【9月30日非公開予定】城前の戦い
ドラゴンの巨体を持ち上げ、そして地面へと叩きつける。たったそれだけのことで、打ち付けた衝撃により辺りへの被害は甚大だ。
ただ、辺りの被害は甚大でも、このドラゴンには傷一つついていない。さすがに、地面に叩きつけたくらいじゃびくともしないか。
まあ、それならそれで使い道はある。
「こいつを、城へ投げ込んだらどうなるか……」
「させん!」
この巨体を城にぶつければどうなるか……それを考えるだけでもドキドキするが、そうは簡単にはいかないらしい。
ドラゴンに潰されたと思っていたグレゴが、飛び出してくる。振るわれる剣を、私は片手で防ぐわけだけど……
「おっと危ないなぁ……まったく、そろそろしつこいよ?」
「お前がおとなしく投降するなら、しつこく剣を振り回す必要もないんだが?」
「しつこい男はモテないよ~」
兵士や魔法術師では私を止めることはできない……だから、グレゴかエリシアが動くしかない。ただエリシアのところにはユーデリアがいる。私を止められるのは、グレゴだけってことだ。
だから私とグレゴがぶつかるのは、必然というわけなのだが……
「もう読めたよ、それ」
何度も剣筋を見ているうちに、グレゴの動きを予測することは難しくない。元々グレゴの戦い方は知り尽くしてるんだ、今こうして何度か見たことで、読みは確実になる。
たとえば戦い方には、どうしたって癖がある。それを見抜けば、対応することは簡単だ。もちろん、それは逆にグレゴも私の戦いを読みやすいということでもあるけど……
「私のは型にハマらないからね、読めないでしょ」
「くっ!」
剣術と武術なら、剣術の方がはるかに読みやすい。特に、『剣星』なんて呼ばれるほどの真面目な剣術バカは、動きに法則みたいなものがどこかにあるはずなのだ。
その点私は、言ってしまえば我流だ。戦い方を教えてもらいはしたけど、このスタイルは自分で見出だした。だから……
「っ! 目を……!」
正々堂々戦おうとする相手に、わざわざ私も正々堂々と迎え撃ってやる義理はない。
グレゴの攻撃を防ぎながら、私は足先を使い、砂を蹴りあげる。いわゆる目潰しであるそれはグレゴの視界を奪い、一瞬動きが止まる。
その隙を、私は見逃さない。
「そぉら!」
「ぐふっ!?」
片手でグレゴの剣さばきを防ぎ、もう片手にはドラゴンの尻尾を掴んでいる。なので、隙のあったグレゴの腹部にドラゴンの尻尾をぶつける。
これにはさすがのグレゴも効いたようで、吐血しその場で膝をついてしまう。
「どう? 自分が仕えている国の王子が召喚した召喚獣に殴られる気分は」
尻尾がぶつかっただけでこの威力……本体が激突すればどれほどの衝撃になるのか興味はあるけど、こんな巨体はさっきみたいに避けられてしまうだろう。
となると、やっぱり城に投げたいんだけど。
「ゴギャアアア、アァオオオ!」
「うる、さい!」
捕まえた状態でもドラゴンがうるさいので、尻尾を引きちぎる。ちょっと固いけど、これならチーズを裂くのと似たようなものだ。
「ギャアアアア!?」
「て、鉄以上の強度を誇るのに……そんな軽々と……」
人をそんな、怪力女みたいに言わないでよ傷つくなぁ。
尻尾をちぎったことでドラゴンはますますうるさくなるが、先ほどよりも抵抗は少なくなったように思える。こうやっておとなしくしてれば、これ以上痛い目は見なくて済むよ。
「くっ……アンズ……!」
何発か私の拳を受けて、今ドラゴンの尻尾(鉄以上の強度らしい)をまともにくらい、それでも立ち上がるグレゴ。その姿勢は立派だけど、いい加減倒れなよ。
最初こそグレゴやエリシアを真っ先に殺すつもりだったけど、あいつがすぐそこにいるとわかった今、私は早くあいつのところに行きたいんだ。そのあとなら、いくらでも相手してあげるから。
……こう言ったところで、聞かないんだろうなぁ。
「グレゴ、もし『剣星』として……いや剣士として私と正々堂々一対一で戦いたいなら、あいつを殺したあとでならいくらでも付き合うよ?」
「ふざけるな! あいつが誰かは知らんが、ここまでの行動から検討はつく……そもそも俺は勝負をしに来たんじゃない、お前を止めに来たんだ!」
あぁ、やっぱりダメかぁ。相変わらず頭固いんだからもう。
ならしょうがない……
「どっせい!」
野球のボールを投げる要領で、ちぎった尻尾をグレゴへと思い切りぶん投げる。予想していなかったのか、グレゴは避けるのに精一杯だ。その隙に……
「ふん!」
ドラゴンの巨体本体を、城へとぶん投げる。巨体とはいえ、この勢いならば失速することなく、城に激突するだろう。
尻尾を避け、そして城へと投げられたドラゴンの巨体……それはグレゴの気を引くには充分だ。いかに私を相手にしてても、城への脅威に注意を割かないわけにはいかない。
その隙を見計らい、私は魔力を足に集中させ……一時的に、爆発的な脚力を得る。魔法は苦手だけど、こうやって身体を強化するものならば得意だ。
「っ、はや……!」
自分で言うのもなんだが、素の私でも身体能力は高いのに、身体強化を加えたらそれこそ手がつけられない。ならなぜ最初からこうしないかって? 魔力量が少ないからだよ。
グレゴもまさか、このタイミングで私が身体強化するとは思っていなかったらしく……グレゴの注意が外れたプラス私の超速度で一気に距離を詰め、腹部に拳を打ち込む。
メリッ……と嫌な音がして、グレゴの身体へ……内側まで衝撃が届いたのは間違いない。漏らす声すらなく、グレゴは意識を飛ばす。
いかに強固な身体を持っていようと、これならば身体の内側から破壊できることは間違いない。鍛えているといっても、所詮剣士のグレゴならばなおさらだ。
それでも吹き飛ばないのは、本人の意思の問題か……大したものだ。
それはそれとして、ドラゴンの巨体が城に激突すれば、それこそあいつらに手立てはなくなるはずなのだが……
「……」
ドラゴンの体は、城に激突する前にその場から消えていった。召喚獣が消えるとき……それは、召喚獣が力尽きたときか召喚主の魔力が尽きたときか……召喚主が自らの意思で、消したときか。
あのドラゴンは、ダメージがあったとはいえまだ元気だった。あの召喚獣を召喚するような奴の魔力が、そう簡単に尽きるとは思えない。
となると、自ら消したか……自分が籠っている城が危なくなったから、その脅威となったドラゴンを消したってとこか。
「卑怯者め……!」
自分は安全地帯から、周りの被害も見えてるはずなのに……自分の身が危なくなったら、危険を排除しようとする。
さすが、人の人生を弄ぶような奴はやることが違うねぇ。
グレゴは気を飛ばし、ドラゴンもいなくなった。エリシアはユーデリアが足止めしてるし、兵士や魔法術師では相手にならない。城への道は開けた。
……今から殺しに行ってやるよ、ウィルドレッド・サラ・マルゴニア!




