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【9月30日非公開予定】『へん』な剣



「おい、なにをしている!」



 通行料を払えと、わけのわからない男たちに囲まれていた私であったが、突然かけられた言葉に意識がそちらへと引き寄せられる。


 それは、私を囲っていた男たちも同様にだ。



「なんだぁ、てめえは」



 やれやれ、手っ取り早くこの男たちを殺そうと思っていたのに……誰だろう、水を差したのは。


 もっとも、本人は正義感からやっているのだろう。でなければ、こんな物騒な現場に自ら首を突っ込もうとしない。


 そうか……この人は『いい人』なんだろうな。



「一人によってたかって、恥ずかしくないのか?」



 その男は、ボニーよりも一回り大きな二足歩行のトカゲに乗っていた。あれは……リザードル。


 人の姿形、身長であるリザードマンとは違い、ちゃんと動物寄りの生き物。本来ならば馬車とかそういったものを引くのに適しているのだが、この男は一人で乗っている。


 男は、リザードルから降り、男たちに……ややこしいな。チンピラたちに、近づいていく。見たところ、得物は腰に下げた剣一本だ。


 体の鍛えられたチンピラと違い、男はなんの武術も学んでいないと思わせるほどに痩せた男。長身に、肩まで伸びた髪を後ろでまとめているのが印象的だ。


 単に実力差では、チンピラ三人に瞬殺されてしまうだろう。


 ……普通に、考えれば。



「あぁ? っるせぇなぁ」


「あんたも通行料払えや兄ちゃん」


「……はぁ。嘆かわしい」



 チンピラに囲まれても、男は慌てる様子はない。それどころか、余裕の態度だ。


 その態度がカンにさわったのか、チンピラたちはだんだん顔を歪めていく。もう、いつ手が出てもおかしくない状態だ。



「お前たち、こんなことをして恥ずかしくないのか?」



 先ほどと同じようなことを言う男に、チンピラの表情はますます険しくなっていく。自分たちを完全にバカにしていると、そう思ったのだろう。


 そして、チンピラの一人が持っていた剣を抜いたときだった。



「……抜いたな」


「はぁ? なに言っ……」


「抜いたからには、なにをされてもそれは同意の上と言うことだ」



 チンピラが剣を抜いたのと、男が動いたのは同時だ。チンピラの抜いた剣……しかしそれには、刀身がついていなかった。


 いや、正確に言うならば……刀身は、途中から欠けていた。まるで、なにかに折られてしまったかのように、刀身部分が途中で欠けてしまっていたのだ。


 チンピラたちは、なにが起こったのかわかっていない。が、私には見えた。


 チンピラが剣を抜いたその瞬間……男が腰の剣を抜き、目にも止まらぬ速さでそれを振り抜き、チンピラの剣の刀身を切り落としたのだ。



「……速い」



 自画自賛というわけではないが、私だから追えた速度だ。そこらの素人チンピラでは、男がそれを行ったことすらわからないのだろう。


 だからチンピラたちは、その場で呆然と数秒……直後、ようやく我に返り他の二人が剣を抜く。けど、遅いな。私なら今の数秒で、三人の首を取ってる。


 それはおそらく、男にも可能であろう。それをしないのは、余裕の表れということか……なんにせよ、こんなチンピラとではレベルが違いすぎる。



「くそぉ、どうなってやがる!」


「ったくなにしてやがる! なめられちまうぞ!」


「っるせぇ!」



 あぁ、こいつら……三人組んでるくせに、全然統率が取れていないんだな。ただ金になりそうって理由だけで結託しているだけ……だから、些細なことでも言い争いをする。


 しかし、些細なそれは、この場ではもっとも愚かなことだ。このやり取りだけでも、チンピラたちは本来三回は死んでる。



「……仲間割れはいいから、ここから出てってくれないか?」



 言い争う三人を見てため息を漏らす男に、チンピラたちはようやく言い争いをやめる。敵であるはずの人物に仲間割れを止められる始末。


 ここまでくると、もうコントだ。チンピラコントでも見ている気分。とりあえず暇潰しには、なったかな?



「なに余裕そうにしてんだてめえ! ぶっ殺すぞ!」


「それは困るな。だから……こちらも殺されないよう、抵抗させてもらうぞ」



 言って、男は剣を抜く。さっきは速すぎてよく確認できなかったけど……その刀身は、紫色だった。本来ならば銀色のそれは、紫に怪しく、光っていた。


 細身で、一見するとチンピラの持つ剣とそう大差はない。言うなれば、刀身の色くらいだ。だけど……なんだろう、この気持ちは。胸の奥が、ぞわぞわする。


 あんな剣、勇者パーティーのメンバーでも使っている奴はいなかった。ただ珍しいだけではない、なにかが『へん』なのだ。



「ふざけやがって!」


「てめえやっちまうぞおらぁ!」


「……忠告は、したぞ」



 下品に叫ぶチンピラたちを前に、男は静かに息を吐く。次の瞬間、空気が……男の出す雰囲気が、変わった。


 正義感溢れた熱いものから、肌を突き刺すような……冷たい、ものへと。

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