【9月30日非公開予定】燃え盛る街と復讐心
「ゴギャアアアア!!」
羽の生えたトカゲ……基ドラゴンは、うるさいくらいの雄叫びを上げて敵を……私を睨み付ける。私の知ってるドラゴンとはずいぶん違う姿だけど、まあ氷狼がいる世界だ、こういうのだっているさ。
さて問題は、こんなのに時間を割いていられないこと。グレゴが時間稼ぎに徹するほどに強い召喚獣……私を倒してくれることを期待しているんだろう。
だけど残念ながら、そうはならない。
「あいつを、見つけたんだから……!」
城にいけば、会えると思っていた。なにせ、この国の王子なのだから。でも、確実ではない。自分だけ逃げて、高みの見物を決め込んでいる可能性だってある。
でも、この召喚獣が現れた時点でその線は消えた。召喚獣を召喚するのは、自分の目の届く位置でないといけない。それにこんな強大な召喚獣、召喚するには召喚主との距離が相当近くないといけない。
なにより……召喚獣を召喚している者の魔力を、城の中から感じる。私、複雑な魔法は使えなくても魔力を感じることくらいはできる。
だからあの男は、いる。城の中に……!
「ゴルルルァ!」
「!」
そうやって考えている間も、ドラゴンは待ってくれない。長い前足を振りかぶり、それを振り下ろす。それだけで地面にはクレーターが空き、大きな地震となる。
なるほど、直撃したら私でもただではすまないな……ただ、大きい分スピードはない。今だって、ジャンプして充分に避けられたし。
「ガァアアア!!」
ドラゴンの猛攻はそれにはとどまらない。ジャンプして体の自由が効かない私に向かって大きな口を開ける。その口の中に、強大な魔力が集まっていくのがわかる。
あれは……よくフィクションで見る、ドラゴンが火を吹くやつ!
「ゴァアアア!!」
予想通り、ドラゴンの口から強大な魔力が放出される。それはまさに、すべてを焼き付くさんばかりの火だ。これをまともにくらえば、焼け焦げではすまない。
ま、関係ないけどね。
「はぁ!」
私は、正面に手をかざし魔力を展開。魔力障壁を作り出す。とはいっても、魔法が得意でない私が作れるものなんてたかが知れてるし、さっきエリシアが見せた魔力障壁の10分の1にも満たない。
「無駄だ、いくらアンズが化け物染みていても、お前の魔力じゃそれは防げない」
ましてや、ユーデリアの冷気をも上回る威力の魔力炎を防げるはずもない。グレゴの言うとおりだ。けど、化け物とは傷つくなぁ。
防げない障壁……なら、どうして魔力障壁なんて張ったのか。
「こうする、ためだよ!」
障壁に展開した魔力障壁は、少し角度をずらしてある。正面から魔力炎を受け止めるのではなく、下へ受け流すように。
防げないなら、受け流してしまえばいい……目論見通り、魔力炎はななめに展開された魔力障壁に流され、下……つまり兵士が固まっている地上へと、降り注ぐ。
「う、ぁあああ!?」
「あつ、熱いぃいいい!」
「きゃあああ!」
降り注ぐ魔力炎は、もはや災害だ。鎧なんかなんの意味もない……体が燃え尽きるだけだ。
「くっ……アンズゥウウ!」
剣を払い、剣圧で自らに降り注ぐ炎を振り払ったグレゴは、憎々しげに私を見つめている。剣圧でこの炎を振り払うとか、私のことを化け物とは言ったけどやっぱあんたも充分化け物だよ……
火が回っていない場所に着地した私は、グレゴを見据える。
「アンズゥウウ! ……って、この炎はあのドラゴンのせいなんだけど? つまり、この惨事を引き起こしたのは召喚主のウィルドレッド・サラ・マルゴニアってことになるよね?」
「お前……!」
ユーデリアは……なるほど、直撃じゃなければ自身の冷気で身を守れるのか。エリシアも、当然のように魔力障壁で防いでいる。
ただし、炎を防ぐ手立てのない兵士や、並の魔法術師は……ご愁傷さま。おかげで、ずいぶんと数が減った。しかも、火の回りは早く火事が大きくなっていく嬉しい誤算つき。
「あーあ、こんなとこであんな魔力を放つから。自分の国なら、もっと環境と人は大切にしないとね?」
「お前、どの口がそんなことを……この、外道め!」
外道……外道か、ひどいなぁ。かつて一緒に戦った仲間なのに。そんな仲間を外道扱いなんて……
「あぁ、今さら気づいた?」
気づくのが遅すぎるよ。
「アンズ……なにがキミをここまで変えた。キミは、意味もなく……いや、意味があってもこんなことはしなかったはずだ。戦いだって、魔物相手にだって躊躇してた。そんな心優しいキミが……」
「話す必要はないよ。一つだけ言うなら、あの人殺しだけにはなにがなんでも償ってもらわないといけない」
「人殺しって……この惨状は王子が望んだことではなく、不可抗力の……」
「そっちじゃないよ」
ユーデリアには、私の身の上を話した……この世界を救った後、元の世界に帰った私の身になにが起きたのかも。
だけどグレゴ……いや、他の誰にも、私の身に起きたことを話すつもりはない。もっとも、それを聞いて同情して自害してくれるか、ウィルドレッド・サラ・マルゴニアを差し出すなら話してもいいけど……
「無駄だろうから、ね」
「なに……?」
私の復讐対象はこの世界だけど、真っ先に殺してやりたいのはあの男だ。世界への復讐が簡単でないことはわかってる……もしかしたら、途中で頓挫することもあるかもしれない。
そうなったとしても……いや、そうなってしまう前に、あの男だけは……!
「ゴギャアアア!!」
「さっきからぎゃあぎゃあやかましいんだよ」
ドラゴンが、走ってくる。巨体ゆえに動きは遅いが、あれだけの大きさとリーチがあれば関係ない。数歩で私を踏み潰すだろう。
だから私は潰されてしまう前に、その場から飛び退き……ドラゴンの尻尾を、掴む。それを持ち上げ、同時にドラゴンの体も持ち上げることになり……
「お、おい……うそ、だろ」
「うらぁあああ!!」
驚愕するグレゴの真上へと、ドラゴンの巨体を振り落とした。巨体が地面に打ち付けられた衝撃で、周りの火は風圧により消化され……同時に、建物もぼろくずのように崩れ飛んでいく。
もうそこに、かつて栄えた国……マルゴニア王国の活気な姿はどこにもなかった。




