【9月30日非公開予定】動き出す元勇者パーティー
「……これはひどいな」
二つの人影が、一つの村を訪れる。観光目的……では残念ながらない。この村で……いや、ここ最近で近隣の村町で異変が起きていると報告があったので、その確認に来たのだ。
なにが起こっているかは、おおかた聞いた。それなりに覚悟してきたつもりだ。しかし、こうして惨状を目の当たりにすると、その覚悟もたやすく崩れてしまう。
「村一つ壊滅……言葉だけ聞くのと、実際に見るのとじゃずいぶん違うじゃねえか」
「あらかじめ、村の人間はみんな死んでるって言われてたでしょ。聞いてなかったの?」
「想像以上って言ってんの」
がたいのいい男性に、長身で腰まで伸びた髪を一つにまとめている女性。二人は、屍の並ぶ村を見てその凄惨さに息を呑む。
全滅だと、聞いてはいた。だが現状は、予想以上に悲惨で残酷なものであった。
「しっかし、なんで俺らがわざわざ調査なんてしないといけないんだ」
「それも言ってたでしょ。次々に村町が壊滅してるからただの警備じゃ不安……腕の立つ人物に行ってもらうって」
「かつては勇者パーティーのメンバーが、今じゃ調査隊か」
村に足を踏み入れたこの二人は、かつて勇者パーティーに所属していた二人だ。本来ならば、兵士などに異常を調べさせるが……今回は、状況が状況だ。
村町が次々壊滅……それも、一人の生存者も残すことなく。これは、あまりにも異常だ。
よほどの殺人鬼が、無差別にあちこちを襲っている……そうとでも言わなければ、説明がつかないほどに。
「まだ殺人鬼が潜んでたら、このグレゴ様が叩き切ってやったのによぉ」
勇者パーティー随一の剣術使い……グレゴ・アルバミア。自分の身長と大差ないほどの大剣を背負い、口ひげが印象的な男。通称筋肉ダルマ(本人否定)。
「まーたそんなのんきに。誰がなにやってこうなってるのか、まったくわからないんだよ? 無差別に人を殺してる……死んだ人間は、さすがに生き返らせないし」
勇者パーティー随一の回復魔法使い、エリシア・タニャク。桃色の髪が美しく光り、異性はおろか同性の視線をも独り占めにするほどのスタイルの持ち主。子供っぽいのがたまにきず。
「わかってるよ、それだけの危険人物が、目的もわからないままにあちこちで暴れまわってる……下手すりゃ、魔王討伐以来の大事件になる」
「それに、今は六人いた勇者パーティーも私達二人だけ……もしこの凶行が、魔王ほどの力の持ち主の仕業なら、私達じゃ太刀打ちできないかもしれない」
「お前は冷静だなぁ」
「現状を認識してるだけ」
これまでに、村や町、あるいは集落でも報告が上がっている。この世界を脅かす何者かがいるのは、確かだろう。
それが何者かはわからないが……魔王を討伐して以来、平和だったこの世界にどうして突然。
「まあなんにせよ……これだけの人間を殺してくれたんだ。ちゃんと償わせなきゃいかんわな」
「そうだね……おっさんにしてはいいこと言う」
「おっさんやめてくんない」
「なら筋肉ダルマ」
「もっとやめろ!」
一人や二人なら、まだわからないでもない……だが、この村の人間全員などと、正気の沙汰とは思えない。罪のない人間だっていたはずだ。未来ある子供だって。それを、こんな形で人生を台無しにされた。
どんな理由があろうと、決して許せるものではない。
「グレゴ、許せないのは私も同じだから、覇気をおさめて」
「お、おう……悪いな」
許せぬ者への怒りが表に出てしまうほど、この場は凄惨だ。もしこの場に、この惨状を引き起こした人間がいれば迷わず殺していただろう。
それほどまでに、許せない光景だ。彼らが勇者パーティーとして辛い思いをしていなけれは、この光景には耐えられなかっただろう。
「剣での切り傷、獣と思われる切り傷、それに同士討ちに見える傷まで……犯人が複数なのは間違いないが、なんで同士討ちなんてな。しかも剣の切り口からは、変な感じがしやがる」
気にかかるのは、それだ。明らかに犯人が手を加えたのとは別の傷がある。なぜ、犯人に襲われている最中で同士討ちなんてことが起こったのか。
……まるで、何者かによって同士討ちをさせられてしまったかのような。
「犯人の目的がわからん以上、どうしても後手に回ってしまう……が、こんなことを野放しにしておくわけにはいかない」
と、グレゴ。正義感の熱いこの男は、犯人に激しい怒りを覚えてしまった。
彼ほど熱いほどではないが、しかしエリシアも怒りは同様だ。
「それでも、見つけなきゃいけない。近隣の村町が危ないことはわかったんだし、まずはそこをしらみつぶしに回っていくしかないかも」
手掛かりは、多いようで実は少ない。生存者がいないのだから、犯人が男か女かもわからないのだ。
今出来るのは、犯人を見つけること。そして、ここの無念にも命を散らしてしまった人々を供養することくらいだ。
「ん……?」
人を運ぶのはグレゴや兵士たちに任せ、エリシアは他に手掛かりがないかと村を歩き回る。そこで、見つけたのが……
「これは……」
損傷がひどく、直視するのもためらわれるほどの男の遺体。ここまでやるかというほどに、傷がひどい。回復魔法のスペシャリストであるエリシアだからこそわかることだが、この男は体の内側がボロボロだ。
外見もそうだが、それ以上に内側がひどい。内臓が破裂している。この男個人に恨みがあるのではないかと思えるほどに、ひどく痛めつけられている。たとえ死んでいなかったとしても、エリシアでさえ完治させるのは難しい。
それに、近くに転がっている遺体も妙だ。商人と思われる服を着た人物は複数人に襲われたのではと思えるほどの傷があり、他にも首輪や手錠らしきものを付けている者もいる。
なんなのだ、この区間は。……それに。
「この、傷……」
内側がぐちゃぐちゃの、男の遺体に近づく。あまり見ていて気分のいいものではないが、それよりも気になることがある。
この男の、傷……というより、打撃痕。そこから生じるダメージ……見覚えがある。それは、回復魔法使いで他者の傷を見ることに長けたエリシアであるからこそ気づいたものだ。
「似てる……」
その傷跡は……エリシアの知っている人物が打ち出した後の傷に、よく似ていた。ただ似ているのではない……よく、似ているのだ。
「アンズのに、似てる……」
かつて勇者パーティーの筆頭であったアンズ・クマガイ……いや、異世界から来た熊谷 杏の繰り出す打撃痕と、非常によく似ていた。
だが彼女は、魔王を討伐した後に元の世界に帰ったのだ。ここにいるはずがないし、そもそも彼女はこんなことをする人間ではない。となると、彼女の戦闘を真似た何者かの仕業か。
大量殺人を犯したことに加え、勇者の……いや『英雄』となった彼女を貶めるような行為。ますます……
「許せない……!」
罪なき人間を殺し、親友と呼べる彼女を汚す輩を許すことは出来ない。エリシアは、改めて怒りの炎を燃やし、桃色の瞳を赤く燃やしていた。




