11話 懐かしのニューオーリンズ
ミラとブルーに向かって、ブローニングm9を構えるジェリー・ホワイト。
「ヒョロっこいの!コルトは返さなくていいぞ!生きてるうちはな!」
おぼつかない手で構えるブルー。
「いいぞ!しっかりトリガーを引ききらないと弾は出ないぞ!」
ブルーの側で、ミラが素早く矢をつがえ引き絞る。
「oh yeah!2対1、スーパーヒーロージェリー・ホワイトの大ピンチだ!」
おどけながら、もう一丁ブローニングを取出し2丁拳銃に構えるホワイト。
静寂の闘技場に、3人の息づかいだけが聞こえる。
ここで、各々の思惑を覗き見してみよう。
ブルー
『僕の弾は当たる気がしない。ミラの矢は当たるだろう。ホワイトは確実に僕ら2人に当てる腕前があるだろう。ミラを庇いたいが、弓の邪魔になるかもしれない。どうしたらいい?』
ホワイト
『小僧の弾は当たらない。ワイルドガールの矢が来ても、俺は180km/hのスプリットをスタンドに叩き込む男だ。初速200km/h程度なら、軌道を変えるくらいは十分可能。次の矢をつがえるまでに2人とも蜂の巣だな』
ミラ
『Ooh-rah!!』
均衡を破ったのは、3人以外の人物だった。ペガソが甲高いモーター音を響かせ、客席上段から飛び降りてくる。
虚を突かれたホワイトに、ブレーキターンで土煙を浴びせる。
「遅れましたが、結果的に最高のタイミングでしたね」
「ペガソ!」
ブルーが叫ぶ。いっぽうミラが冷静に射った矢は、ホワイトの太い右前腕を貫いた。
ペガソに飛び乗り、走り去るミラとブルー。ホワイトはその背中に狙いを定めるが、ややあって銃口をあげる。
「ガキを後ろから撃つなんて、ヒーローのやることじゃねえな」
奴隷と兵士が入り混じり混乱した街を走り抜け、ニューオーリンズをあとにするミラとブルー。
セントルイス大聖堂の尖塔の窓から、セルマが静かにその後ろ姿を見送っていた。
30分ほど走った頃、運転するミラにペガソが声をかける。
「ミラ、ブルーの意識レベルが落ちています」
ミラが振り返ると、ブルーは気を失ってリアシートから転落しかけるところだった。ミラが慌てて襟首を掴んで引き戻す。
「ひどい熱……」
手近の森の中にペガソを停め、ブルーを寝かせる。
チェンバレンとの死闘で、ブルーの顔は腫れ上がっている。歯が何本かと、鼻と肋骨も折れているようだ。内臓も傷ついているかもしれない。ここまでも気力だけでしがみついてきたのだろう。
夜が明け、ミラが食料とアガベを調達してくる。アガベの肉厚の葉を切り開き、患部に当てる。太古から、切傷や火傷に使われてきた治療法だ。
ミラが、焼いた獣肉を冷ましてブルーにやるが、歯が折れ口中をズタズタに切っているため噛めない。ミラが咀嚼した肉を、ブルーの口に押し込んで食べさせた。
なんとか少し食べて、眠りについたブルー。ため息をつきながら肉を齧っているミラに、ペガソが寄り添う。
「ブルーが旅に耐えられるぐらい回復するには、2週間ほどかかるでしょう。ミラ、あなたもしっかり食べて。気長にいきましょう」
「わかった……」
その日の夜更け。
ブルーは夢を見ていた。
ブルーは、ヒューストンで級友たちとスクールバスに乗っている。つい先日までの、ブルーの日常だ。
突如、自動運転のスクールバスが暴走し学校の壁に激突した。炎上したバスの中で呻くブルーと級友たち。
消防車が駆けつけるが、消火するはずの救急車は放水口から弾丸を浴びせかける。級友たちが蜂の巣にされ、ブルーも首筋を撃ち抜かれたと思った瞬間、目が覚め飛び起きる。
首筋に、何かが刺さった感覚があった。触れて確認してみるが、分からない。横にはミラがあどけない表情で寝ている。旅に出た最初の朝と同じように、皮衣の胸元を直してやった。
それにしても、酷い夢だった。傷からくる熱のせいだろう。ブルーがもう一度横になると、中空に一瞬ドローンが浮かんで消えたのが確かに見えた。
