【9月30日非公開予定】呪剣
私の背後から、左脇腹に突き刺さるそれは……誰も使い手のいない、壊れたはずの剣。『呪剣』と呼ばれた、禍々しい剣だった。
「じゅ……けん……!?」
なんだその名前……進学のための勉強の名称かよ!
って、言ってる場合じゃない……これは、ヤバい。刺された以上に、なにかがヤバいって、本能が告げている!
「ぬ、ぁあああ!」
だから私は、剣を握りしめ……無理やり、引き抜く。突き刺さっているそれを無理やり引き抜くなんて、そんなの体に負担でしかない。
当然傷口からは出血し、服にも血がにじんでいく。痛い……けど、とっさに体を捻ったのが幸運だったのか、急所はうまく外れていた。
けど……
「な、にこれ……!」
体が、変だ。刺された痛み、出血による貧血……それもないとはいえないが、それとは違う。なにかが、変だ。
まるで、体の内側からなにかが、私の体を侵食してきているような。
「ふ、ふふ……さすがは『英雄』サマ。それに刺されたってのに自我を保ててるなんてな」
「……?」
なんだ……この『へんな剣』の違和感は、このなにかと関係あるのか?
「『呪剣』……文字通り呪いの剣さ。斬った対象に、自我を奪う呪いをかける。斬られた人間は、自我がなくなり正気を失ったように暴れまわるのさ」
ペラペラと、聞いてもいないのによくしゃべるな……それにしても、斬った対象の自我を奪う、か。なんて厄介な……私の体の中にあるこれも、自我を奪おうとしているってことか。
自我……自我? 正気を失う? ……そういえば、この村に来る前の集落、燃えていた。そこにいた、王国元騎士はとても、正気を保ったままの状態とは思えなかった。
まさか……コルマが、あの元騎士を斬り、それにより自我が奪われたことによりあんな凶行に及んだってことか!
「ぐっ……くらくらする」
「耐えているなんて、さすがだよ。けど、すぐに楽にしてあげるからね?」
刺しても、私がまだ自我を保っていることが不思議なようだけど……一応『英雄』と呼ばれた私だ。そういう耐性みたいなものは、あるんだろう。
それにしたって、背後にはあの剣、前方にはいくらダメージを与えても効いてないコルマが……ダメージが効いてない?
まさか、あいつも剣で斬られて自我を失ってる? いや、だとしたら集落で見たあの元騎士とはずいぶん違う。自我はある、でもダメージが効いてない……
「まさか、使い手だから……?」
そこで一つの仮説が。斬った斬られたではなく、剣の使い手だから……なのではないか。自我を奪う、なんて馬鹿げた力があるんだ。使用者の痛覚を切る、とかいう力があっても不思議ではない。
ダメージ無効ではなく、痛覚遮断……こう予想したのには、理由がある。いくらなんでもダメージ無効なんて、そんな国宝級の武器がこんなところにあるわけないし……なにより、コルマの体がそれを否定している。
見た目は、見ていられないほどにぼろぼろであるがぴんぴんしている。ように見える。
だけど、私の目はごまかせない。ちゃんと、体にダメージは蓄積されている。ダメージは無効にされたんじゃない、ただ痛覚がなくなっただけだ。
だから、叩き続ければいずれ限界が来る!
「その傷で、まだ動けるのか……さすが『英雄』サマだねぇ」
「この程度、どうってことないよ……こんなんで倒れてちゃ、私はもう死んでた」
そうだ、たかが脇腹を刺されたくらいで死んでるなら……私はすでに、死んでいる。それほどに過酷な旅を、してきたんだから。
「ふぅん。ま、強がりだね。さっさとくたばったほうが身のためごばぁ!?」
「ペラペラと、しゃべる口だね」
ダメージがないことが本人に余裕を持たせているのか、よくしゃべる。おかげで隙だらけ、その隙に私は、コルマの横っ面におもいっきり蹴りこむ。
万全のコルマなら、いくら私が超速で動こうとも見切っていたはずだ。だけど、こうも簡単に受けたということは、余裕が大きかったか……やはり、ダメージが蓄積されているのか。
「っ、く……調子にのぺぁ!?」
「もう、自由にはさせない」
吹き飛んでいたコルマの顔面に足先で蹴り、その口を無理やりに塞ぐ。どんなに強がっても、私の攻撃をもろに受けて、無傷なんてことはない。
得物をなくし、すでに何発も入った。こいつはもう、限界が近いはずだ。もしかしてこいつのあの異様な強さは、剣によるものだったのか?
「うぁあ!」
「きゃあ!?」
「ひ、ひぃっ! やめっ……!」
このままコルマにとどめをさしてしまおう……そんな気持ちになっていた時、悲鳴が耳に届く。それは、奴隷が集まっていた場所から。
視線を向けると、そこには……ひとりでに動く『呪剣』が、奴隷たちを次々と切りつけている光景があった。
「……!」
もう、剣がひとりでに動くことに驚くことはしない。もともと魔法なんて不可思議なもののある世界だ、なにがあったって不思議じゃない。
問題は……そう。自我を奪う力を持つ剣が、複数の奴隷を切りつけているということだ。
それは、つまり……
「あ、うぅ……」
「が、ぅぁ……」
奴隷たちは自我を失い、狂ったように暴れだす。拘束具で拘束されているとはいえ、それでも正気を失ったあいつらはただでは止まらない。
「お、お前たちなにを……やめろ、私を誰だと思っ……ぅあぁあああ!?」
正気を失った彼らは、リーブスへと襲いかかる。リーブスは防衛のために首輪から電気を流すが、正気を失った彼らにはそんなもの効くはずもない。
囲まれ、袋叩き……正気を失ってもリーブスを襲ったのは、単に近くにいたからか、それとも心の底にある恨みの感情が強かったのか。
しかし、あれじゃあせっかく私が買った奴隷も……
「……ふっ!」
しかし、心配するには至らなかったらしい。私の奴隷……ユーデリアは、その素早い身のこなしで剣撃をかわしている。
あの動き……やっぱり、私の目に狂いはなかったな。
けど、正気を失った奴隷たちがユーデリアや私を狙うのは時間の問題だ。さて、どうしたものか……
……考える必要なんて、ない。正気を失ったのなら、殺すときになにを考える必要もなくなった。それだけのことだ。




