23話 光
「おーい、2人とも生きてるか?」
死にながらに呪詛を吐いたベネディクトに戦慄していたミラとブルーだが、ホワイトの声に我に返る。
ホワイトがマミコを横抱きにして、よろけながら歩いてくる。やはりかなりのダメージを受けている様子だ。
ベネディクトの死体を一瞥したホワイトは、ブルーの肩に手を置く。ブルーは今、初めて人を殺した。それは勝利よりも生き残ったことよりも、はるかに重たいことだ。
ボロボロになったスレイプニルも自走してくるが、絶望的な事実を告げる。
「核弾頭ミサイルが4本、こっちに飛んできてるぜ。着弾まであと90秒だな」
「Oh!God!たまたま核シェルターとかあったりしねえか?」
「ホワイトさん、さっきまではあったけどバンカーバスターで新しいめのクレーターに変わっちゃったよ」
「あー、じゃあ仕方ないな……」
「カウボーイ……ヴァルハラは禁煙かもしれない。腰袋から煙草を出してくれ」
ホワイトが腰袋から比較的形を留めている1本を取り出すと、自分で一吸いして火をつけてやってからマミコに咥えさせる。
「ミラ、ペガソはほぼ無傷だ。ミラだけでもペガソに乗って出来るだけ遠くに退避しろ」
そう言われたミラは、山刀を抜き払ってブルーの喉元に突きつけた。
「ブルー、シャーロットでもわたしを置いていったでしょ。今度そんなこと言ったら、血抜きして燻製にするわよ。
もう死ぬまで離れない」
「……ブルー、諦めてbésameしてあげてください」
ペガソに微笑み返し、ブルーは山刀を横によけながらミラにもう一度キスした。ホワイトはそれを眩しそうに見ながら、マミコの口から煙草を取り一吸いしてまた戻し、傍らのイータンのハウジングに手を置いた。
タイムリミットが迫っていた。
それぞれが来し方行く末に思いを馳せ、まもなく来る終末の閃光を待っていた。
そして眩い光が彼らを包んだ。しかしそれは、思いのほか優しく温かい光だった。
光の中でブルーの、いやそこにいた全員の前にヒューストンにいるはずのロサが現れた。
「ブルー、アンリーガルズの皆、ミラとマミコは、はじめましてね。最期に会えて嬉しいわ」
「ロサ!」
「ブルー、やはりあなたには力があったわね。でも、その力に頼りすぎないで。私やベネディクトみたいになっちゃう」
絶体絶命のあの時、コルトを20cmだけ引き寄せた力。ブルーは自分の手のひらを見つめた。
「で、ロサここはどこだ?天国か?」
「うふふホワイト、そのほうが良かったかしら。私の全ての力を使って、皆を空間転移させたわ。出来損ないのロサの私でも、命をかければこれくらい出来るものね」
「命って……おいロサ!やめろ!」
「もう後継者はいない。私が最後のロサになるわ。
『己の求めるを為す』アンリーガルズだけど、これは私の個人的なお願い。ヒューストンを導いてあげて。私達とは違うやり方でね」
眩い光が収まると、ブルー達は森の中にいた。いつも飄々としているホワイトが、マミコを抱いたまま茫然自失している。
すぐそこに、ガラス張りの大きな建造物が見える。
「お師匠のアクアリウム!ここはアトランタだよ!マミコの具合もよくない、治療ポッドがあるから行こう!」
アクアリウムに急ぐ一行。
最後尾のブルーが、ふと南西の空を振り返る。昼間の星の光を見つけたが、すぐに北東に現れた小さな太陽がかき消してしまった。
「ロサの名を騙るまがい物の分際で!よくも邪魔を!」
旗艦マンハッタンのオペレーションルームで、怒りに狂うラウラ。
「荒れているな、ラウラ君」
「ハリエット、何の用だ!彼奴等はアトランタに居る!もう2、3発撃ち込めば今度は邪魔する奴は……」
「ラウラ君、君の復讐を否定も肯定もしないが、核はもうよせ。ミサイルは射出した場所に戻ってくる。私がプログラムを改変した」
取り乱していたかに見えたラウラは、急に冷静になった。
「お前がそうすることも未来演算どおりだ、ハリエット。しかしそれを自ら告げるのは見えなかった。彼奴等を守りたいなら、私を自滅させればよかろう」
「未来演算で行動は予知できても、感情が読めるわけではないんだな。
ニューヨーク艦隊は素晴らしい。
量子コンピュータに組織化された軍隊、原子力艦隊に数十発の核ミサイル。ある面ではヒューストンを超える現在最高の科学が集約されている。
私にとって最高の研究環境だ。
ラウラ君、君を含めてね。
そして私は、君の300年を知ってしまったんだ。艦隊の任務を遂行し、訓練に励み、余暇を楽しむニューヨーク艦隊の兵士達を知ってしまったんだ。
ともに給食の列に並び、昼休みに甲板でテニスを習った。
私はひたすらに科学の徒で、科学はひたすらに人類の平和と発展のためにある。それだけだ」
「そうか。しかしニューヨーク艦隊の兵士達は、給食とテニスのために厳しい訓練に耐えてきたわけではないぞ。
彼らは300年前ロサに文字どおり故郷の大地を奪われた者の子孫だ。私と同じく、復讐の刃を研ぎ続けていた戦士たちだ。
これより艦隊は大西洋を南下、フロリダ半島を回りメキシコ湾を西進、ヒューストンの南東トリニティ湾を目指す。
陸戦3個大隊が上陸し、ヒューストンの温室栽培民を殺し尽くし我らの故郷の旗を打ち立てる。我が軍には、それだけの技量と覚悟がある兵が揃っている。
治安維持すらAIに任せ、闘争を放棄したヒューストンはひとたまりもあるまい
ハリエット、ベネディクトの敵たちに知らせたければ知らせろ。ヒューストンでともにミンチにしてやるだけだ」
「考えておこう。逆に訊くがラウラ、君は私の他の『小細工』にも未来演算で気がついているのだろう?なぜ私を殺さない?」
「ヒューストン最高の頭脳でも、人の気持ちが読めないのは同じか。我々は似たもの同士だな」
「全くだ、ラウラ君。出かけるからヘリを一機借りるよ。フロリダ辺りで落ち合おうじゃないか」
「全く私は、とんでもないやつを腹の中に招き入れてしまったものだよ。勝手にしろ」