「ペガソ!」
スリープ状態のペガソに呼びかける。
「どうしました?ブルー」
「今一瞬、眼の前にドローンが!」
「私のセンサーには、何も反応がなかったのですが……まさか電磁ステルス?コンローで出会った警務ドローンにもそんな機能はなかったはずです」
「そうか……」
「いずれにしても、警戒は続けます。ブルーは回復に努めてください」
「分かった、ありがとう」
ブルーは首筋を少し気にしながら、再び眠りについた。
翌朝ブルーが目を覚ますと、腫れと痛みがかなりましになっている。そして3日が経つころには、腫れどころか骨折の痛みもほぼ無いぐらいにまで回復していた。
「すごいよブルー!アガベが効いたかな?」
「いや、ミラがずっと看病してくれたのおかげだよ……ミラ、なんで笑ってるの?」
「ブルー、前歯が1本ないとtonto(間抜け)だよ」
「分からなかったけど、今絶対馬鹿にしただろ!ペガソ、翻訳してくれ!」
「ダメだよペガソ!」
「……お2人とも、楽しそうなところ水を差して悪いですが、あの傷が3日で治癒するのは明らかに不自然です。なにか理由があるはずです」
「ボクのおくすりのおかげだよ」
突然中空から声がし、ドローンが3人の前に浮かび上がる。基本的な造形はヒューストンの警務ドローンと同じだが、白ベースのボディにピンクのライン、角の取れたデザイン、何より前面液晶にピクセルアートで『眼』が表現されている。
「ボクの、っていうかボクのお師匠が作った回復促進薬をアイシクルバレットで打ち込んだからね」
「それにしても、あのキズを3日で治すとは信じられません」
「お師匠は万能の天才だからね!おまけに容姿端麗!」
ドローンの『表情』が自慢げに変わる。
「ねえ、君のお師匠に会わせてもらえないかな?お礼も言いたいし」
ドローンはしばし『考え』てから
「いいよ、ついておいで」
と答えた。
そこからは、先導するドローンの後を追う旅が始まった。空を行くドローンは、チラチラと後ろを見ながら引き離さないよう調節して飛んでくれている。
「なあペガソ、あのドローン意思があるようにしか見えないんだが」
「私も驚いています。それに、光学的電磁的に完璧なステルス性を有しています。ブルーに打った薬といい、現代科学を超越しています」
その日は、250kmほど移動して野営することになった。
上空を飛びまわりながら、ドローンはずっと文句を言っている。
「人間はウンチだオシッコだご飯だと、すぐ止まらないといけないから不便だよね!え?今から8時間寝るの?お師匠は2時間しか寝ないよ!ボク1人なら1日飛べば着く距離なのに……」
「どうやら私と違って、あまり人間に忠実なAIではないようですね」
とペガソが苦笑している。ミラが空に向かって問いかけた。
「ねーえドローンさん、名前はなんていうの?」
「ボクはイータンだよ。お師匠がつけてくれたんだ」
「いい名前だね!」
イータンの『眼』が笑顔に変わる。
「イータン、鱒を2匹獲ってきてくれない?あ、毒は使わないでね」
しばし考えてから、イータンの液晶が『OK』に変わり湖のほうに飛んでいく。
10分もしないうちに、大きな鱒をぶら下げて帰ってくる。
「bien!ありがとう!」
とミラがイータンの白いハウジングにキスをする。
「なっ……!」
「You're welcome.キュートなミラには大きいほうをあげるね。ブルーはこの小さいほう」
「な、なっ……!」
3日目の昼、一行の前に巨大な街の廃虚が姿を現した。
「イータン、ここにお師匠さんがいるの?」
「そうだよ、容姿端麗超絶頭脳のお師匠」
ブルーがペガソのコンソールを確認しようとすると、先回りして教えてくれる。
「ここは21世紀末、ジョージア州都でアメリカ南部の中心だった都市。アトランタです」




