26話 強襲隊(前編)
ミラはペガソに、ブルーはスレイプニルに乗り込む。
「小僧、あいつらは単分子ワイヤーを張って襲ってきてる。2台の間に入ると輪切りになるぞ」
「了解、外側を回って攻撃しよう」
「腰のその玩具じゃすぐ弾切れだ。これならお前の細腕でも扱えるだろう」
そう言って自動猟兵の腕からUZIを渡される。ブルーは外側に回り込んで射撃するが、相手も猛然と撃ち返してくる。
「なんだよ!ワイヤーだけじゃないのかよ!」
「当たり前だ、射撃で足止めしてワイヤーで切り殺すのが本来の戦法だろう。なんとか隙を見つけろ」
その時、ブルーは敵と逆側の立木に一瞬光るものを見た気がした。
「スレイプニル、止まれ!」
強引にブレーキターンで止まる。
「どうした小僧、止まるとやられるぞ!」
一瞬、ヘッドライトに反射する水平の光を認める。ブルーはスレイプニルを横倒しにし飛び降りて伏せる。
後方の立木が次々と切断されていった。
「あぶねえ!外側にもワイヤーを張ってやがった!小僧やるな!」
「何本ワイヤーを出せるのか分からない!長引けばやられる!」
機銃を躱して走り出しながらスレイプニルが吠える。
「長引かせる気はねえ!あいつらなめやがって!」
その時、銃を持たないミラとペガソは機銃とワイヤーから逃げ回りながら戦況を観察していた。
「ペガソ、どうする?山刀も切られちゃった!」
「山刀が無事でもあのアーマーには刃が通らないでしょう。隠し玉が一つあるのですが、スレイプニルの協力が必要です。秘匿通信が解読されているでしょうから、近づいて喋りたい」
ちょうどその時、ブルーとスレイプニルは相手から距離を取って静止したところだった。ペガソが横に付き、スレイプニルと短いブリーフィングを行う。
「……良いのがあるじゃねえか、量産型!なら俺は右を殺る。お前は左だ」
「あなたこそ、さすがワンメイクカスタム。しっかり見せてもらいますよ」
「小僧、絶対頭を上げるなよ。首の骨が折れて死ぬぞ」
「その他にも色々死ぬ理由は見つかるけどな……」
「行きますよミラ!」
「Ooh-rah!」
ミラとペガソが左側の敵に向かう。2台の間に挟まんと、巧みに機銃でペガソの進路を妨害する。
ミラが苦し紛れに射た矢は、手前に外れ地面に刺さる。しかしこれは、ペガソの作戦どおりだった。
ミラが弓をめいっぱい前に振り出す。
敵兵士がスピードを上げる。ペガソを2台の間に挟み、してやったりと思ったその刹那、自分の胴が単分子ワイヤーごと切断され大地を転がりまわる。
「こちらのほうが硬い確証は無かったのでギャンブルでしたが、さすがハリエット。助かりました」
ハリエットがペガソを解析しアップデートした際に仕込んだ武装、それは終末戦争時のそれを上回る単分子ワイヤーだった。
ミラの矢と弓に繋がれた見えない刃が、300年の眠りから覚めた超人兵士をヴァルハラに送った。
バディの最期を視界の右側に見た兵士が向き直った時、眼前は赤熱に染まっていた。
右側面に内蔵された槍を伸長し、亜音速で突撃するスレイプニルの奥の手”モノクロニウス”である。
風圧と攻撃時の衝撃から搭乗者を守るため、槍の根本に前面を覆うカウルが形成されたその姿は、まさに古代の一角恐竜だ。
GMUフル充電の30%を5秒で消費するパルスジェット推進は車体を滑空させ、衝突時には時速900kmに達する。
超人兵士は空気抵抗で赤熱した火球を見たが最後、自身に何が起こったのかも分からないまま爆発四散していた。
敵の身体を亜音速で貫通したブルーとスレイプニルは急に止まれるわけもなく、戦域を遥かに離れて6kmほども走ったところでようやく停車した。
「よく生きてた小僧!オレはしばらく電池切れだ。助けになるか知らんが、量産型のところに向かってやれ!徒歩でな!」
と、重い小銃を渡されるブルー。漆黒の荒野を眺め
「夜明けまでに戻れるかな……」
と呟いた。
時を少し戻し、ホワイトの様子を見てみよう。
ホワイトはパワードスーツ兵と格闘戦を演じていた。パワードスーツ兵は大柄なホワイトよりさらに巨大のうえ、戦闘服の外側に筋力をアシストし防御力を上げる外骨格を身につけている。
パワードスーツ兵が体ごとぶつかるような肘打ちをぶちかます。5〜6m吹き飛んだホワイト、顔をしかめながら立ち上がる。
パワードスーツ兵が構えを解きヘルメットのシールドを上げる。まだ少年の面影が残る顔立ちだ。
「すごいなオッサン!生身であの肘を受けてなんで立ってこれるんだ?俺の名はストローマンだ。名前を教えてくれ!」
屈託なく問いかける敵兵に意表をつかれたが、ホワイトも応じる。
「ヒューストンの英雄ジェリー・ホワイトを知らねえとはモグリだな、ストローマン。
ところでお前のその攻撃、力任せじゃないな。カンフーか?」
「それも分かるのか!スゲェ!
