【9月30日非公開予定】ウィルドレッド・サラ・マルゴニア
グレゴ、ドラゴン……厄介な奴らは消えた。後は、城の中に入ってからあの男を探して殺すだけだ。そのあとのことは、その時考えよう。
とにかく今は、一秒でも早くあの男に会いたい!
「と、止めろ! 城に入れるな!」
兵士たちは雄叫び、私を止めるために向かってくるが……正直、驚異でもなんでもない。ただの足止め……いや、足止めにすらならない。
こんなことしても、ただ兵士の屍が増えていくだけだ。こいつが厄介なのは、ただ数が多いだけ……城の中からも出てくるから、余計に。
だけどこんなの、私には通用しない。だからさっさと……
「出てこい、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアー!!」
『待ってくれ、アンズ!』
グレゴが剣から剣圧を放ったのと同じように、私は拳を振り上げ、それを振り抜くことで拳圧を城へとぶつける……そうすることで城へのダメージとなるかと思ったのだが、拳を振り抜く寸前に、それを止める声が響く。
これは……誰だ? いや、これは聞き覚えのある声だ……これは……
「……お前」
『これ以上、街を怖さないでくれ、お願いだ』
間違いない。これは、あの男の声だ。頭の中に響いてくる声は、憎くて憎くてたまらないあの男の声。間違えるはずもない。
頭の中に声を届かせるとか、そんなテレパシーみたいなこともできたのか。と、感心している場合でもない。
「やめてくれ? なら、どうすればいいかは……」
『あぁ、わかってる。今からそちらに行く』
テレパシー魔法は一方的に声を届けるだけでなく、私の声も向こうに届くらしい。ちゃんと、会話になるということか。そして私の言うことを、ちゃんとあの男はわかっている。
民が傷つくのをこれ以上見ていられない……そういうことだろうか。
私の動きが止まったのを不審がる兵士たち……どうやらこれは、私にしか聞こえていないようだな。今の私は無防備……それでも仕掛けてこないのは、警戒しているからか。
ま、どうでもいいことだ。あの男さえ、出てくれば。
「……! お、王子!? なぜここに!?」
「いけません、お戻りください! 危険です!」
城の中へと入る門の前で、数人の兵士が騒いでいる。その騒ぎはだんだん大きくなり、兵士たちが道を開けるように、両サイドへとはけていく。
それにより一つの道が作られ、そこを歩いてくる人物が三人。真ん中を歩くようにしている人物の両斜め後ろを、二人が歩いている状態だ。
真ん中を歩いている人物……間違いない、あの男だ。
「やあ、久しぶり、アンズ」
「ウィルドレッド・サラ・マルゴニア……!」
「おいおい、ウィルと呼んでくれと言ってたじゃないか。忘れたのか?」
そこにいるのは、いかにも王族ですと言わんばかりの身なりのいい男。金髪のイケメン王子……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアに間違いなかった。
やっと、会えた……私をこの世界に召喚した、張本人!
