみてほしい。テオが誰かに認められたら、私はそれでも嬉しい」
「――――ありがとう」
許可が下りた。
俺はアルビンへと近づいていき、すぐに手が届く位置に立つ。
「話は、聞こえてましたか?」
「……俺をレイさんの屋敷に泊めてどうする気だ」
「少しでも、俺がなぜ必要とされたのかを分かってほしくて」
「それで俺が納得しなかったら?」
「納得するまで、いてもらう」
「……いいだろう」
有耶無耶になりかけているが、アルビンは今まさに喧嘩に負けたのだ。
カノンを利用するようで申し訳ないが、もはや彼は俺たち側からの要求を断れないはず。
つまりは確実に勝てる交渉であった。
「テオ、それはちょっと困る」
「……大丈夫。あんたとここ数日間過ごして、俺だって少しは自信がついたんだ」
難しいことはしなくていい。
家事というのは、無理して尽くそうとしなくてもいいのだ。
俺が心がけるのは、彼らに不便さを感じさせないこと。
「本当にいいのね? テオ」
「ああ。カノンもこの場を落ち着かせてくれて、ありがとう」
「っ! べ、別に、あたしらのファミリーの揉め事だし。感謝は受け取るけど、あんたのためとかじゃないしっ。感謝は受け取るけど!」
カノンのツインテールが、どういうわけだか動揺で上下に揺れる。
何とか誤魔化そうとしているようだけれど、言葉の端々に「良い子感」が滲み出してしまっていた。
「明日、レイの屋敷へ荷物を持って来てください。そこからスタートということで」
「……後悔するなよ」
そう言い残し、アルビンは仲間の冒険者に連れられる形で商店街を去っていく。
俺自身、いつまでも流れに身を任せたままじゃダメだ。
何か他にも成せることを、俺も見つけていきたい。
「はぁ……じゃああたしも退散しようかしら」
「ん、珍しくカノンが疲れてる。大丈夫?」
「んー、まあどうってことないんだけど、最近街の周辺に強い魔物が増えてるのよねぇ。あたしからすれば大したことないレベルなんだけど、今回は他にも何人か冒険者がいて、それを庇う必要があったから疲れちゃった」
「分かる。下手に人数が多いと、庇う方が大変」
「そうそう。やっぱ結局一人の方が気楽なのよね」
そう言いつつ、カノンは喧嘩で多少乱れた衣服を正し、俺たちに背を向けた。
「頑張ってね、テオ。あたしはあんたがアルビンを納得させられるだけの男って信じてるから」
「……ああ、ありがとう」
「ふんっ! それじゃあね!」
カノンは照れ臭そうに顔をそらし、アルビンの消えた方とは反対側に歩いていく。
方向としては冒険者ギルドがあった方だから、きっと依頼の報告へ行ったのだろう。
「……カノンとばっかり仲良く……ずるい」
「いや、俺が一番仲良くしてるのはどう見てもあんただからな?」
俺は腕に絡まっている彼女の腕を指摘する。
あれからずっとこのままだったのだ。
肘に常に妙に柔らかい感触があり、正直言って三割ほど集中できていなかった。
「私が一番仲良いなら、それでいい。これでアルビンがテオを欲しがるようになっても、絶対あげない。カノンにも」
「そこまでは行かないと思うけどな……そもそも、俺はどこにも行くつもりはないよ」
「ん。安心した。――じゃあ、デートの続きしよう」
そう言って、レイは俺の腕を引く。
不思議と、アルビンをあの屋敷に呼ぶことに不安を感じていない。
何となくでしかないけれど、俺の中で何かが変わりつつあった。
それは価値観や物事の考え方、はたまた性格かもしれない。
アルビンを、彼へ俺の存在価値を示すことができれば、それが何なのか分かるだろうか――――。




