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【9月30日非公開予定】魔王級の災害



 かつて魔王を倒すために共に戦い、勇者から『英雄』として讃えられた熊谷 杏……彼女は、武器も魔法も得意とはしていなかった。だから、肉弾での戦闘を得意とする。


 こう言ってはなんだが、ここに倒れている男の傷は……彼女が得意とする戦法に、よく似たものだった。だが、彼女はもうこの世界にはいないし、こんなことをする人間でもない。


 つまり、何者かが彼女の戦い方を真似し、そのやり方をもって罪なき人々を殺して回っているということだ。世界を救った彼女と同じ行いで、こんな惨状を生み出している。


 同じ勇者パーティーにいた者として……いや、親友として、彼女を貶めるような行為を許すわけにはいかない。



「お、いたいた。こんなところに……って、おいどうした? 目がこえぇぞ」



 そこへ、野太い男の声がかかり思考は停止させられる。そこにいたのは、グレゴ・アルバミア……彼も、熊谷 杏と旅をした勇者パーティーの一人。


 ここにいる、エリシア・タニャクも同様に。



「なんでもないよー、なんでも」


「いや、なんでもって……おっかない顔してたぞ。まるで好物のトリプラの肉を取られたときみたいだ」


「それは言い過ぎでしょー」



 一見なにも考えてなさそう(いわゆる脳筋)なグレゴだが、こういった人の感情の変化には過敏だ。それをわかって、場を和ますためにあえて冗談を言ったのだろう。


 ……冗談で、あってほしい。そんなおっかなくないはずだ。



「それよりも! なにか、進展あった?」


「あ、あぁ……進展ってほどでもないが、そこや表にいる首輪を付けた連中……どうやら奴隷だったみたいだな」


「奴隷……」



 それを聞いて、エリシアは絶句する。奴隷なんていうものが、本当に存在していたことについてだ。


 もちろん、その単語自体は聞いたことがあったし、そういうものがないという確証もなかった。……だがこうして、目の前にしてしまうとその衝撃は計り知れない。


 勇者パーティーであった自分さえも知らないこと。あるいは、勇者パーティーだったからこそ知らなかった、隠されていたのかもしれないが。


 自分の、知らない世界……



「つまり、この惨状を引き起こしたのはこの奴隷たち……反逆のチャンスが訪れたんで、商人共々この村の人間を皆殺し。その上錯乱状態で同じ奴隷仲間をも殺害……誰もいなくなりました」


「本気で言ってる?」


「まさか」



 口端を釣り上げ、グレゴは笑う。



「もしそうなら事件解決は楽だったのにって妄想だよ。明らかに第三者がヤった傷や、被害がこの村だけでなけりゃこの仮説も成り立ったんだがな」


「そうね」


「それに、どうにもきなくせぇ」



 もし、今グレゴの話したように単なる奴隷の反逆なら……それでよかった。いや、よくはないが……少なくともこんな迷宮入り一歩手前の事件にならずに済んだはずだ。


 先ほどのグレゴではないが、そもそも自分達が調査隊として送られること自体が異常なのだ。それも、二人も。


 いかに悲惨な現場とはいえ……自分達を動かすことなど、それこそ魔王級の災害が現れたときでもなければあり得ないだろう。


 それに、わざわざ自分達を調査に向かわせ、奴隷の存在を教えることもない。王国が奴隷の存在を知らなかったというのは、考えにくい。つまり……王国が、奴隷という闇を明るみにしてでも今回の事件を解決したいということ。


 それほどまでに、切羽詰まった状況……



「まさか、魔王が復活した?」


「だったら、あちこちに魔物が徘徊してるはずだ。魔物ってのは、魔王が現れりゃ出現、魔王が消えりゃ消滅……それがねえってことは、魔王は復活してねえ」


「でも、魔王級の災害が起こってるのは確か……王国は、私達になにか隠してる?」



 というか……王国は本当は、この現状を生み出した犯人を知っている、もしくは目星がついているのではないか。だとしたら、教えない理由がわからないが。



「あぁー、やめやめ! 考えても俺の頭じゃなんもわかりゃしねぇ!」


「さすがは筋肉ダルマ」


「うるせえ、そんな柄じゃねえんだよ。考えるのはお前か国のお偉い方さんに任せるとするわ。俺のやるべきことは……こんな吐き気のする光景をプレゼントしてくれた人でなしに、きっちり落とし前をつけさせることだ。誰であろうと、容赦はしねぇ」


「……そう、だね」



 グレゴはまだ、この被害者の傷が彼女のものに酷似していることに気づいていないが……わざわざ別に不安材料を与えることもない。


 グレゴの言うとおりだ、今は別の考えても仕方ない。もちろん追々は考えなければいけないことだが……あまり多くの考え事に気をとられ過ぎても、次への対応が遅くなってしまうだけだ。


 奴隷、犯人の目星、隠してること……追求したいことは山ほどあるが、今は目の前のことに集中しよう。


 この悲惨な現状を生み出した犯人に、親友の戦い方を汚した犯人に、報いを受けさせる。


 そう、誓いを立てた直後だった。



「い、いた! け、『剣星』グレゴ・アルバミア様! 『魔女』エリシア・タニャク様! 急ぎ報告が!」


「ねえ、いい加減『魔女』って呼び方やめてくれない? なんか『魔王』と響きが似ててヤなんだけど」


「いいじゃねえか、せっかく付けてもらった二つ名だ大切にしろ」


「なによ筋肉ダルマのくせに偉そうに!」


「俺は『剣星』だ!」


「ずいぶんおっさんな『剣星』がいたものね!」


「チビ『魔女』に言われたくねえ!」


「あんたがでかぶつなだけでしょ!」


「そう言うならもっと身長に栄養が行くよう努力しろ!」


「なんですってぇ!」


「なんだよ!」



 一人の兵士が、二人を呼びに来る。しかしその呼び方一つでさえ、二人の口喧嘩へと発展してしまう。


 『剣星』と『魔女』の喧嘩など(口とはいえ)、一介の兵士に止められるはずもない。本来ならば熱が冷めるまで待つところだが……今回は、緊急を要する。



「あ、あのお二方!」


「なんだ!」


「なによ!」



 二人の覇気に怯みながらも、逃げるでなく兵士は己の役目を果たすことを選ぶ。



「お、王国より伝令です! 王国が……マルゴニア王国が、何者かの襲撃を受けました!」


「「!?」」



 切羽詰まった兵士の言葉……それは、言い争いをしていた二人の頭を冷やすには、充分な内容であった。

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