【9月30日非公開予定】氷狼の力
「不届きな輩め! 城の中には入れんぞ!」
大きな王国だというのに、その連絡速度の速さはさすがというべきだろう。城の付近に近づいた辺りから、兵士の姿が増えてきた。城の中までは楽に行けると思ったんだけどな。
剣に覚えのある兵士なら、一般人相手のように楽に事は進まない。……とはいっても、私にとってはどちらも大した差はない。
「威勢はいいね、でも……」
「! ぐぁっ……!」
「全然ダメ」
兵士は鎧で全身を包んでいるから、『呪剣』の効果が効かない。素肌を斬りつけなければ、効果はないようなのだ。なので、鎧に剣を弾かれては効果が発動しようもない。
だから、鎧によって守られていない顔を斬ることでしか発動しない。けど、顔を斬ってしまえばそれはもう命を奪うと同義だ。
もちろん『呪剣』の対策、というわけではない。だけど、結果的にそれが自分達の身を守ることに繋がっている。
はぁ、自我を失った兵士がどんな風に暴れて周りがどう対処するのか、見たかったのにな。それに、仲間討ちも期待できたのに。
「そんな剣一本で、我々を倒そうなどと……」
「ふん!!」
あっ……考え事をしてたのに話しかけられたから、つい反射で手が出てしまった。
剣擊を通さなかった鎧は、へこみ……兵士は倒れる。どうやら、殴ったときの衝撃が鎧を貫いて人体に伝わったらしい。
「あちゃー……せっかく剣を手に入れたから、練習してたのに」
私は、剣については素人だ。今までこれでやってこれたのは、相手が一般人なのと私の運動神経……なにより、『呪剣』の特性によるものだ。
斬った相手の自我を奪う……なんていう、触れたら終わりの力を持っている。いかに剣は素人とはいえ、触れさせることなら私にだってできる。
けどやっぱり……私に向いてるのは……
「こっち、かな!」
「ぐぉあ!?」
再び、近くにいた兵士の腹部に拳を打ち付ける。鉄の素材でできたそれにはヒビが入り、重い鎧を着ているとは思えないほどにダメージは浸透する。
うんうん、やっぱり私は剣より拳だよ。あ、だからって剣は捨てないけどね。
「さっきの門破壊といい、まるでゴーリルだね」
「な、なんですって!」
こうして戦いの最中にも、ユーデリアは茶々をいれてくる。それだけ、余裕ってことなんだろうけど。
ちなみにゴーリルっていうのは……まあ、例えるなら私達の世界で言う『ゴリラ』だ。言われていい気分どころか、不名誉でしかない。
「誰が、ゴリラ女かぁあ!!」
「ぐっほぁあああ!」
「ゴリラがなにかは知らないけど、そうやってポンポン人を吹っ飛ばす時点で説得力がないってことだけはわかるよ」
また一人吹き飛ばし、その一人が後ろの数人に当たり、結果的に一撃で数人を撃破。まるで、ボーリングみたいだ。
しっかし……さすがは王国兵士、数だけは一級品だ。倒しても倒しても出てくる。それだけじゃない……兵士の後ろには魔法術師が待機しており、即死でない兵士は回復魔法によりすぐに回復してしまう。自我を奪えば、回復されたところで意味ないんだけど……
さすがにちょっとうっとうしいかな。
塵も積もれば山となるとは言うけど、このままじゃいつになったら城にたどり着けるのか。目と鼻の先……と思えるけど、無駄にでかいから、遠近法で距離があまりないと勘違いしちゃうんだよな。
「くそ、なんだこの狼!?」
「うわっ、近づけねぇ! しかも、凍ってやがる!」
ユーデリアは、狼形態のまま……気のせいだろうか、周囲に冷気を感じる。……気のせいじゃないな。
その冷気のせいで、兵士が近寄れない。近寄れないってことは、ただ寒いとかそんなレベルじゃあないんだろう。それどころか、周囲の地面凍ってるし。兵士の手足すらも。
なるほど、だから『氷狼』か。
鎧を着てても近づけないほどの冷気、か……なにあの能力ほしい。そうすれば、邪魔なく城まで突っ走れるじゃん!