「それにしても、これは……アンズ、どうしてこんなことを。それに、キミは元の世界に帰ったはずだ。なんでまた、この世界に?」
「どうして? わからないよ……お前たちには私の気持ちは!」
「これ以上、被害を広めないでくれ。望みがあるなら叶えてみせよう」
「こんなになるまで傍観してた奴が、偉そうに」
「貴様、無礼だぞ!」
「ガーブル、口を出すな」
向こうの……私の元の世界でなにがあったか、こいつらは知らない。だからこれまでに死んでいった人たちは、理不尽な殺戮に嘆く暇すらなかったことだろう。いや、理由を知っていても納得できるものではないだろう。
だからウィルドレッド・サラ・マルゴニアの疑問は、当然といえば当然だ。が……その疑問に答えるつもりはないし、答えたところで死んでくれるとも思わない。
ウィルドレッド・サラ・マルゴニアはなにを考えているのかわからないが、極めて冷静に。後ろに控えるうちの一人、ガーブルと呼ばれた男はウィルドレッド・サラ・マルゴニアに大変な忠誠を誓っているようだ。
もう一人の男は、なにを考えているのかわからないのはウィルドレッド・サラ・マルゴニアと同じだが……奴と違い、無表情だ。
「まあいいや。望みがあるなら叶える……今、そう言ったよね」
観察は、後だ。ここで会話する必要はないが、わざわざ私の望みを叶えると言っているのだ。ならば、遠慮なく……
「あぁ。なにか望みがあるんだろう? でなければこんな……」
「あんたの首」
……一瞬、沈黙が訪れる。
「……は」
「だから、あんたの首。あんたがおとなしく私に殺されるなら、これ以上暴れるのはやめてもいいよ」
私の言っていることが理解できない……そんな顔だ。それはそうだろう、私だって同じことを言われたら、あんな反応になる。
それを受けて、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアはどんな返事をするのか……だがそれよりも前に、動いた男がいた。
「貴様、この無礼者め! 王子に首を差しだせだと!? ふざけるのも大概にしろ!」
「ふざけてないよ、おじさん。その男がおとなしく私に殺されてくれるのが、私の望み」
「な、に……!?」
グレゴは老け顔だったけど、ガーブルは確実におじさんだな。がたいがいいし声が大きい……その威圧感だけで、並の人間ならびびり上がってしまうだろう。
ガーブルは額に青筋を立て、ほっといたら切れてしまいそうなほどに血管が浮き出ている。というか、そのまま血管が切れて死んじゃえば楽なのに。
「ガーブル、落ち着け!」
「いいえ、王子……あの女は、王子を愚弄しました。この世界を救った"英雄"だか知りませんが、あの女は許すことはできません!」
どうして、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアなんかにあんなに忠誠を誓っているのか……その疑問をぶつける前に、先にガーブルが突っ込んでくる。まるで、トラックが突っ込んでくるくらいの迫力だ。
丸太のように太い腕を振り上げ、それを私に振り下ろす……が、その時にはもう、私はその場にはいない。ガーブルの腕に乗り、攻撃を避けていた。
「おー、一度やってみたかったんだよ。腕に乗るっての」
「なっ……こ、小娘がぁあ!!」
怒れるガーブルは、もう片方の腕で私を掴もうと手を伸ばす。うわ、あれに掴まれたら体バキバキに折れちゃうよ。
力だけなら、グレゴ以上あるだろう……けど、頭に血が上りすぎだ。これじゃ、いくらでも対処できる。
「ほい、っと」
だから、私は腕から飛び上がった後……ガーブルの体を飛び越える過程で、ガーブルの無防備なうなじを手刀で切り裂く。それだけで、ガーブルの体は力を失い、倒れる。
「が、ガーブル様が!?」
「バカな……あり得ないだろ!」
「残念ながらあり得るんだよね。もう死んでるよ」
これで、少しはウィルドレッド・サラ・マルゴニアに恐怖を与えられただろうか……だがあの男は、顔色一つ変えることはない。気に入らないな。
「ま、いいや。次はお前の番……」
「きゃあああ!!」
せっかくかっこよく決めていたところへ、甲高い叫び声を上げ吹っ飛んできたのはエリシアだ。ユーデリアと戦っていたはずの彼女がここへ飛ばされてきた……ということは。
「くっ……う、ウィルドレッド王子!? いけません、ここは危険で……」
「ガルルルァ!」
さっき聞いたのと同じような台詞を吐きながらウィルドレッド・サラ・マルゴニアに注意を促すエリシアだが、それを最後まで言わせはしない。
氷の角を額から生やした氷狼……ユーデリアが、その身に冷気をまといながら、とどめを刺すためにエリシアへと飛びかかり……
「ガル…………!?」
「……」
エリシアを串刺しにする……はずたったその角は、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアの後ろに立つ、もう一人の男を襲っていた。その男は、短剣を抜き角を受け止めている。
隈のあるその目は、冷たくユーデリアを見下ろしていた。
「ぇ……」
なぜ、ユーデリアが標的を変えたのか……それを聞く必要性を感じさせないくらいに、ユーデリアの瞳は怒りに染まっていた。




