21話 超人兵士
マミコは水蒸気とともに起き上がる。
東洋系の切れ長の瞳、黒髪をつむじの辺りで一つに纏めている。ロサの記憶にあったままの20代半ばくらいの容貌だ。
マミコは身体に沿ったボディスーツしか身につけていなかったが、すぐに棺の下から装備を取出し身につけ始めた。
まず堅牢な戦闘服を身に着け、コンバットブーツ、膝まで覆うレガース、ボディアーマーを纏う。次に腰袋の下がったタクティカルベルトを腰に取り付け、大小2本の刀を吊るす。
最後に腰袋からマーカーのようなものを取出し、顔や首、指先など肌が出た部位に塗っていく。いや、塗ると言っても透明で塗ったのか分からなかったが、マミコがフードを被りアーマーの肩のスイッチを押すと、装備とマーカーを塗った肌が周囲のコンクリートと同じ色に変わり、ブルーからは揺らめく影にしか見えなくなった。
マミコは光学ステルスの効果を確認すると解除し、棺に腰を下ろす。
腰袋の別のポケットから煙草を取出し火をつけると、メリメリと音を立て美味そうに吸った。
満足気に紫煙を吐き出しながら、ブルーに問いかけた。
「今は西暦何年?」
「え?2433年だけど……」
「Currahee!ざっと250年か!君の名は?」
「ブルー」
「ブルー、良い名だね。ロサから、私を起こした人を守ってくれって言われてるんだ。ロサのことだ、今助けが要る状況なんだろ?」
「歩兵戦闘車10台を有した一個中隊に追い回されて、ここに逃げ込みました。こちらの武装は拳銃一丁です」
ペガソがブルーの代わりに戦況を伝える。
「あぁ……なんてこと。愛しい敵がそんなにたくさん……」
うっとりした様子で立ち上がると、咥え煙草のまま近くのコンクリート壁に剣を一閃させる。
分厚い壁がゼリーのように崩れ落ちると、1台のバイクが格納されている。
ペガソよりひと回り以上大きい。
スクランブラー然とした軽快なペガソに対し、全体に低く構えた重厚なプロポーションはクルーザーのようだ。
「スレイプニル、死ぬにはいい日だぞ」
言いながらマミコは、バイクの腹に左右からGMUを1本ずつ挿し込む。まるで21世紀のBMWのフラットツインバイクのように、2本のGMUが左右に飛び出したフォルムとなる。
バイクの計器に250年ぶりに光が宿り、野太い声で豪快に話し出す。
「ネイティブアメリカン、ロー・ドッグの言葉だな。マミコ、作戦開始はいつだ?」
「敵兵力が地下に侵入してきたら、応戦しつつそのまま急襲。
侵入してこなければ1830、日没と炊事後の油断を襲う」
「Currahee!では待機する!」
2人のやりとりを見ていたペガソが、恐る恐る問いかける。
「GMU2本差しの2輪車両など、300年前の戦場でもお目にかかったことがありません。あなたがたはいったい何者なんです?」
「オレ達に出会ったやつはだいたい死んでるから、無理もないな。俺は超人兵士のための超高性能ワンメイクだ。お前ら量産とはモノが違うから、そのつもりでな」
横柄だが有無を言わせぬスレイプニル気圧されながら、ブルーが尋ねる。
「マミコさん、なぜ見ず知らずの僕らのために戦ってくれようとするんですか?ロサとの約束ですか?」
「ブルー知らないのか?勇敢に戦って死んだ戦士はヴァルハラに送られるんだ。
そこでは死なない体、尽きない肉と酒を与えられて、未来永劫戦いと酒宴に明け暮れることができる。
私が死んでヴァルハラに行った時、大勢で楽しみたいじゃないか!」
呆気に取られているブルーとペガソに向かって、スレイプニルが
「悪いな、こういうヤツなんだマミコは」
と、ヘッドライトを点滅してウインクしてみせた。
そこから、マミコが作戦開始時刻と定めた18時30分まで1時間ほどあった。マミコは最初の10分ほどは書庫の周囲を探索していたが、大部分の時間は煙草を吸いながら刀や銃器の手入れに費やしていた。
