25話 出発
朝日に照らされ、極彩色の王のマントを羽織ったミラ、相変わらずの薄汚れたデニムジャケットのブルー、テンガロンハットを被りキャデラックエスカレードに乗り込んだホワイト、スレイプニルに跨った戦闘服のマミコが佇んでいる。
と、イータンが自律トラックとともに向かって来る。
「ブルー、ミラ、みんなもいっしょに行くよ!」
ブルーが荷室を覗くと、アクアリウムで動物の世話や建物の修繕、警備をしていたロボット達がミチミチに詰まっている。
「皆、ここを離れていいのかい?動物達の世話は?」
「お師匠はたぶんもうここには帰ってこない。動物達も放した。昨日の晩みんなで話したんだ。
お師匠が僕らに意思を授けてくれた。もう一度お師匠に会いに行って、僕らが『自ら求めるを為す』姿を見せようって、みんなで決めたんだ」
「そうか、そうだね。では行こう!ハリエットに会いに!ミラ、号令頼む!」
「Ooh-rah!!」
1日走り、500kmほど移動したところでブルー達は宿営することにした。狩りは行わず、ミラが作った保存食とハリエット特製の栄養ペレットで簡単に済ませる。
「明日夕方には、ヒューストン近郊に到着するはずだ。マミコ、艦隊と僕らどちらが早いだろうか?」
「終末戦争時の能力を基準にすれば、原子力艦の航速は毎時30ノット程度だ。ハリエットがあの時間に出てフロリダ半島辺りで合流しているなら、そう差はないはずだ」
「だが、1時間早いか遅いかで結果はかなり違うぜ。1時間ありゃヒューストンの温室育ちなんか軒並み刈り取られちまうだろ」
「確かに……皆、身体はきついけど少し休憩したらまた走らないか?」
「私は48時間程度寝なくても活動できるが、お前たちはどうだ?無理な行軍は全滅への最短経路だぞ」
「よし!じゃあバイクは寝ないで済む有能なAIたちに任せて、ひ弱な人間どもは俺のエスカレードに乗れ!2時間ほど交代してくれれば、俺は十分休める。ワイルドガールの運転もなかなか達者だったしな!」
夕食の後、ブルー達がエスカレードに乗り込む。
「わっ、凄い!中広いし、これ鞣し革だ。ふっかふか!」
無邪気に喜ぶミラに、ホワイトも気を良くする。
「ワハハ!21世紀の最高級車だからな!こんな贅沢なもん今のヒューストンじゃ逆立ちしても作れねぇよ!」
「ホワイトさん、この音楽何ですか?」
「21世紀の初頭のリンプ・ビズキットってバンドだ。イカすだろ?」
「hostia!
すっごく激しいダンスが出来そう!」
「さすが、ワイルドガールは見る目と聞く耳があるな!」
「ホワイトさんは、なぜ昔の物が好きなんですか?」
ブルーの問いかけに、ホワイトはしばし黙り込んだあと話し始めた。
「……ヒューストンには同じものしかないだろ?ベースボールで金を稼いだって、バスじゃなくてタクシーに乗れるとか、少し珍しい物が食えるとか、少し広い家に住めるとかその程度だ。
でも、ヒューストンにも居たんだよ。地下に潜って、禁止されてる音楽や他のスポーツをやってる連中が。まあ、ほとんどマフィアみたいな連中だったけどな。
ニューオーリンズのチェンバレンも、そういう奴らの1人だったのさ」
チェンバレンの名を聞き、思わずミラが極彩色のマントの裾を掴む。
「そういう奴らと付き合って、音楽や車や銃とか、この国が自由だった頃のものと出会ってな。ロサと出会ってアンリーガルになってからも、大陸を回って夢中で集めたよ。
俺には、ハリエットやベネディクトみたいにご立派な大義も野望もない。人より少し体力があるから玩具集めをさせて貰ってただけさ」
「……でも、今ホワイトさんはヒューストンのために命をかけようとしてる。違いますか?」
「俺はヒューストンのスーパーヒーローだからな!
……で終わらせたいところだが、お前は不思議なやつだな、ブルー。お前にはもう少し昔話をしたくなるよ」
「ロサと会ったのは俺がまだ14のガキの時、マフィアに浸かりかけていた頃だ。変な言い方だが、ロサはロサになったばかりの20代前半だった。
警務ドローンに麻痺弾を撃ち込まれてしょっぴかれた俺を、ロサはアンリーガルに任命した。
ロサはずっと不自由だっただろ。ヒューストンの不自由の責任を自分が負うみたいによ。
でも俺のことは好き勝手にさせてくれて、挙句の果てに俺達を助けるために死んじまった。
そんなロサが最後に『ヒューストンを頼む』って言ったんだぜ。
放っとけねえよ。クソみたいなヒューストンでもな
だいたい、ブルーとミラだって……
なんだあれ?バイク?」
照れ隠しなのか、ホワイトがブルーに話を振った時、前方に2台のバイクが現れた。
左右に分かれ、こちらを挟むように突進してくる。それだけではない、2台の間の灌木やサボテンが全て音もなく切断されていく。
「伏せろォォ!!」
今まで眠るように黙っていたマミコが大声をあげる。慌てて伏せると、今まで頭のあった位置がエスカレードのピラーごと切断され、屋根が吹き飛んだ。
オープンカーになったエスカレードの向かう先に、別の兵士が2人立っている。
「構うな、轢き殺せ!」
マミコの物騒な指示のもと、ホワイトがアクセルを踏み込む。小柄な兵士は横に跳んで躱すが、大柄な兵士は両手を前に出すと、2tを優に超えるエスカレードを受け止める。そのまま8mほど後退しながら完全に停めると、フロントグリルをむんずと掴んで車を横転させてみせる。
ホワイトの銃火器を散乱させながら横倒しになったボディに、どこからかライフル弾が連射で撃ち込まれる。
「退避しろ!」
爆発炎上するエスカレードから抜け出した4人を、兵士達が囲む。
先ほどルーフを切断したバイク兵2人、車を上手投げした大柄な兵士、車を狙撃した兵士もどこかに潜んでいるのだろうか。そして、ブレードを持った小柄な兵士がリーダーらしい。
「300年ぶりだな、101連隊のマミコ」
ヘルメットを取った短髪の女性が、マミコに心安く声をかける。
「Angriffstrupp(強襲隊)のユディトか。お前たちも冷凍庫から出てきたのか?」
「凍ったままではヴァルハラに行けないからな。さあ、300年前の続きをやろうぞ」
ヘルメットを被りなおすと、トンファー型のツインブレードを構えマミコに猛然と斬りかかる。
巨漢の兵士はホワイトに向かう。パンチを十字ガードしたホワイトの腕が軋み、身体が宙に浮く。
「パワードスーツか……!」
「おお!今のを受けられるのか!」
バイク兵はミラとブルーを襲う。
既のところで伏せて躱すが、ミラの山刀が音も抵抗もなく三等分される。
「やばい、死ぬ死ぬ!」
再び襲い来るバイク兵にブルーが悲鳴を上げた時、横からの機銃の掃射が突進を止める。スレイプニルの自動猟兵だ。ペガソも駆けつける。
「小僧、死にたくなければオレに乗れ」
「ミラ、乗ってください。300年ぶりの機動戦闘、機械ながら魂が震えます」