中国の武術、Bajiquan(八極拳)だ。俺の体格、パワードスーツを最大に活かす術法さ。身体の奥底までダメージが響くだろ?」
シールドをおろし再び構えるストローマン。ホワイトも小さく舌打ちし、前傾姿勢のレスラースタイルに構える。
「第2ラウンドだね!」
ストローマンが猛然とラッシュをかける。額がぶつかるほどの至近距離でフックパンチ、肘打ち、ボディを連打する。ホワイトも負けじと打ち返すが、やはり押し負ける。
常人なら身体が一回転するような下段蹴りを受けホワイトの体勢が崩れたところに、ストローマンが両手の掌底を放つ。当たれば内蔵と背骨をミキサーにかけるような、必殺の一撃だ。
ホワイトが身体を開いて躱し、右手でストローマンの喉元を掴み潰す。
「ここは鍛えようも強化しようもねえだろ!」
ストローマンも両手でホワイトの上腕を掴み抵抗、ホワイトの腕がミシミシと軋む。
「我慢比べか?いいぜ、俺の握力は硬球を握りつぶすぞ!」
ストローマンの喉に指が食い込み血が噴き出した時、ホワイトが突如崩れ落ちる。どこからか飛来したライフル弾がホワイトの右太腿を貫いたのだ。
『狙撃兵か?夜間とはいえ全く見えない!ご丁寧に光学ステルスで偽装してやがるな』
撃たれつつも冷静に状況を確認するホワイト。いっぽうストローマンは、食い込んだホワイトの手を振り払い、激しく咳き込んでいる。
「悪く思うなよ、ここは戦場なんだ」
ホワイトの頭にとどめの一撃をくわえようと振りかぶった時、イータン達が乗ったトラックが突進してくる。
「邪魔だ!」
ストローマンはトラックを受け止めると、軽々と真上に投げ上げる。下から渾身のパンチを打ち込むと、トラックのコンテナとともにロボット達が四散する。
イータンがトラックの残骸の下から這い出す。
「うわああぁ!」
アイシクルバレットを撃ちながらストローマンに向かうが、文字どおり一蹴される。
他のロボット達もあちこち傷つきながら、立ち上がってくる。
「ガラクタども、引っ込んでいろ!」
ストローマンが手近のロボットの破片を蹴飛ばすと、別のロボットの腕に吸い寄せられ接合する。
「人間のホワイトがあんなにボロボロになって頑張ってるんだ、ボク達もまだ頑張れるぞ!」
「皆……お師匠が与えてくれた魂、今こそ一つにするんだ……行くぞ」
イータンが呼びかける。
「合体だ!」
壊れかけたロボット達が足りない部分を補い、不要な部分を捨て、みるみる接合し組み上がっていく。
最後に頭に当たる部分にイータンがドッキングし、3mを超える人型ロボットに変形した。
「マジかよ……アトランタの巨人……アトラスだな」
ホワイトが呆然と呟く。
「ブオオオオッ!!」
作動音ともかけ声ともつかぬ声を上げながら、アトラスとストローマンがガッチリ手四つに組み合う。パワードスーツの関節が軋み、ストローマンが片膝をつく。
「いける!」




