28話 スーパーヒーロー
ニューヨーク艦隊は未明にトリニティ湾ラ・ポルテに到着した。上陸作戦は夜明けとともに決行されることが決定した。
陸戦部隊3個大隊1700人の表情は、いずれも沈鬱であった。訓練を積んできたとはいえ、初めての実戦である。
しかも、治安維持ドローン程度で、ほとんど戦力を持たないヒューストンへの侵略戦である。300年前の祖先の報復と言えど、歴史上繰り返されてきた虐殺の歴史に頁を書き足すだけなのは、ニューヨークの兵士にも明白であった。
夜明けとともに艦隊を離れたヘリから兵士がヘリボーンで市街地に侵入。建造物・インフラへの被害を極力抑えつつ、ヒューストン「軍」を掃討する、という作戦だ。
基本的には歩兵による制圧で事足りると想定されているが、歩兵降下30分後に戦闘車両30台を進入させ支援と補給をおこなう。
兵士たちには、2歳以下の幼児以外は全て殺害せよ』との命令が下っていた。物心がつく前の幼児や赤ん坊は、ニューヨーク陣営の人間として育てようという思惑なのだ。
つまりこれは、泣き叫ぶ赤子の前で非武装の両親を射殺することを意味する。この事実が、陸戦部隊兵士の表情をより沈鬱にさせていた。
夜が明け、旗艦『ブルックリン』2番艦『ブロンクス』3番艦『クイーンズ』から、それぞれ陸戦部隊を収容したヘリが飛び立つ。
15分でヒューストン上空に到達し、ヘリボーンの準備をおこなう。事前の情報では、ヒューストンに対空火器の配備は無く建物の電磁ロックも事前のハッキングで全て解錠しているはずだ。
自らがおこなう殺戮ショーの幕開けに息をのみながら、ヘリのハッチが開いた瞬間。
地上に巧妙に隠蔽されていた12.7mm対空機関砲台が火を吹き、先頭の兵士の上半身をこの世から消し飛ばした。
「対空砲火だ!」
「ヘリが持たない、どんどん飛べ!」
パニックを必死に抑えながらも、仄暗い空に次々に兵士が飛び込んでいく。無事パラシュートを開いても、降下中の兵士はAI制御の対空機関砲の格好の的となり、朝日に照らされ宙を漂う肉塊となったものも多かった。
結局、地上に無事下りられたのは70%、1200人程度だった。そこから警報が鳴り響く市街に散開し掃討をおこなう。
パニックのなか降下し目の前で戦友をミンチにされた陸戦隊の表情は、先ほどとはうってかわり復讐の炎に燃えていた。『憎きヒューストン、根絶やしにしてくれる』と。
これは、ラウラによる計略である。ラウラは、ヒューストンに対空砲火が配備されていることも未来演算で知っていた。ハッキングしてシステムを停止することも可能だった。
しかし、それを秘匿した。なぜか。
多少『目減り』しても復讐に燃える戦士を作るためである。
いくら厳しい訓練を重ねても、実戦経験のない兵士が虐殺とも言える非対称戦闘に及び腰になることも予想していた。
ラウラは敢えて30%の兵士を「摘果」させることで、純粋な殺意に満ちた侵略者をヒューストンにばら撒いたのだ。
ブルー一行は、ペガソにミラとブルー、スレイプニルにマミコとホワイト乗りヒューストンに向かっていた。市街を見渡せる丘に着いた10時過ぎには、すでに遠目からも分かるくらい戦火が広がっていた。
「遅かった……!」
ブルーが呻るが、ホワイトがニヤリと笑って返す。
「いや、ドンパチやってる様子が見えるってことは、存外に粘ってるのかもしれねえ。
スレイプニル、俺を街の近くまで連れて行ってくれ。
ミラ、ブルー。ヒューストンは俺に任せて街を迂回して艦隊に乗り込め。ラウラと話しに行くんだろ?」
「ホワイトさん……」
ブルーが握手を求める。握り返したホワイトの手の力の無さが、言いようもなくブルーを悲しくさせた。
「ブルー、男になったな。……いや、お前はニューオーリンズで会った時からいい男だったぜ」
ミラもホワイトの大きな肩に身を寄せる。
「ホワイト、私たちの大きなお父さん……」
「ワハハ、お父さんかよ!
