【9月30日非公開予定】人から向けられる憎悪の感情
ヴラメを始末した私は、集落に残った人間の殲滅に取り掛かる。
突如あがった火、そして王国の元騎士の暴走によりただでさえ混乱していた人間達を始末するのは、思いの外簡単だった。ばらばらに散った一人一人を探すのは少し手間だったけど、私の索敵能力を使えばたいした問題にはならない。
旅を続けるうち、私は人の気配というものを感じ取ることができるようになっていた。人間でも、人ならざるものでも関係なく。敵意を持った者なら、なおのこと。
とはいえ、せいぜい目に見える範囲くらいだ。どこかしこも感じることができるなら、この復讐だってもっと楽になるだろう。
なので、この集落の人間を皆殺しにするのに、そこまでの時間は掛からなかった。
「……なーんか、すっきりしないや」
やはりあっけなかったせいであろうか、私の気持ちは晴れない。それとも、私の召喚に関わった人間ではないからか……
罪悪感はない。同情も。しかし、気分は晴れない。もやもやする。ヴラメの身に起こった事態が実は気がかりなのだろうか?
まあ、私の復讐の邪魔になると言うなら……容赦はしない。
「結局手掛かりなし、か。まあいいや、さっさと次に……」
「うぁあああ!」
人のいなくなった集落に見切りをつけ、次へと向かおうと思い至ったときだった。幼い声が、響く。
とっさに私は意識を集中し、声の方向へ視線を向ける。そこには、小さな女の子が私に向かって走ってきていた。その手に、ギラリと光る刃物を持って。
「っと」
少し驚きはしたが、子供のそれを避けられないほど動揺はしない。なんの考えもなしに突っ込んできているから、少し体を横にずらすだけで避けられる。
私に突撃することに失敗した子供は、走った勢いを殺せずその場に転んでしまう。なんなんだ、この子供は。
転んでも痛がる素振りを少し見せただけで、すぐに立ち上がる。その姿勢は立派だ。だが、刃物を人に向けるのは当然初めてなのだろう、その手は震えている。
しかしその目は、涙を流しながらも憎悪に染まっている。……あぁ、この集落の生き残りか。親か周りの人間を殺されて、その犯人である私に刃を向けたっていうことか。
憎悪の目……それは、まさしく私に対する復讐だ。私も、こんな目をしているんだろうか。もしそうなら、まさしく合わせ鏡だ。
「ねえ、私が憎い?」
だからか、私はなぜかこんなことを聞いていた。
それを受けた子供……女の子は、一瞬呆気にとられた表情を浮かべる。しかし、その表情はすぐに憎悪に戻る。
「あ、当たり前だ! お前が、わ、わたしの、お父さんと、お、お母さんを……!」
あぁ、やっぱりそうか。私がこの世界に向ける感情と同じ……この子が私に向けるのも、復讐という感情だ。私は、この世界に私の世界を壊された。この子は、私に自分の世界を壊された。
なんとも、わかりやすい構図ではないか。
「そっか……私もね、この世界が憎いんだ」
「ぇ…………っ!?」
うまく笑えたかはわからないけど、私は女の子に笑いかけてから……その首に、手をかける。もがく女の子の体を宙に浮かせ、首を握る手に力を込めていく。それだけで、もがく女の子の体からは次第に、抵抗の力がなくなっていく。
この子の両親を……この子の世界を、私が奪った。私がやっているのは、こういうことなんだ。世界を恨み、人に憎まれ、この子のように憎悪に満ちた目を向けられるということだ。それが、私がやっていること。
「……ふふ」
なぜだか、笑みがこぼれた。人の人生をめちゃくちゃにしておいてのんきに過ごしていた奴らへの、報復が出来るという改めての実感にであろうか。私の手で、お前らの人生を壊してやった充実感によるものであろうか。
あぁ、やっぱり私はおかしくなってるのかな……そんなことを頭の端っこで考えながら、女の子の首にかけていた手に、一気に力を込める。
……女の子の首は、簡単に折れ、その命は絶たれた。
「はは……あ、ははは……!」
息のなくなったその体を放り投げ、私は狂ったように笑っていた。まだこれからの人生をたくさん生きるはずだった子供の命を奪っておいて。妹と一瞬被ってしまった女の子の人生を壊しておいて。
「あははは、くぁはははは!」
私は、狂ったように笑っていた。




