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第6話 求愛

「ただいま」


玄関に靴を脱ぎすて家に入ると晩御飯の匂いがする


「(全然おいしそうって思えない)」


不思議とお腹もすかない

あの日見たキラキラ光る川の水面と

涼しくて心地よい空気が恋しくて仕方なかった


「ただいま、ねぇおかーさーん」


そのまま台所でご飯の支度をしているお母さんに後ろから抱き着く


「…っ」

「今日ね、しんどくてね、ずっと保健室に居たんだよ」


心配してほしくて、そのままお母さんの腕におでこをこすりつけるように甘えた


「そ……なの、じゃあ……横になってきたら?」


私を見ないように振り向くと、そっと肩に手を置いて引きはがされる


「……うん」


少し視界が霞むのは、お母さんが最近冷たいからか

体調が悪いかなのかもう分からない

ただ、真っ暗の部屋でどさりとベッドの上に倒れこむと

そのまま濁っていく意識の中でバシャバシャと水が跳ねる音がやけに耳に付いた


「突然どうしたんだ?やけどでもしたのか!?」

かすかに心配するようなお父さんの声が聞こえる


「違うのっ、あの子がっ、ヒナが触ったところが気持ち悪いのっ!!」



「(きも、ちわる、い?)」



ぼんやりする意識とは裏腹にお父さんとお母さんの声を拾おうと耳だけが鮮明だ


「またその話か?最近の君はどうかしている、娘が気持ち悪いなんて!!」

「だって、だって最近あの子が大きな虫に見えるのっ!!私だって、なんでこんな風に見えるか分からないのっ!!」

「しっかりしろ、俺にはいつものヒナにしか見えないぞ?疲れてるんじゃないか?」


狂ったように泣き叫ぶ声を聞きながら、気が付くと涙があふれていた


なんでかな?

最近学校でも前みたいに皆と仲良くできないし

お母さんまで何でそんなこと言うの?


ぎゅっと自分を守るように布団をかぶって小さく身を潜めた

自分の匂いのする布で覆われていると、少しだけ落ち着く気がする


「(明日、元気になったら自分からユウちゃんにおはようって言おう)」


あの日以来、ユウちゃんと喋っていない

それどころかクラスの女子とは距離ができてしまった。


「(何でこんなことになっちゃったのかな)」


もう私には何もわからない

ユウちゃんが突然ヒカル君の目がぞっとすると言い出したのも

クラスの子に心配されるのも

突然ご飯が食べられなくなって辛いのに私のことを気持ち悪いっていうお母さんもっ!!


「なんでっ!!なんでっっっっ!!!!!!」


悲しいって気持ちが一瞬苛立ちと怒りにすり替わった瞬間だ





ブブ…



握りしめていたスマホに着信が入る


「ひかる、くん?」





ブブ…




ブブ…




ブブ…



ブブ…


点いては消えて

点いては消えて

点いては消える着信とヒカル君の名前にお腹のあたりがじわっと熱くなる


「ひかるくん、ひかるくん、つらいよ……」


緩やかな水の流れる音と

太陽が反射する水面がキラキラしていたあの日の光景が突然瞼の裏に浮かび上がった


『ここ、僕が見つけたお気に入りの場所』

真夏だというのにひんやりと涼しくて


『あのね』

水の流れる音が心地良くて、火照った体が落ち着いていく感覚が欲しくてたまらない


『嫌なことが有っても僕が姫埼さんの味方になるから、辛くなったらここで会おう?』


ゆっくりと瞳を開いて

画面に映し出されたメッセージに視線を滑らせた










“やっと会えたね、ヒナちゃん”














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