【9月30日非公開予定】復讐すべき相手
ついにウィルドレッド・サラ・マルゴニアを引きずり出すことに成功し、私の望みを絶ちきられたその直後……あいつの護衛らしきガーブルという男を軽く捻ったところへ、別の変化が訪れた。
城の敷地、その外で戦っていたはずのエリシアが、ここまで吹っ飛ばされてきた。そこへ追撃のユーデリアも加わり、そこまではいい。だが、そこから予想だにしないことが起こった。
エリシアを貫くはずだったユーデリアの角は、ガーブルとは別のもう一人の護衛へと向けられていた。角と剣とが、ぶつかり合う。
「ゆ、ユーデリア……?」
「グルルゥ……!」
その瞳は怒りに満ちている。復讐に身を焦がす私だからこそわかる、ユーデリアの感情。その怒りが向いているのは、間違いなく目の前の男だ。
その男は、突然別方向から襲われたというのに、顔色一つ変えずにユーデリアを見下ろしている。なんだ、この男は……?
冷たい、言い様のない不気味さを感じる。以前少しだけ行動を共にした、『呪剣』の元持ち主コルマ・アルファードとはまた別の奇妙さを感じる。
「グルル……やっと、見つけた……!」
その間にもユーデリアは、力任せに押しきろうとしている。だが涼しい顔を浮かべたその男は、簡単にユーデリアを押し返してしまう。
力任せに力任せで応じるのではなく、力の流れを利用して押し返した。
「ユーデリア……どうしたの? なにが……」
「氷狼……そうか、あの村の……」
私が、ユーデリアの怒りの原点を問いかける前に、男がぶつぶつとなにかを呟いているのが見えた。
あまりに小さく、すべては聞こえないが……確かに『氷狼』、そして『あの村』と言った。そして、ユーデリアがこうまで怒りを露にするなんて……
「まさか、キミの村を襲った……?」
ユーデリアは、言っていた。このマルゴニア王国の人間に、村を滅ぼされたと。村の人間はユーデリア以外殺され、生き残ったユーデリアは奴隷にされたと。
この、個人に対して向けるユーデリアの怒り……間違いない。男も、合点がいったと言わんばかりにうなずいている。生き残った氷狼だ……何者か気づくのは、難しい話ではない。
それにしても、ユーデリアの復讐相手が……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアと一緒にいただなんて。なんという運命の組み合わせだろう。
これは予想外ではあるけど……ユーデリアを止めても聞かないだろうし、素直にあの男を任せることにしよう。代わりに私は、ゆっくりとウィルドレッド・サラ・マルゴニアと向き合えるわけだ。
そうと決まれば、さっそく……
「ま、待って……!」
しかし、そう簡単にはいかないらしい。
「エリシア……」
「アンズ……もう、やめて。これ以上こんなこと続けたって、なんの意味があるの? いくらアンズちゃんが強くても、こんなことしてたらいつかは死んじゃうんだよ!?」
この期に及んで、私を説得しようっていうのか……見れば、エリシアの手足は所々が氷付けになっており、肘や膝など間接部分にも凍傷が及んでいる。エリシアこそ、このまま放っておいたら死んでしまう。
それなのに、その男を庇うように立っている。その男に庇うような価値なんて、ないのに。
「どいてエリシア。じゃないと、あなたのことも殺すよ」
どかなくても、殺すんだけどね……けど、これくらいでどくなら、初めからここまで抗ってないか。
「ダメよ。どうしてもっていうなら、理由を話して!」
「無理だよ。理由を話したところで、あんたたちにはわからない。私の気持ちなんて、誰にもわからないよ」
突然異世界に召喚され、有無を云わさずに魔王を倒すための旅に駆り出されて、数々の困難を乗り越えてようやく魔王を倒して帰ったと思ったら……帰った先に、私を待っている人たちはいなかった。
その気持ちを、救ってもらった側の人間に話すつもりも、理解してもらえるとも思っていない!
「そんなことない! 話してくれないと、なにもわからな……かはっ!」
「今わかったよ。エリシアのそういう、なんでも話し合いで解決しようとするとこ……大嫌いだ」
私に説得は通じない。エリシアの腹部にめり込ませた拳は、それを伝えるには充分だろう。ユーデリアとの戦いで傷ついた体に、私の一撃は相当効いたはずだ。
エリシアは膝から崩れ落ちる。その様子を、彼女の後ろにいたウィルドレッド・サラ・マルゴニアは変わらぬ表情で見つめている。
「ひどいなぁアンズ。仲間だろう、エリシアもグレゴも」
「ひどいのは今も表情一つ変えないあんたでしょ。私のことどころか、自分の世界の人間のこともどうでもいいと思ってるんだね」
以前はこの男のこと、この世界や人々のことを第一に考える人徳者なのだと思っていた。でも、今はもうそうは思えない。
「ユーデリアの村を襲わせたのも、あんたの仕業ね」
「ユー……? なんの話……」
「とぼけるな!」
ユーデリアの村を襲った人物を側に置いている時点で、この男の関与は疑いようもない。もう、なにを話しても無駄だ。さっさと終わらせよう。
膝をつくエリシアを放り捨て、私は前進する。その足はだんだん速くなり、自分でも意識しないうちに拳に力が入る。
それをこの男の横っ面に、叩きつける! こんな貧弱な男、一撃で殺してやる!
「うぁああああ!!!」
「焦らないでよアンズ。そんな顔してたらかわいい顔が台無しだよ? いいかい……『止まってくれ』」
この拳を振り抜けば、この男の命は終わる……そう確信し、拳を振り抜く。いや、振り抜いたはずだった。
突然、体が動かなくなる。まるでエリシアの金縛り魔法にかかったみたいだ。だけど、これはあのときの比ではない。それに、今ウィルドレッド・サラ・マルゴニアは、エリシアのような魔力は感じとることはできなかった。
魔法じゃ、ない? なんだ……なんで、体が動かないんだ? この男が、さっきから余裕そうにしていたのと関係があるのか?
「ふふ……どうしたの、アンズ。『その拳を下ろしてくれ』」
「ふ、ざけ……なっ?」
その言葉に従う理由など、どこにもない……のに、私の体はその言葉に従うように、ゆっくりと拳を下ろす。意識で否定しても、体が言うことをきかない。
なんだ……なにが、起きているんだ?




