【9月30日非公開予定】利用し合う仲
自我を失い、本能のままに暴れ狂う奴隷たち。ある者は同じ奴隷仲間を、ある者は自分達を奴隷にした憎き商人を、ある者は人気のあるところへと……
そして標的は、側にいたユーデリアにも向けられる。しかし……
「ぐらぁ! おっ……」
ユーデリアは、正気を失ったとはいえ同じく奴隷の境遇を同じくした者を、容赦なく切り裂いていく。一人、また一人と……
……そして数分と経たないうちに、自我を失った奴隷たちは全滅した。リーブスも、ロッシーニも。そして、今私の足の下にいるコルマも。
いかに正気を失おうと、頭を潰されればもう生命活動は停止するだろう。
「やるね、キミ……うん、改めてキミがほしくなったよ」
腕には藍色に染まった体毛が生え、鋭い爪が伸びているユーデリアに、私は恐れることなく近づいていく。あれ、狼の腕かな。部分変化とか、カッコいい。
ユーデリアの方はまだ警戒心があるようだけど……そんなもの、関係ない。せっかく面白いものを見つけたんだ、ここで逃しておく手はない。
「あれだけの数を、一人でさばいちゃうなんて。予想以上だよ」
あの素早い動き、容赦のなさ、そして美しいとさえ思える攻撃さばき……これが氷狼か。ますます、興味が湧いた。
「……あんた、ボクをどうするつもり……だ」
へぇ……
「キミを買ったご主人様をあんた呼ばわり……しかもプレッシャーを与えておいたのに、もう克服してる。見た目以上にタフなんだねキミ」
「っ、いいから、質問に……」
「私に協力してくれない?」
その戦闘力、ためらわなさ、タフさ……これは思った以上の掘り出し物かもしれない。
私の言葉の意味がわからないのか、ユーデリアはきょとんとしている。
「きょう、りょく……? いったい、なんの……」
「あー、協力とは違うかな。……私の目的のために、キミを使ってあげる。拒否権はないよ」
そう、協力なんて、そんな馴れ合ったことはしない。私がただ、この子を自分の都合のいいように利用する……ただ、それだけのことだ。
ユーデリアは、私の言葉を聞いてからなにか考え込むように黙っている。拒否権はないって言ったのに。
「目的、って?」
「キミも興味のある話だと思うよ。……この世界への復讐」
この世界への、復讐……その言葉を聞いた瞬間、ユーデリアの目が見開かれる。あぁ、やっぱり興味あるんだ。
「キミも、この世界にうんざりしてるんでしょ? それに、同じ奴隷仲間も容赦なく切り裂くその精神力……うん、使えるよ」
「使える使える、って、ボクはお前の……」
「キミを買ったのは私だよ? けど、私を利用したいなら、キミも私を利用すればいいよ。馴れ合いはない……けど、目的が同じなんだから、互いに互いを利用すればいい。それだけだよ」
別に私は、この子を死ぬまで使い潰そうとか、そんなひどいことは考えていない。結果的にそうなる可能性は否めないけど。
けど、この子にすべてを押し付けて自分は高みの見物、なんてこともしない。やっぱり私は、私の手で事を成したいからね。
「復讐……わかった。その話ノッてやる」
「買い主は私だってのに生意気だなぁ。ま、いいんだけど」
この子が今生きているのは、私が首輪や手錠の拘束具を外したから……その辺り、もうちょっと感謝してくれてもいいと思うんだけどなぁ。
「ボクはボクを奴隷にしたこいつら……いや、この世界が嫌いだ。けど、言っとくが目的が同じだからってあんたも例外じゃない。いつだってその寝首をかいてやる」
「ふふっ、どーぞご自由に」
生意気だけど……ただ自分に付き従うよりも、こうやって反抗されてた方が……うん、退屈しなくて済みそうだ。
「それにしてもあんた、何者なんだ。奴隷を買うくそ野郎かと思ったら、そのくそ野郎を殺すし……」
「うーん……ま、追々教えてあげる。今は、やることがあるでしょ?」
私の話……そんなものは、後で適当に話せばいい。真実を教えてもいいし、嘘を混ぜたっていい。この子が私の名前を知ってるなら、大抵のことは教える必要なさそうだけど。
ただ、今は……やるべきことがある。先ほどから、表通りの方から悲鳴が聞こえだした。この場から逃れた、自我を失った奴隷が一般人を襲っているのだろう。
その混乱に乗じて……この村の人間を、皆殺しにする。
「その前に……これ、持っとこ」
ひとりでに動き回っていた『呪剣』は、今地面に突き刺さっている。それを抜き、鞘にしまう。
あの変態の持ち物って点はすごく気持ち悪いけど……持ってれば、なにかに使えそうだ。自我を奪う剣……面白いことになるかもしれない。
新しい武器に、互いを利用し合う人物……この村での収穫は、非常に大きいものとなった。