……ミラ、じゃあお前は俺の大事な娘だ。幸せになれよ」
「マミコ」
ホワイトがマミコを抱き寄せ口づけする。
「ヴァルハラで会おう、ジェリー」
「俺はマミコと2人きりの地獄のほうがいいけどな。
よし、スレイプニル頼む!」
ホワイトが市街地に入ると、ヒューストンマフィアかバリケードを作って交戦していた。警務ドローンも戦闘に参加している。
見知った顔がいたので、バリケードの中に入り声をかける。
「ようカルロ、どういう状況だ?」
「ホワイトさん?なんでここに?」
「俺はヒューストンのスーパーヒーローだからな、ピンチに駆けつけたのさ。お前ら、ずいぶん良い武器持ってるじゃねぇか」
カルロが打ち返しながら答える。
「半年前ぐらいかな……俺達のアジトにロサって女が現れて『武器を供給してやるから戦闘訓練に参加しろ』って脅されたんだ。向こうの通りを守ってるのはヒューストンの秘密警察の奴らだよ。
それにしても多勢に無勢だ……!
東地区の住民はほぼ皆殺しにされたって噂だ!」
「……ロサ、準備してたのか!
よしカルロ、ファミリーの名誉に賭けてここは通すなよ!」
「ホワイトさん、加勢してくれよ!どこ行くんだよ?」
「俺はスーパースターだからな、テレビ局でインタビューだよ」
「何いってんだよこんな時に!」
ボヤきながらカルロがピストルを連射する。
ヒューストン唯一のテレビ局にホワイトが到着すると、すでに陸戦部隊に占拠されていた。2個小隊程度の手勢を残し、放送局からプロパガンダを繰り返し流している。
『市民の皆さん、我々はニューヨーク艦隊陸戦大隊です。ヒューストン行政府は皆さんを搾取し、再び終末戦争を起こそうと画策しています。我々は皆さんを助けにきました。すでに行政府は我々が掌握しました。抵抗は直ちに止めてください。抵抗しなければ、市民の皆さんに危害をおよぼすことはありません』
ホワイトはライフルを杖にしながら、買い物にでも来たようにテレビ局の正面玄関から入る。
何事かと一瞬固まった兵士たちをリボルバーの早撃ちで5人倒す。あとの2人を肩に掠らせながらも撃ち倒し、防弾ベストと持てるだけの小銃を鹵獲しエレベーターに乗る。
目指すは最上階、メインスタジオだ。
最上階の兵士にも通信が行っていたようだ。エレベーターが開くなり斉射を受ける。
脚を打たれているホワイトはもう、身を隠す事すら放棄していた。防弾ベストを二重に身に着け、小銃を撃ちながら廊下の真ん中を堂々と歩いた。
メインスタジオの兵を掃討した時には、さらに十数発の弾丸が食い込み血塗れだった。
ホワイトはプロパガンダを停止し、スタジオメインカメラに切り替える。配信先をヒューストンの全個人デバイス、全公共モニターに切り替えカメラの画角に入ると悠然と歩き、ソファに腰をおろした。
「市民の諸君、アストロズのジェリー・ホワイトだ!
今ヒューストンは大変な状況だが、俺が助けに来たからにはもう大丈夫!安心してくれ。
ただ一点だけ、敵は抵抗しなければ危害は加えないなんて言ってたが、アレは嘘っぱちだ!敵は俺達を皆殺しにする気だ!
いいか!戦ってもいい!逃げてもいい!とにかく敵がどんなに多く強くても、抗うんだ!
平和なヒューストンで抗いかたを忘れちまったかもしれないが、俺達は出来る!
俺は見てきたんだ。お前達と同じヒューストン育ちの少年と一緒に旅をして、彼が懸命に戦って成長した姿を!
この街は、世界は、もうすぐ大きく変わる。俺達も変われる!戦える!抗える!
なぜなら、ヒューストンにはジェリー・ホワイトがいるからだ!」
口から血を吐きながらそこまで一気に喋ると、リピート放送の設定をしてホワイトはズルズルとへたり込んだ。
そこに、陸戦部隊の援軍が乗り込んでくる。ホワイトは彼らに目もくれず、スタジオの天井を見上げていた。
「ロサ……
見てたか……
名演説だったろ……」
そしてホワイトは、静かに手榴弾のピンを抜いた。




