24話 再会
以前ベネディクトが吹き飛ばしたアクアリウムのゲートは、すっかり修復されていた。イータンを先頭にブルー達が近づくと、ゲートが自動で開きロボット達が色めき立った。
「イータン!帰ってきた!」
「故障した人間もいっぱいだ!」
「でもお師匠がいない……イータン説明しろ!」
「待って待って、みんな。とりあえずこの人間たちを直さないと。動物用の治療ポッドの準備をして!」
と、イータンが諭す。ホワイトは
「ま、動物には違いないわな」
と苦笑している。
「なあイータン、皆以前よりお喋りになったというか……人間ぽくなったような……」
「お師匠がペガソの技術を使ってスタンドアロン化する時に、かなりアップグレードしてくれたからね!
皆もう自分で考えて、どんどん自己改造してるよ。さあみんなポッドに入って!診断、手術から回復促進までワンストップだよ」
ブルーはポッドの中で骨折した右手指の治療を受け、3Dプリントで作られたスプリントで患部を固定された。
半日ほど休んでポッドの扉が開くと、ロボット達が一箇所に集まり談笑している。
本当に人間みたいだ、とそちらに目をやると、輪の真ん中にハリエットがいる。
「ハリエット!」
「久しぶりだな、ブルー。ボロボロだが逞しくなったじゃないか」
「ハリエット、無事でよかった、助けに行けなくてごめん……」
涙ながらに抱きしめるブルーに、ハリエットが笑い返す。
「おいおい、心配は無用だ。無事どころか……」
その時、遅れて目覚めたミラが2人を見つけ、ヒューストンのフットボーラーのように2人を抱き捕まえる。
「ハリエット!」
額にキスの雨を降らせるミラに、ハリエットは苦笑する。
「相変わらずだな、ミラ。食事の準備をしないか。ホワイト達も起きたら、話したいことがあるんだ」
以前狩った猪肉が冷凍してあったので、3人で調理する。
「ブルー、前と同じご飯がたべたい!」
「そうだね、味付けは薄めにしよう」
「イータン、血糖値の上昇を穏やかにする薬を作ってやってくれ」
「OK、お師匠」
「それにしても、また3人でご飯作れるなんて!」
とミラは無邪気に喜んでいる。
夜になりホワイトとマミコも覚醒したので、皆で食事をとる。マミコはまだ左腕が効かないようで、胸の辺りで固定されているが気にする様子もない。
「ハリエット、紹介するよ。ワシントンDCで会った……」
「マミコだね。私はハリエット・パークス博士だ、宜しく。
見ていたよ、凄まじい戦いぶりだったな」
「見ていたのかハリエット!いったいどうやって?」
「私は今ニューヨーク艦隊の科学顧問だからね。あの中隊の通信兵がつけていたウェアラブルカメラの映像が、リアルタイムに艦隊本営に届いていたよ」
「ニューヨーク艦隊?ベネディクトもそこの一員だったってことか?彼らは何者なんだ?」
「ニューヨーク艦隊は、ロサの妹ラウラに率いられたヒューストン殲滅を目的とする団体、いや都市国家と言っていい規模の組織だ」
「ラウラ?まさか彼女はロサが……それにもう300年も前の話じゃ……」
「おや、ブルーも知っているのか。話が早い」
ハリエットはラウラが量子コンピュータとなって生きていること、これまでの経緯、今艦隊がヒューストンを目指していることを話した。
「そんなことが……!信じられない」
「ありえねえ話じゃ無いと思うぞブルー。手のひらサイズのコンピュータでもペガソやイータンのような、ほぼ意思や魂と言えるものを再現できるんだ。
量子コンピュータなら、1人の人格を再現したり未来を計算で予測するってのもあながち不可能とも思えねえ」
「ホワイトにしては飲み込みが早いじゃないか。ベネディクトはラウラのお気に入りだったみたいでね。ワシントンDCで核ミサイルを撃ち込んできたのもラウラだ」
ベネディクトの名を聞いて顔が曇るブルーの背を、ホワイトが撫でる。
「ここからが本題だが、ニューヨーク艦隊はまだ数十発核ミサイルを保持しているが、使えないように私がプログラムを改変した。
だがラウラは、今全軍をヒューストンに向かわせている。上陸戦で皆殺しにするつもりだ」
「ハリエットは今向こうの科学顧問なんだろ?なんでこっちに情報をリークするんだ?結局どっちの味方なんだよ?」
「ホワイト、私は科学者だ。科学と人類の味方だ。
火を熾し投槍器を作った原始の時代から、量子コンピュータの現代まで、科学は人類の発展とともにあった。むしろ科学こそ人の営みと言っていい。
