【9月30日非公開予定】反逆
コルマの次なる攻撃に対して警戒をする中……どこか気の抜けたような、いや無理やり自分に気合いを入れたかのような声が響く。同時に、鈍い音も。
鈍い音の正体……それは、奴隷の動きを拘束していた首輪によるものだ。それが、コルマの後頭部に振り下ろされた。
奴隷の首輪は、言うまでもなく奴隷の首に付けられていて、それを外す術はない。手段はひとつだけ……首輪を外す鍵を、使うことだ。そしてそれは、商人か買い手しか手にできない。
商人が奴隷の首輪を外すことはない。となると、奴隷を買った……私。つまり、私が買った奴隷であるユーデリアが事に及んだか。
しかしユーデリアは、後ろで突っ立っている。だから彼は除外。他に候補は……一人だけ。
「お、お前……キャロル・ニーヤ!」
コルマを殴り倒した人物の姿を確認したロッシーニが叫ぶ。その人物はそう……先ほどコルマ自身が買った、絶世の美女と謳われる人物だ。
その人物が、いつの間にかコルマの背後に回り……コルマの頭に、外されていた首輪を叩きつけていた。
コルマ、あれだけ奴隷を見下していたのに、首輪外してたのか……もっとも、キャロル・ニーヤに同情して、なんて理由とかではないだろうけど。
ともかく、コルマがキャロル・ニーヤの首輪を外したことで、彼女が反撃の手にうって出たのは紛れもない事実だ。
重く、固い……紛れもなく凶器となる鈍器。それをぶつけられたコルマは、地に伏したままピクリとも動かない。
「き、貴様ぁ! なにをしたか、わかってるのか!」
鬼の形相で、ロッシーニが叫ぶ。その迫力に、キャロル・ニーヤは体を震わせるが、先ほどまで死んでいた目はそこにはない。
「ふ、ふざ、けないで! わた、しは、奴隷、なんかじゃ……ない! 私は、ちゃんと、生きてる、人間で……奴隷なんかじゃ、ない!」
それは、確かな反逆。これまで奴隷として自由を奪われてきた人間が、この日初めて、自ら反逆の意思を示して……
「へー……そうなんだ」
ゾワッ……
この時、久しぶりに悪寒というものを感じた。背筋を寒気が走るような……いや、そんな甘い感覚ではない。背筋をねっとりとなめられているような、そんな感覚。
出血し、倒れていたはずのコルマは……立ち上がる。痛みを気にすることもなく、まるでゾンビのように。
「ひぃいいい!」
「奴隷じゃないか……そうかもね。お前はただの……奴隷以下の雌豚だったようだ」
たった今鈍器を後頭部にぶつけられたにも関わらず、あれだけの出血をしているにも関わらずあの男は、痛みどころか隙すら一切見せない。
どころか、怪しく目を光らせ……キャロル・ニーヤの首を、素早い動きで掴み上げる。
「がっ……ぁ」
「いやぁ俺としたことがまさかこんな不意打ちを避けられないなんて。アンとの遊びに興じていたとはいえ、油断したよ」
遊び……遊びか。あの男、先ほどまでの死闘を、遊びと言うのか。
どんなからくりか知らないが、コルマはダメージを感じていないようだ。まったく……こんな奴、初めてだ。
このまま黙って観察するのも悪くはないけど……せっかくあの変態に一矢報いたあの女があの変態に殺されるとこは、あまり見たくはないな。
「せっかく、俺の物に染め上げてやるつもりだったのになぁ……けど仕方ないよ。ご主人様に逆らう物なんて、いらないからさ。死ん……!」
「ぜぇい!」
コルマがキャロル・ニーヤに夢中のうちに、横っ腹に一撃与えられれば……そう思った一撃は、やはり止められてしまう。しかも、今度はキャロル・ニーヤを掴み上げるのとは逆の手でだ。
「まったくせっかちだなぁアン。そんなに俺と遊びたいのかい?」
「くっ……!」
素手で私の拳を受けて、なんともないなんて! 別に身体強化の魔法を使ってる訳じゃない……というか、そんなもので私の拳が防がれるわけがない。
今のこいつは、得物を失い、ただ耐久力が高いだけだ。多分、魔法は使えない……それなのに、なんだこの違和感は?
そう、こいつは素手で、素手同士なら私が遅れをとることなんて……
「……っ、ぐっ……!?」
刹那の思考の最中……痛みが、思考を中断させる。突如として、左脇腹に走る痛み……なんだ? まさか、先ほどのキャロル・ニーヤのように、私も自分が買った奴隷にやられたのか?
いや、コルマを相手にしながらも、ちゃんと周りに気配を配っていたはず。それに、あれだけびびらせたんだから簡単には動けない。
なら、いったい誰が……
「!? なっ……」
痛みのある部分……左脇腹に視線を落としたことで、ようやくその正体がわかる。誰がそれをしたのか。
……いや、正確には誰が、ではない。
「け、ん……!?」
先ほど、確かに私の拳で砕いたはずのあの『へんな剣』が、私の体を突き刺していた。しかも、剣を持つ人間はいない。
つまり……状況だけ見ると、『破壊した剣が再生し、その上でひとりでに動いて』私を刺したということになる。そんなこと、あるわけが……
「ま、さか……魔法!?」
可能性として考えられるのは、魔法により破壊された剣を復元し、さらに触れずに動かすことで、あたかも剣がひとりでに再生して動き出す、を演出するというもの。
それができるのは、今この戦いを見物しているリーブスかロッシーニ、もしくは奴隷しかいないが……
「はは、考えても無駄さ……」
「?」
またも、私の心を読んだかのようにコルマが、笑いだす。
「誰が動かしたとか、そんなことじゃない……そんな必要すらないのさ、その剣は」
「必要、ない……? なにそれ。それじゃまるで、ホントに剣がひとりでに動いたみたいな……」
「そうさ、動く……いや生きてるのさ! その剣は呪われてる……『呪剣』なんだからな!」
ひどく歪んだ笑みを浮かべて、コルマは叫んだ。




