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【9月30日非公開予定】燃える集落



 燃える集落……建物が燃え、人々の阿鼻叫喚が轟く。本来ならば私がこの光景を引き起こしていたと言っても問題ないほどの展開。


 しかし、今私はこの集落に来たばかり。この事態を引き起こしたのは、私以外の誰かということだ。


 そしてそれをした人物はおそらく、今私の目の前にいる人物だ。燃え盛る火を背に、がたいのいい男が立っている。その瞳は、どこか虚ろに見えた。



「あなた……ここで、なにをしてるの?」



 その男には、見覚えがあった。スキンヘッドの強面の男、しかし実際には、初めて会った私達にすごく丁寧に接してくれた人。


 先ほど思いを馳せていた、王国の元騎士その人。名前は、確か……



「ヴラメ・サラマン……」



 彼自身が、そう名乗り……自らを王国の元騎士だと言った。勇者パーティーの中にも知っている人はいたみたいで、王国に所属していたことは間違いない。


 その人物を捕らえ、なにか王国への手がかりでもないかと思っていたのだが……



「あの目は、正気じゃないね」



 完全に、焦点があってない。しかも、さっきからなにか呻き声のようなものを漏らしている。「あー」とか「うー」とか、そんな意味もない言葉。


 そんな人物がいれば、この事態を引き起こしたのはイコールこの男だと考えても不思議ではない。なにより、集落がこんなになってるのにぼーっとしてるなんて、らしくない。


 一緒にいた時間こそ少ないが、この男はかなりのお人好しだ。聞いた話だと、味方は当然ながら敵にすら、情けをかけるほどに甘い……いや、心の優しい人物。実力はあったにも関わらず王国を去ったのだって、人を傷つける行為に限界を感じてだという。


 そんな人間が、よりによって燃える集落を放置し、あまつさえ逃げ回る人々に見向きもしないなんて。普通の人間ですら、せめて自分だけでも逃げるだろう。その素振りすら、ない。


 火を前に完全に正気を失っている……なにかあったのか。……いや、私には関係ないことだ。


 むしろ、手間が省けたではないか。集落を燃やしてくれて。ま、蜂の巣をつついたみたいに逃げ回る人間全員を始末するのは少し面倒だけど。



「でも、まずはあなただね……ヴラメ・サラマン」



 とにもかくにも、まず標的は目の前の男。対面している私の存在に気づいているのかすら怪しいが、そんなことはどうでもいい。


 ……殺す!



「はぁああ!」



 その場で踏み込み、ロケットのようにその場を発つ。これだけの勢い、さらにこの距離。加えて相手は正気を失っている……このまま拳を打ち込めば、それだけで終わりだ!



「せぇい!」



 右拳を握りしめ、一気に振り抜く。それはなんの邪魔もなく、ヴラメの腹部へと打ち込まれていく。


 ドゴォ……と、まるで建物でも倒壊したかのような音が響き渡る。生身の人間がもろにくらえば、間違いなく命を落とすであろう一撃。


 ……生身の人間なら、ば。



「……っ?」



 しかし、不思議なことに手応えがまったくない。確かに拳をぶつけ、直撃した。魔力防壁を張った形跡もない。なのに、だ。


 ただ正気を失ってるだけじゃない……やはり、なにかおかしい。たとえ王国の元騎士でも、直撃すれば魔王すらダメージを与えるこの拳が効かないなんてあり得ない。



「うぅう……」


「……はは、いいよ。うん、こうでなくちゃ」



 正体不明の事象……それが目の前に現れたというのに、私の心は昂っていた。復讐には邪魔なものであるはずなのに、なぜか私の心は……!



「そうだよ、せめて楽しませよ……!」



 確実に、狂い始めていた。

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