「マミコ、あと10分で作戦開始時刻だぜ!待ちきれねえよ!」
スレイプニルが喚く。
「それなんだがな、250年前に私がロサと降りた隠し通路は崩れて塞がっていた。ブルー達もガラスの流砂に呑まれてここにたどり着いたそうだ。
今のところ、地上に上がる術がない」
「そんなぁ」
スレイプニルとブルーが同音異口に発した。
「そこで、愛しき敵に迎えに来てもらうことにする。
現時点でここまで敵が到達していないということは、せいぜい無人の探査ロボしか地下に下ろしていないと推測される。
そこでブルーにはこの書庫を出て、探査ロボを探して、いや探査ロボに見つかってほしい。
そうしたら、ペガソで一目散にこの書庫に駆け戻り扉を閉ざす」
「そうしたらどうなるんです?」
「おそらく、敵が地上への道を開いてくれるはずだ」
猛烈に嫌な予感がしながら、ブルーとペガソが地下遺構を逆向きに辿っていく。
果たして、書庫から300mほど離れたところでブルー達は球形の探査ロボ2体と出くわした。
「ブルー!戻りますよ!」
探査ロボの歩みは遅く武装も無い様子だったが、ペガソは大慌てで引き返し書庫の40cm厚の引戸を閉める。
「ブルー、首尾はどうだ!」
「見つかりました!」
「Currahee!あ、ブルー扉の正面には立つな」
え、なんで?とブルーが体を捻った刹那、凄まじい轟音とともに扉の破片が数ミリ横をかすめた。
「あぁ!なんて美しいバンカーバスター(地中貫通爆弾)だ!」
マミコがうっとりとつぶやく。
「ちょっと!間に合わなかったらどうするつもりだったんです!?」
「心配するな、君は十分に勇敢だ!間に合わなかったらヴァルハラで宴会だったのに、惜しいことをしたな!
スレイプニル、250年ぶりの愛しい戦場だ!Currahee!」
「Currahee!」
スレイプニルが応じる。
「量産型は15分その観葉植物を生かしておけ!その間にケリをつける!」
「やれやれ、我々の出る幕は無さそうですね。逃げ回りながら見物させてもらいましょう」
スレイプニルとペガソが、新たに穿たれたクレーターを駆け登る。マミコが光学ステルスをオンにして、敵陣地へ一直線にひた走る。
精鋭たるニューヨーク艦隊陸戦部隊第一中隊は、たちまち大混乱に陥った。揺らめく影がカマイタチのように時速200kmで駆け抜けると、マミコのブレードで10人以上の兵士が手足か上半身か下半身を失った。
一往復するとマミコは切り飛ばした腕からマシンガンを奪い、スレイプニルの後部から伸びる機械腕に投げ渡す。
自動猟兵だ。
二往復めはブレードとマシンガンの乱射で、倍以上の兵士がヴァルハラに送られた。
敵兵力が約半分になったところで、マミコは下車し敵陣ど真ん中でステルスを解除し、返り血に塗れた姿を晒す。
「Currahee!」
鬨の声とともに目についた敵に斬りかかる。その間もスレイプニルの自動猟兵は手当たり次第に銃を拾い撃ちまくる。
「250年後の兵士は肉体改造も精神ドーピングも無しか!健全に過ぎるな!」
けたたましく嗤うマミコの声が銃声にかき消される。恐怖にかられ背を向けた兵士の背中には、容赦なく斬撃か銃撃が襲った。
「恐れるな!戦え!我らを待つのはヴァルハラだ!」
8分32秒後には、一個中隊140名は全て骸と化した。
「なんという戦い、これが終末戦争の超人兵士……」
ペガソが驚嘆の声を上げた時、マミコは死体の山の上で血と肉片塗れになりながら煙草を吹かしていた。
その時、トリニタイト数百個の礫がマミコを襲う。超人的反射神経で横っ飛びに躱したマミコだが、その行く先を知っていたかのように、飛んだ場所をショットガンのような礫が襲い、15mほど吹っ飛ばす。
「Currahee!お前が私をヴァルハラにいざなってくれるのか?」
血だらけの体を意にも介さず立ち上がるマミコ。その視線の先には、ベネディクトが中空に浮かんでいる。




