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Detectiveコンヌちゃん  作者: 虎村


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桐龍警部

 午前十一時三〇分、警察署到着した。N県警察署。古い建物だが、清潔に保たれている。エントランスには、地域の防犯ポスターが貼られていた。コンヌは受付に向かった。


「あの、桐龍警部にお会いしたいのですが」


「お名前は?」


「稲荷コンヌと申します。十二時にお約束をしております」


 受付の警察官は、端末を確認した。


「ああ、はい。少々お待ちください」


 数分後、若い警察官が案内に現れた。


「こちらへどうぞ」


 廊下を進む。古い床が軋む音が響く。警察署特有の、緊張した空気。案内されたのは、奥の個室。「刑事課 桐龍」と書かれたプレートがかかっている。ドアをノックすると、低い声が返ってきた。


「入ってください」


 部屋には、五十代くらいの男性が座っていた。柔和で穏やかそうな目つき。短く刈った白髪。だが、疲労の色が濃い。


「古鷹君から聞いています。掛けてください」


 桐龍警部は二人に椅子を勧めた。机の上には、資料が積まれている。付箋が何枚も貼られていた。


「早速ですが、美月君のことです」


 桐龍警部は一枚のファイルを開いた。


「三ヶ月前、美月は私の指示で教団への潜入捜査を開始してます」


「三ヶ月…」


 コンヌが呟いた。


「ああ。当初の予定では、ニヶ月で情報を集めて撤収するはずでした」


 桐龍警部の表情が曇る。


「ですが…」


 桐龍警部は報告書を何枚か取り出した。


「これが一ヶ月目の報告です」


 几帳面な文字で、びっしりと書き込まれている。


『教団員:推定八〇名

幹部:五名(顔写真添付)

資金源:セミナー参加費、寄付金

活動内容:週三回のセミナー、個別相談』etc…


「詳細だ…」


 ときやが感心した声を出した。


「美月君は優秀な警察官です。観察力も記憶力も高い」


 桐龍警部は誇らしげに言った。だが、次の報告書を見せた時、その表情が曇った。


「これが二ヶ月目の報告です


 短い文章。具体性がない。


『教団の活動は順調。問題なし』


「荒いですね…」


 コンヌは息を呑んだ。


「ええ。明らかに様子がおかしいです」


 桐龍警部は拳を握った。


「そして、3ヶ月目。報告はさらに短くなった」


 最新の報告書。


『順調』


 一言だけ。


「桐龍警部も察しているかもしれませんが…潜入がバレて脅迫されているか、洗脳されかけているかもしれませんね」


 ときやが言った。


「時間がないと思われます」


 桐龍警部の声が震えた。


「はい。自我を失うまで洗脳されてしまえば取り返しがつきません」


 沈黙。桐龍警部は窓の外を見た。


「すぐにでも救出したいところですが…」


 桐龍警部は声を潜めた。


「問題があります。警察内部に教団の内通者がいます」


「内通者…」


 コンヌが繰り返した。


「ええ。おそらく上層部にもいます。だから、公式な捜査として動けません」


 桐龍警部は苦い表情をした。


「私が独断で美月君の潜入を許可しました。もし失敗したら、私の責任です」


「警部さん…」


「美月君に危険な任務を押し付けた。上司として…」

 桐龍警部の声が詰まった。


「申し訳ないことをしました」


「桐龍警部さん」


 コンヌが言った。


「美月さんは、自分の意志で選んだんですよね」


「…ええ」


「なら、私たちが必ず助けます」


 コンヌの目は真剣だった。


「古鷹さんとの約束でもあります。そして…」


 コンヌは父の手記を握りしめた。


「お父さんが十年間、一人で戦ってきました。私もお父さんのようになりたい」


 桐龍警部は、しばらくコンヌを見つめていた。思い詰めたような視線を感じる。


「…分かりました」


 桐龍警部は立ち上がった。


「君たちを信じましょう。これが美月君からの最後の連絡です」


 桐龍警部は携帯を見せた。


『七日後の新月。十一月九日の深夜。儀式。急いで』


「古鷹さんも見せてくれました」


「ああ。古鷹君にも同じものを送っています」


 桐龍警部は携帯を握りしめた。


「だが、その後は音信不通です。携帯も繋がりません。電源を切られたか。もしくは奪われたか」


 桐龍警部の表情が暗くなる。


「美月さんの特徴を教えてください」


 コンヌがノートを取り出した。


「見た目は写真で見ましたが、性格や癖など」


「ええ」


 桐龍警部は少し考えた。


「美月君は真面目で、正義感が強い。責任感も強すぎるくらいだ」


 桐龍警部は微笑んだ。


「困っている人を見ると、放っておけない。それが美月君の長所であり…」


 桐龍警部の表情が曇る。


「弱点でもある。教団はそこにつけ込んだんだろう」


「父親に似たんですね」


「ああ。古鷹君によく似ている」


 桐龍警部は続けた。


「それと左耳に小さなピアスをしています。幼い頃、父親に買ってもらったものだと聞きました。いつも着けています」


 コンヌはメモした。


「もし洗脳されていても、そのピアスがあれば本人だと確認できます」


「ええ。頼みます」


 桐龍警部は引き出しから、小さな発信機を取り出した。


「これを持っていってください」


「これは…」


「GPS発信機です。万が一、君たちが捕まっても、居場所が分かります。美月にも持たせるべきでした」


 桐龍は真剣な目で言った。


「そうすれば、機動隊を動かせます。内通者がいても緊急事態なら強行できる」


 コンヌは発信機を受け取った。小さく、軽い。だが、重みを感じた。


「ありがとうございます」


「それと」


 桐龍警部は名刺を渡した。


「私の直通です。二十四時間繋がります。何かあったら、すぐに連絡してください」


「はい」


 部屋を出ようとした時、桐龍警部が呼び止めた。


「待ってください」


「はい?」


「一つ、気をつけることがある」


 桐龍警部は声を潜めた。


「この署内にも内通者がいる可能性が高いです」


 桐龍警部は廊下を見た。


「だから安易に信用してはいけません。もし警察官を名乗る人間が近づいてきても情報を渡さないようにしてください」


「分かりました」


「それと」


 桐龍警部は二人に近づいた。


「明日の夜、夜霧ホールでセミナーがあります。そこにも内通者が来るかもしれない」


「警察官が?」


「ああ。教団を監視する名目で、警官が配置される予定です」


 桐龍警部の目が鋭くなる。


「だが、その中に内通者が紛れている可能性がある。気をつけてください」


「はい」


 コンヌは頷いた。

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