「この、放て!」
しかしそれは、あくまで近接戦闘を防げるという話。兵士の後ろに待機している魔法術師による遠距離攻撃は、関係ない。
兵士が近寄れないと見るや、奴らは一斉に『ファイヤーボール』を放つ。並の術師ではたかが知れている低級魔法だが、それも王国の術師、それも十人のものが合わされば威力はとんでもないものになる。
しかも、周囲に被害を出さないよう、大きさは単なるファイヤーボール……バスケットボール程度の大きさだ。だが威力は単純計算で十倍以上……か。
近接は兵士が、遠距離は魔法術師が……それぞれの役割を、こなす。メインは兵士に任せ魔法術師は回復などのサポートに徹しつつ、あのように交代でメインになることもある。実にバランスの取れた隊列だ。
勝ちの目があるとすれば……魔法術師は回復メインでスタンバイしているから、攻撃するにも『ファイヤーボール』のような低級で魔力を温存するしかないってところか。それでも、あの『ファイヤーボール』は中級どころか上級にも匹敵するけど。
なるほどだから、塵も積もれば山となる、か。
「焼けてしまいなさい!」
その一声と同時に、"ファイヤーボール"が放たれる。灼熱のそれは、離れた位置にいる私にさえ熱を感じさせ、兵士の手足の氷を溶かしていく。周囲の凍った部分さえも。
あれをまともに受ければ、熱いでは済まない。なのにユーデリアは逃げる気配すらなく、その場に立ち尽くすのみ。まっすぐに、迫り来る火の玉を見据えて。
「ガルルルァアア!」
咆哮、そして先ほどまでとは比較にならないレベルの強烈な冷気……私にも伝わる。てか、少し痺れすら感じる。フード脱げちゃう。
まるで、ユーデリアの周囲だけ吹雪いてるかのよう。しかしそれはやがて、一点……ユーデリアの額に集まっていき、氷の角を形作っていく。額から、氷の角が生えている。
そしてユーデリア、躊躇することなく飛び……降ってくる"ファイヤーボール"へ、角を突き立てる。その力は拮抗……するでもなく、氷の角が突き刺さった"ファイヤーボール"はみるみる凍っていく。
信じられない光景だ……あの熱量を、あの魔力を、たかだか珍しいだけの種族の、それも子供が上回るだなんて。なんでこんな子が捕まってたんだ……やはり捕まったときは精神が不安定だったのか。
完全に凍ってしまった"ファイヤーボール"は、粉々に砕け散る。これには、兵士も魔法術師も、唖然とするしかない。私だって、ちょっと目を奪われてるんだから。
「ば、バカな……」
「この程度? 王国魔法術師も大したことないね」
やっぱり、この子を連れてきて正解だった。
「調子に、乗るなよ!」
「はぁ!」
私の隙をついたつもりなんだろうけど……隙なんて、私にはないよ。代わりに、取って置きをお見舞いしてあげる。
「ふふっ……」
ユーデリアにはいいものを見せてもらったし、私もちょっとだけ本気出しちゃおっかな。
不意をついてきた兵士の剣を弾き飛ばし、無防備に。私は右拳を握りしめると、そこに力を込める。
私には大した魔力はない……だからこれは、純粋に私の腕力だけのものだ。純粋な私の力を込めた、一撃。うぬぼれじゃないけど、これをまともに受ければたとえ鎧を着てても……死ぬ。
「ひっ……!」
ま、元々殺すつもりなんだけどね。
恐怖に顔を歪める兵士だが、情は湧かない。じゃ、ここから始めようか……本格的な、殺戮を!
「でやぁあああ!!!」
放った拳は、まっすぐに兵士の顔面へと向かう。鎧越しでも内臓から破壊することはできるが……そろそろ、兵士と遊ぶのにも飽きてきた。わかりやすく、首から上を破壊しよう。
兵士は逃げられるはずもない。私の拳は、兵士の顔面へと叩き込まれる……はずだった。
ガァキィッ
……音が、した。だけどそれは、肉を叩いた音でもなければ鎧で防がれた音でもない。というか、私の全力の一撃を鎧程度で止められるはずもない。
だがこれは、まるで鉄を殴り付けたような音だ。単なる鉄で、私の拳を防いだ? ……いや違う、ただの鉄じゃあない。
むしろ、私の一撃を止められる奴はそうはいない。そして、目の前で私の拳を止めているのは剣……驚くことだが、その細い刀身で私の一撃を止めている。
こんな芸当ができるのは、一人しかいない。
「……グレゴ・アルバミア……!」
「よぉ、侵入者。ずいぶん派手に暴れてくれたなぁ」
そこにいたのは……勇者パーティーのメンバーだった男、『剣星』グレゴ・アルバミアだった。




