【9月30日非公開予定】奴隷の村
奴隷……コルマは、彼らのことを確かにそう言った。それが冗談でないのは、彼らが身にまとう服とも呼べないぼろ切れのような布、重々しく付けられた手錠、首輪が物語っている。
そして……怪しく笑みを浮かべる、コルマの表情は不気味以外の何物でもない。なぜ奴隷を目にして、こんなうれしそうな表情を浮かべるのか……その答えはおそらく一つ。彼も『あっち側』ということだ。
あそこで話をしている三人の男。三人中一人か二人かの比率はわからないが、奴隷の売り手と買い手なのだろう。コルマは、買い手の人間……
「ど、れい……」
私は、初めて見るその存在に口の中が渇いていくのを感じていた。以前この世界にいた時は、奴隷なんて存在、見たことも聞いたこともなかった。
……当然だろう。この世界を救おうって勇者に、好んで奴隷の存在を明かす奴はいない。
もし、奴隷のような、この世界に恨みを持つ人間がいれば……そう考えたことはあるが、まさか本当に奴隷なんてものがいるとは。この村に着いてからの違和感……その正体が、これか。
そして、気になることはもう一つ……
「あの、なんで私をここに?」
コルマの用事というのは、奴隷に関することで間違いないだろう。それはわかるが、なぜこの現場に私を連れてきたのかということだ。
普通なら、なにも知らない人間にこんな、人間の闇の部分を見せようとは思わないだろう。
「あぁ、それは……アンも、奴隷に興味があるんじゃないかと思ってね」
「……」
この男は、本当にどこまで人の心を見透かしているんだろう。
チンピラから助けてくれたときは、どうしようもないくらいにいい奴とも思ったけど……とんでもない。この男は、腹に底知れぬなにかを抱えている。
この村自体が奴隷を感知しているのか、それはわからないけど……下手な手は、打たない方がいいようだ。
「私が奴隷に興味がある……もしかして、売りつけようとしてます?」
私のことをそう認識して連れてきたということは……てっきり買い手のほうだと思っていたが、売り手の方だったのか?
「いや、そうじゃない。ただ、あの人達には俺も世話になってるんでね。新しい顧客になってもらえたらなと思って」
涼しい顔で、とんでもないことを……新しい顧客って、企業のマーケティングのノリでなんてことを言うんだこの男は。
どうやら、コルマは奴隷を定期的にあの男達から買っているらしい。だが、それにしては……
「お世話になってるわりには、お一人みたいですけど?」
コルマが誰か奴隷を連れている様子はない。もしかしたら近くに隠れているのではないかと思っただ、そんな怪しい気配はない。
「あぁ、今は一人なんだ。だから、新しい奴隷を買うためにここに来たんだ」
「今は?」
なんだろう、この嫌な感じ……この男からは、とんでもなく嫌な感じがする。
「そう、今はね。以前買った奴隷なんだが、根性のない奴でね。凶暴化したモンスターを倒すために突っ込ませていたんだが、途中でもう嫌だと泣き出した挙句に逃げ出そうとしたから仕方なく、ね。だって主人の命令に背いて逃げようとしたんだ、処理されるのは当然だろ?」
「……」
モンスターに突っ込ませた……おそらく、単騎で行かせて自分は高みの見物だったんだろう。しかも、モンスターでなくコルマ自身が奴隷を殺したのか。
「まったく、上物を勧められているはずなんだが、どいつもこいつも使えない。その前に買ったメスは、身体だけは好みだったんだ。だから余計なことは言わさず、ただ処理するための慰み者として傍に置いたんだが……長続きしないうちに壊れてしまってね。……あぁ、女性の前でする話じゃなかったかな。けど安心してくれ、アンは人なんだから、そんなことはしないよ」
「……そう、ですか」
ぺらぺらと、よく喋る口だ。この男、よほど奴隷に執着があるらしい。
それにしても、やはり……奴隷は『人』でなく『もの』としてしか見ていない。危険なモンスターとの戦いに使う駒や、性処理のために玩具として扱う……およそ人間に対して行う行為ではない。この男は、とんでもないクズだ。ま、奴隷が協力者としていたらって考えていた時点で私もそう変わらないか。
けど、なにより反吐が出るのは……この男が、自分の奴隷事情を赤裸々に話すほどに、私のことを『同類』として見ていることだ。
私自身、すでに人の命を奪っているから、そう言った点では同類なのかもしれないが。
「お、そろそろよさそうだ」
コルマの言葉の意味……それは、三人いたうちの男の一人が、その場から去っていっているところだった。つまり、残った二人が、馬車を引いてきた男から奴隷を買い……そこからさらに、コルマのような買い手に売っていくということか。
野菜や魚市場でも、新鮮な品物を新鮮なうちに売り……その後売られたものはスーパーなどに並び、新たに売られていく。嫌な例えだが、そういうことだろう。
そして、二人になった男達が、彼らの馬車へ奴隷を入れているところで……コルマが、動く。
「お二人共、ご無沙汰しています。コルマです」
「ん? おぉ、アルファード殿。これはこれは、いつもご贔屓に」
「いえ、こちらこそ。早速ですが、今仕入れたばかりの奴隷……買わせていただきたい」
奴隷を、買うために。




