【9月30日非公開予定】マルゴニア王国
ついにマルゴニア王国が目前に迫り、私は内から来る笑みを隠しきれなかった。まさかこんなに早く来ることができるなんて……ユーデリアに感謝だな。
あぁ、この辺り……懐かしい景色だな。王国が近づいてきたから、さすがに付近の景色には見覚えがある。
さあ、このまま王国へ入りたいところだけど……さすがは王国というでかさか、中へ入るためにはあの大門を潜らないといけない。門には、当然門番もいる。二人、か。
本来ならばあの門番に、身分証を見せ、王国に来た目的を話し、然るべき処置をこなしたところでようやく門が開かれるのだが……
「関係ないよ……」
そんな通過儀礼、私達には関係ない。私達がやることは、ただ一つ……
「ん? おい、誰か近づいてきてないか?」
「え? あぁホントだ……おーい止まれ! とまっ……」
『復讐』だ!
「がっ……?」
「えっ……?」
ボニーとユーデリアは速度を落とすことなく、門へと駆ける。そして、門番とすれ違う一瞬の隙に私は剣で、ユーデリアは鋭い爪でそれぞれ門番を瞬殺。
この、斬った者の自我を奪う『呪剣』だが、さすがに殺すほどの傷を負わせた相手の自我を奪うことはできない。斬った相手を操るわけでも、ましてやゾンビにするわけでもないんだから。
そうして門番二人を、ものも言わさずに殺す。二人ってのはちょっと少なすぎだよ、マルゴニア王国……
それとも、この大きな重い門を壊すことはできないと思ってのことだろうか? だとしたら……
「はぁあ!!」
ドゴォ!
甘い、甘いよ。私が、こんな門一つ破壊できないとでも思った? まあ、『英雄』自らが門を破壊しに来るとは思わないだろうけど。
ボニーから飛び上がり、門をぶん殴り、破壊する。こんな大門破壊しちゃったら、中の人たちにも気づかれちゃうけど……もともと、この場所でこそこそやれるなんて思ってない。
「すっごい力……」
呆れたように言葉を漏らすユーデリアは無視し、ボニーに乗り直した私は一足先に王国内へと踏み込む。そこには、大門が壊れたことで何事かとこちらを見る人々の姿があった。
「な、なんだ? 門が……」
「なになに? どうしたの?」
こちらを見る人々は、まだなにが起こったかよくわかっていないらしい。それはそうだろう、あんな大きな門が、開くではなく壊れたのだ。それはすんなりとは受け入れられないだろう。
買い物、おしゃべり、デート……いろんなことをしている人が、いる。中には、見覚えのある顔もいる。この王国から始まったのだから、それも当然だけど。
懐かしいな……みんな、久しぶりだね。
そして……
「さよなら」
腰から抜いた『呪剣』を、振るう。ボニーが駆けるその刹那に、すれ違う人間を切り裂いていく。今度は、殺さない程度に。
斬られた人間は……いや、斬られていない人間も、なにが起こったかすぐには理解できていない。だけど、それも数秒……血が、悲鳴が、辺りを包み込み……伝染する。
「きゃあああ!」
「なんだ、き、切られた!?」
「血が! 血が出てるぞ!」
平和だった空間は一瞬で絶望へと変わり、みな恐怖する。どうだ、これが平和な日常を待ち望んでいた者が絶望に叩きつけられた気持ちだ。その十分の一でも、お前らに理解できるか!
死なない程度に『呪剣』で斬られた人々は、次第に自我を奪われ、正気を失う。そして、見境なく他の人に襲いかかる。
正体不明の人間でなく、自分の知った顔に襲われる恐怖。それがさらに、この場の人間たちに混乱と恐怖を与えていく。
「まったく、一人でやらないでよ」
私が『呪剣』を振るう間にも、別の場所から悲鳴が。そこには、人間を襲う藍色の狼の姿……ユーデリアが、牙を、爪を振るい、その身を血に染めている姿があった。
謎の狼の襲来……それに、この場の人間は対処する術がない。ただ、逃げ惑うだけだ。絶望に染まったその顔で。
「あとは、放っといてもどうとでもなるかな」
すでに阿鼻叫喚の地獄絵図……とは大袈裟かもしれないが、そんな光景だ。自我を失った人間が人々を襲い、知った顔に抵抗できない人間は倒れていく。たとえ抵抗できても、群がられて数に押しきられる。
放っといても、ここはそのうち崩壊する。
「城は、あそこか……」
もうじき騒ぎを聞き付けて、王国中央にある城から兵士が来るはずだ。それを待っていてもいいけど……それも、面倒だ。
それに、一番用があるのは兵士ごときじゃない。この国で一番偉い『あの男』は、どうせ高みの見物で出てきやしない。
なら……
「私から会いに行くよ、ウィル」
このマルゴニア王国の王子ウィル……ウィルドレッド・サラ・マルゴニアに、直接会いに行こうじゃないか。




