【9月30日非公開予定】奴隷との付き合い方
氷狼の少年奴隷、ユーデリア……実力だけならば、この子より使えそうな者は他にたくさんいる。ただ、私の直感はこの子を選んでいた。その理由がわからないけど。
さて、この度タダでこの子を買えることになったわけだけど……今後の方針を決めないとな。隙をついて、こいつらを皆殺しにしてしまうか……
それとも、こいつらにはまだ利用価値があるかもしれない。だから、この場は敢えて見逃すか。
その場合、こいつらはこの先も奴隷を手に入れ続ける。それに、あのキャロル・ニーヤという奴隷は、コルマに汚されてしまうだろう。あの男、下心丸見えだ。
別にこの世界の人間がどうなろうと知ったことではないけど、彼女がなにをされるかわかっているのに放っておくというのは、同じ女として気分のいいものではない。
「今なら……」
今なら、リーブスはなにか書類を書いている。商品が売れたから契約書みたいなものを書いているのかもしれない。コルマとロッシーニは、キャロル・ニーヤに夢中だ。というか、なんか値段交渉してる。
今なら、全員の注意がそがれている。今なら、こいつらを……
「アン、どの奴隷にするか決めたんだね」
「……!」
な、に……? いつの間に、私の背後に? 私は確かに、コルマ……いやこの場にいる全員に注意を向けていたはずなのに。
しかもこいつ……この場をどう処理してしまおうか考えているこのタイミングで。やっぱりこいつ、心を読めるんじゃないのか?
「えぇ。あの子に……」
「へぇ、小さな男の子か。アン、もしかしてそういう趣味かい?」
「あははー、張り倒しますよ?」
本当に、この男は何者なんだ。素性がわからないのはまだしも、私でさえ気配が読めないなんて。
やっぱり、こいつを殺すのは至難の業、かな。
「む? ……あぁ、ただの獣人じゃなく、氷狼族か。こんな珍しい種族がいるなら、言ってくれればいいものを。リーブス殿も人が悪い」
「ほっほ、今回はアン殿への初回サービスということで」
初回サービスねぇ……言葉だけならすごいお得感だけど、扱っているものが奴隷だからな。
「アン殿、では契約書にサインをお願いします。その後、首輪と手錠の鍵を渡すことになります」
「あ、はい」
リーブスは一枚の紙を差し出し、私に渡す。契約書、ねぇ。なになに……『奴隷が壊れたとしても、一切の責任は飼い主にあると……』……やめとこう。全項目読むだけで気分が滅入るだけだ。
どうせいずれ殺す奴らだ……ここは、適当でいいか。
「アン・クーマ……これで、いいですか?」
「ありがとうございます。……えぇ、これにて完了です。そしてこれが、首輪と手錠の鍵です。しかし気を付けてくださいね、電気を流す首輪は、外してしまうと機能しなくなります。ないとは思いますが、拘束が外れた瞬間に私達を殺そうと襲い掛かってくるものもいますから」
「はい」
なるほど……あの電気を流していたのは首輪か。それがなくなることで、襲い掛かってくる者もいる……ま、当然の結果だな。
それでも余裕そうにしているのは、拘束を外しても襲ってこない自信があるほどに痛めつけているのか、それとも手練れのコルマがいるからか。
なんにせよ……これで私は『人を買った』。また、一線を越えてしまったな……ま、一般人を殺した時点で、いや元の世界ですべてを失った時点で、なにがどうなっても構わないと思ってるけど。
「無論、拘束具を外さないまま購入される方も多くいます。いえ、むしろそちらの方が多いくらいですね。拘束を外す者といえば、コルマ殿のように腕に覚えのある方。奴隷を買ったと周囲に悟られたくない方。もしくは、付けたままでは興奮できない、といった方々でしょうか」
「……そうなんですか」
別に聞きたくもない情報をありがとう。
とはいえ、そうか。別に奴隷を買ったからって、その奴隷の拘束具を外さなきゃいけない決まりはないんだ。拘束具を付けたままだと、それだけで奴隷だという証になる。
もちろんスカーフなんかで隠すことはできるだろうが、見栄えの問題で外す人もいる、か。見栄えを気にする人間が奴隷を買うかは知らないが。
それに、まあ飼い犬に手を嚙まれたくない人、か。それプラス、目を離した隙にどこへ逃げられるともわからない。それこそ、寝首をかかれる可能性だって。
そう考えると、案外拘束具を付けたままの人は多いのかもしれない。
「私は、使わせてもらいます、鍵」
本来ならば拘束具は付けておいたままの人が多いらしいが……そんなもの、私にはたいした問題じゃない。
おとなしく従ってくれるならばそれでよし。瞬間に襲ってくるのであればそのときは……
「じゃあ外すから、じっとしててねー」
鍵を手に、首輪の鍵穴を探す。こんなものから、電気を流され無理やり言うことを聞かせられているのか……
同情のつもりはないが、ふと思いを馳せながら、カチャカチャと鍵を開けていく……
「……っ!」
鍵を開け、首輪を外した……その瞬間、目の前の男の子から殺気が溢れだし、大きく口を開けてその鋭い牙を、私の首筋へと狙いを定め、飛びかかってきた。




