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【9月30日非公開予定】人身売買の世界



 並べられた奴隷たちは、ざっと十余名。人族や獣人など、その種族は様々だ。それに見間違いではなく、本当に老若男女と揃っている。


 みんな、その瞳に生気はない。憎しみ……というよりは、諦めの感情が大きいかもしれない。



「……これが、奴隷」



 服と言えないほどにぼろぼろの布を着せられ、手錠と首輪で自由を奪われている。彼らがこれまでどんな人生を歩んできたのか、私には想像することもできない。


 けど、この村では当たり前のように奴隷が売買され……それが、当たり前のように受け入れられている。もちろん、全員が全員コルマのような人間ではないだろうが。


 しかし、先ほど市場と言っていたし……奴隷を売買する場所が、あることには違いないだろう。



「どうですかなクーマ殿。若い女性なら、やはり屈強な男を好みますかな? 労働力にするもよし、サンドバッグにするもよし、それにイロイロと使うのもよしですからな」



 下品な笑いが、耳障りだ。けど、それを顔に出すわけにはいかない。


 リーブス曰く、男は女の、女は男の奴隷を買うことが多いのだとか。例外もあるが、基本的には異性が多いらしい。


 その理由は、自分にはできないことをやらせるためのものとして買うらしいが……一番の理由は、性処理に使うためだという。


 奴隷とは、人の姿をしているだけの物……そんな認識だから、罪悪感もなく、抵抗もしない奴隷に好きなだけ己の欲望をぶつけるのだ。


 そんな理由ばかりではないのだが、物言わぬ奴隷を好きに組み敷きたい……そんな、人間の欲望が爆発している。特に、エルフや猫耳が生えた程度の獣人などは、男に大人気らしい。



「こちらなどいかがです? 二メートルを越す屈強な男、ニファル・カナテラ。荷物持ちとしてばっちりですし、肉壁としても優秀! ナイフ程度では、この体に傷一つつけられませんぞ!」



 次々紹介されていく奴隷の中で、強調して紹介されるカナテラという男。その言葉通り、屈強な筋肉を持った男だ。正直、この男ならば逃げ出せるんじゃないかと思える。


 筋肉を強調するためか、単にもったいないからかは知らないが、彼は上半身にすら布を着せてもらっていない。すごい筋肉だ。


 そんな彼ですら、抵抗の意思は死んでしまっている。逆らう気力がなくなるほどの行為を受けたのか、それとも逆らえないなにかでもあるのかはわからないが。



「試してみましょうか。この、触れただけで指も切れるナイフ……これを、突き刺します!」



 言葉よりも見た方が早いと言わんばかりに、鋭いナイフを取り出す。実際に自分の指を軽く切ってから、それが本物であることを確認。


 そして、そのナイフをニファル・カナテラの腹部へと突き刺す。本来ならば、その刃は肉を裂き貫通してしまうだろう。……だが、そうはならない。


 紹介された通りに、その体はナイフを通さない。まるで鉄に突き刺しでもしたかのように、切っ先は体を抉ることなくその場で動きを止めている。



「ほっほ、どうです! まさに壁にぴったりの……」


「……もう、我慢できねぇ! ふざけんじゃねぇ!」



 しかし次の瞬間、ニファル・カナテラが口を開く。初めて聞いたその声は、怒りに満ちていた。これまで我慢していたものが、溢れだしたようだ。


 その瞳は、輝きを取り戻している。屈強なのは、体だけじゃなかったってことか。


 手錠をされているとはいえ、腕を動かすことはできる。ニファル・カナテラは両手を振り上げ、商品リーブスの頭へと振り落とされる。あれが直撃すれば、並みの人間など簡単に潰されてしまうだろう。



「……やれやれ、立場を忘れたようだな」



 次の瞬間、冷たい声が響く。それは間違いなくリーブスのもの……私やコルマに向けていたのとは、まったく違うものだ。これが、この男の本性か。


 リーブスは。パチンと指を鳴らす。すると、ニファル・カナテラの体に電気が流される。しかも、静電気とかそんな生易しいものではない。下手をしたら死んでしまうんじゃないかと思えるほどの、膨大な。


 電気が収まると、ニファル・カナテラは倒れる。密かに体は動いているから、死んではいないようだが……なるほど、あの首輪か手錠から、電気が流されているのか。


 今みたいに逆らったりしたら、その度に流される。それによって、奴隷の心を殺すのだ。恐怖での支配……現に、今の光景を見た奴隷達は皆、震えている。



「お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ありません。あれはまだ商品として使い物にならないようですね」



 なんでもないように、今の流れについて軽く流していく。これが、こいつらのやり方ってことか。



「さあ気を取り直しまして。こちらは武術の達人! さらに世にも珍しきドラゴンと人間のハーフである男カタナム・テンペスト! 観賞用とするもよし、ボディーガードとして使うもよし」



 見た目は普通の人間……しかし、その皮膚は人間のものとは大きく違っている。きらやかに光り、美しくその存在を主張している。ドラゴンとのハーフというなら、あれはおそらく鱗だろう。


 というか、ドラゴンと人間のハーフ、なんていう存在に驚きだ。そんな希少な存在、それだけで高値がつきそうだ。


 その上、武術の達人か……ふむ、なるほどね。これは、欲しがる奴らも多そうだ。



「ロッシーニ殿、これは?」


「おぉ、さすがアルファード殿、お目が高い。それはかのサラダバ王国で絶世の美女と謡われていた歌姫、キャロル・ニーヤ。その歌声は聞く者の心を震わせると言われてしまう」


「ほほぅ、これはこれは……」



 離れたところでは、一人の奴隷に興味を示しているコルマの姿があった。……へぇ、女の私から見ても、確かに美女と呼べるほどだ。


 ぼろ切れの布しか身にまとっていなくても、その美しさが損なわれることはない。しかも、歌声か……興味はあるな。


 そんな彼女を、コルマは下品な眼差しで見つめている。体の全身をなめ回すように。ぼろ布しか身に付けていないので、見えてはいけないところが見えてしまいそうだ。



「ふぅむ、気に入った! こいつを買おう!」


「ありがとうございます。今回の目玉商品だったのですが、アルファード殿に買っていただけるなら本望です。では、本来ならこれくらいのところを……いつもご贔屓にしていただいてるアルファード殿に大マケして、これでいかがでしょう」


「うぅん、もう少し安くはできないか?」



 あの目は絶対に、キャロル・ニーヤを使って良からぬことをしようとしている目だ。良からぬといっても、犯罪的なことではなく、自分の欲求を満たすためだけのもの。


 そもそも奴隷……いや人身売買が犯罪ではないのかと思うが、それは世界、国によって違うのかもしれないから、考えないでおこう。



「クーマ殿? もしやクーマ殿も、ああいった奴隷をお求めで?」



 ……さすがは裏の人間。私の密かな目の動きも、見逃さなかったようだ。



「いえ、ずいぶんコルマは、あなた達と仲がいいんだなと」


「ほっほ、アルファード殿はお得意様ですからなぁ。仲がいい、というよりは協力関係と言った方が、正しいかもしれませんね 」



 奴隷の協力関係なんて、聞いただけで悪寒が走る。


 あぁ、この空間にいると、心が廃れてくる……と同時に、どうしようもない感情が沸き上がってくる。


 あぁ、この世界の人間を殺すのに、躊躇する必要はないんだな……と。



「……ん?」



 奴隷を紹介される中でふと、私は足を止めていた。なぜかはわからない……が、目の前に立つ奴隷に、なにかとてつもない興味を惹かれたのだ。

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