【9月30日非公開予定】空っぽの復讐者
集落を出た私は、次なる目的地に向かっていた。待たせていたボニーに跨がり、広い草原を走り抜ける。
さっきの集落は、直接の原因では私ではないとはいえ……すでに一つの村と集落が、滅んでいる。もしかしたら、その情報はすでに出回っているかもしれない。
それは早すぎる……とのんきに考えられないのが、この世界だ。魔法技術が異様に発達したこの世界では、ちょっとした異変でも察することのできる人はいる。
私は索敵能力を持っているけど、私よりももっと能力値が高い人だっている。あの方角にある村から、人の気配が消えた……なんて察知されても、おかしくはないのだ。
「けどやっぱり、効率悪いよなぁ」
村や集落を一つ一つ潰していくのは、以前も考えたがやはり効率が悪すぎる。もっと効率のいい方法を、こうして移動しながらも考えないとな。
その方が、移動中の時間も気が紛れていいかもしれないな。復讐も、ただ執行すればいいだけじゃないんだな……まあ、効率もなにも、復讐を急がなきゃいけない理由もないんだけどさ。
……ダメだな、同じことばかり考える。やっぱり、目的の中にも一味違った景色を見つけないと。
たとえば……一人ではさすがに限界がある。だから、私の復讐を手助けしてくれる存在を探し、育てる。世界は広いんだ、理不尽なこの世界に恨みを持つ人間くらいいるだろう。
この世界に来たときに、知った……この世界には、貧困に苦しむ者、奴隷とされている者……不幸せな者がたくさんいる。
そいつらを私の仲間として……育てる。それから、そうだな……私の復讐が終わりに近づいたら、育てたそいつらも私の手で殺す。
自分で育てた仲間を殺す……もしくは、復讐を終えた私を、私が育てたそいつらに殺してもらうのも、ありかもしれない。どうせ、復讐を終えたあとのことは考えていないんだから。
そう……どうせ、復讐を終えたあと、生きていく意味もないのだから。
「空っぽだなぁ、私」
元の世界に戻って……私の家族の現状を知らされて、絶望した。世界は、私に優しくなかった。そのときから、きっと私の中身はなにもなくなってしまった。
だから人を殺してもなにも感じないし、自分がどうなってしまおうと構わない。まあ、復讐を終えるまでは死ぬつもりはないんだけどね。
「おらおら、そこのボニー止まりやがれ!」
「ん?」
走っている最中、突然声をかけられる。頭の悪そうな声だ。
それに驚いたのか、ボニーは足を止めてしまう。あのまま進んでもよかったのだが、無理を言っても仕方ない。それに、声の主の男が持っているものを見て、止まったのが正解だと判断した。
男が持っているのは、剣だ。特に言うことのない、なんの変哲もない剣。もしボニーが足を止めなかったら、あれで刺されていたかもしれない。
この子、危機回避能力が高いのかもしれない。
「……なにか?」
フードを被った私は、わざと声を低くして問いかける。別に正体を隠す必要もないが、ここは男の目的を聞き出すことにしよう。
英雄が相手だと、うまくしゃべれない人間もいるしね。特に、こういう小悪党面は。
「なにか、じゃねえよ。ここ通るなら、通行料置いてけや」
「そうよ、それがルールだぜぇ?」
男の人数は、三人……か。彼らの主張は、通行料を払えというものだ。
当然だが、こんな道に通行料が必要なんて話は聞いたことがない。国の入り口とかならともかく、こんなありきたりな道ではあり得ない。それを通行料などと……つまりは、そういうことだろう。
男三人、それも全員が武器を持っている。ここを通るのは主に行商人や旅人だろう……それら相手に、脅しをかけて金を巻き上げている。
まったく……魔王が健在で、魔物が闊歩していた頃は、こんな輩はいなかったのに。平和になった世界でも、その平和に漬け込む奴がいるということだ。
さて……どうしようかな。もちろん、素直に通行料を払うつもりはない。というか、この世界のお金を持っていない。
元の世界に戻る際、持っていたお金は全部返したのだ。元の世界では使えないし、そもそもこっちに戻ってくるつもりもなかったし。
それを言ったところで信じてもらえるかはわからないし、お金がなければ身ぐるみを剥がされる可能性だってある。もう、面倒だから素顔さらして英雄の威厳で無理やり押さえつけようかな。
……無理かもなー。こういう輩って、たとえ英雄でも女一人と見るや、実力差もわからず向かってくるバカが多い。こいつらも、そのクチだろう。
ならもう、こいつら殺そうか。どうせ全部壊すんだし、同じことだ。こうして考える時間だって、無駄だ。
一つ得たものがあるとすれば、この先もこんな面倒な輩がいる可能性があるってこと。まったく、面倒な世界になったものだ。
「おら、なに黙ってやがる! さっさと通行料を……」
「おい、なにをしている!」
しびれを切らした男が、私に詰め寄ってくるその瞬間だった。どこか勇敢さすらうかがえるその声が、私と男たちに投げ掛けられたのは。