争いもまた人の営みで、科学が争いを生み争いが科学を推し進めた。科学と闘争は、コインの表裏とも言えるものだ。ヒューストンは争いをほとんど捨てることに成功した、人類史上初の大きなチャレンジと言えるだろうね。
まあ、争いを完全に捨てきれなかったから我々アンリーガルズという『例外』を残しておいたのだろうが
とにかく、私は傍観者にはならない。ラウラ達にもブルー達にも関わる。人類の、科学の帰結を引き受ける。現代最高の科学者としてね」
「ハリエット……君みたいな小さな女の子が、そんな責任を引き受けなくていいんだ」
ブルーがハリエットの小さな手を取る。
「……で、どうするんだ隊長?」
黙っていたマミコが、ミラのほうに問いかける。
「え?わたし?」
「ワハハ、確かにこの隊の隊長はミラで間違いないな!でなけりゃ部下を山刀で脅すはずがねえ」
ホワイトが豪快に笑い飛ばす。
「う〜ん、ラウラは私たちがベネディクトを殺したから怒ってるんでしょ?じゃあ、話しに行こう」
「話し?」
「コンローでも、隣の村と猟場の取り合いとかでケンカになってケガさせたとかは時々あってさ。そしたら村長が話しに行ったよ。
で、どっちが悪いかとかケガの具合で肉とか毛皮を贈ってね。
最後は、一緒にお酒飲んで踊って宴会しておしまいにするの」
「いやミラ、今回はスケールが違うというか……」
とブルーが諭しかけるが、マミコが大真面目に頷く。
「うむ、講和は戦争の最終局面での将軍の仕事だな。私のような兵卒は講和を有利に進められるよう戦局を整えることが仕事だ。
だいいち、講和するからこそ次の戦争が出来るんだ!」
「マミコとミラも、気が合って何よりだな!ハリエット、ここにはいつまで居られるんだ?」
「明後日の朝には発つ。フロリダ辺りで艦隊に合流するつもりだ。
それまで、皆の治療と少しでも死ぬ確率が減るように準備をしよう」
その日の晩のうちにハリエットは回復ポッドの機能を増強し、翌朝にはいちばん怪我が重たかったマミコもずいぶん動けるようになった。
翌日、ハリエットは日中ずっとスレイプニルとペガソの修理に勤しんでいた。夕方になると、ミラがハリエットとマミコを誘い、森の小川に水浴びに連れ立った。
ブルーとホワイトは、猪肉でシチューを作った。夕方にはホワイトのアジトのシャーロットから、武器を満載したキャデラックエスカレードが自動運転で届いた。
夕食を皆で囲んだ。ブルー、ミラ、ホワイト、ハリエット、マミコ、それにペガソ、イータン、スレイプニル。
ブルーのこれまでの人生で、最も賑やかな食卓だった。
ひとしきり食べるとミラが立ち上がって腰袋から葦笛を取出し奏ではじめた。
ブルーもデニムジャケットの懐から笛を取り出し、合わせる。ハリエットも吹いている。いちばん上手かもしれない。
ホワイトがマミコの手を引いて立たせ、踊り始める。マミコは生まれて初めてのダンスだろう。戸惑いながらもホワイトの目を真っ直ぐ見て、動きについていっている。
いつも喧しいスレイプニルがペガソとともに、何も言わずその様を見つめている。
笛を交代しながら、ブルー、ミラ、ハリエットも代わる代わる踊った。イータンも飛び回っている。
最後には、イータンが電子音で懐かしのニューオーリンズを奏で、全員で踊った。
マミコもホワイトの首に手を回し、この一時ですっかり上達している。
「……生まれて初めて踊ったよ」
「戦うのと同じくらい楽しいだろ?」
「ああ、それに……えぇと、今の気持ちを表現する言葉を知らない」
「Currahee!でいいんじゃないか?」
そう言ってホワイトがマミコに優しくキスをした。
「ああ、今まででいちばんCurraheeだ……」
翌朝、ヘリに乗り込むハリエットを見送る。
「ハリエット、笛持ってくれてたんだね」
「当たり前じゃないか、メロディも脳に刻み込んである。忘れないよ」
「お師匠……」
「私は大丈夫だ。向こうにいるのも、わりと気のいい奴らなんだよ。イータンは他の子たちと一緒に、ブルー達を助けてやってくれないか。
では、ヒューストンでまた会おう!」
ヘリが見えなくなると、ブルーが振り切るように声を上げた。
「さあ、僕たちも行こう、話し合いにね!」
ミラも寄り添う。
「うん!こんなに色々旅したのにブルーの生まれ育った街、まだ見てないもの。行こう、ブルーの故郷、ヒューストンへ!」




