図書館で調査
図書館の扉を開けると、静けさが迎えてくれた。午前九時。開館直後。館内には人影がまばらで、本棚の間には朝の光が差し込んでいた。
「まずは役割分担しよっか」
コンヌは小声で言った。
「私は教団の歴史と黒鉄山の資料。ときや君は?」
「洗脳の手法について調べる。医学書のコーナーへ行くよ」
二人は分かれて、それぞれの調査を始めた。コンヌは郷土史のコーナーへ向かった。古い新聞記事のマイクロフィルムを探す。
『二〇XX年、黒鉄山で不審な集団が目撃される』
記事は小さく、続報もない。だが、日付は十年前。父が消えた年だ。
「これは…」
コンヌは記事をコピーしてノートにスクラップした。次に、黒鉄山の地質調査報告書を見つけた。
『山頂付近に、天然の地下空洞が存在。古代の祭祀場として使われていた可能性』
添付された図面には、空洞の構造が詳しく描かれていた。そして図面の隅に小さな紋章が描かれていた。奇妙な幾何学模様。コンヌは息を呑んだ。父の手記で見た、あの紋章だ。
「見つけた…」
さらに調べると、古文書のコーナーに
『星辰の書(抜粋)』
という資料があった。漢文と図が混在した、判読困難な書物。二節気になる箇所が目に留まった。
『開門須二力』、
『自内自外同時発之』
書き下すと
『門は二種の力を須う』、
『内より外より同時にこれを発す』
といったところか。
コンヌは古文書の一節を何度も読み返した。内と外、同時に。その言葉が、どこかで聞いたことがある気がした。でも、どこで?手記?違う。もっと最近。もっと身近な、何か。思い出せないまま、コンヌはノートにメモした。手帳を閉じる時、探偵事務所の窓が頭に浮かんだ。なぜかは分からなかった。
一方、ときやは医学書のコーナーで、精神医学と神経科学の本を次々と開いていた。
「洗脳のメカニズム…」
ときやはページをめくる。
『聴覚刺激による認知機能の低下』
『視覚パターンによる暗示誘導』
『段階的な精神支配の過程』
ときやはノートに整理した。
『洗脳の三段階
第一段階:聴覚へ干渉。周波数で脳の判断力を鈍らせる
第二段階:視覚へ干渉。光のパターンで暗示をかける
第三段階:精神支配。自我の喪失、命令に服従』
「美月さんは…おそらく第二段階くらいかな」
ときやは小さく呟いた。
「まだ間に合う」
午前十時三〇分。二人は図書館のカフェコーナーで合流した。
「見て、これ」
コンヌは調査結果を見せた。
「『内と外、同時に』。なんか気になって。封印の方法なのかな?分からない。でも、父さんの手記にも似たような言葉があった気がして」
「なるほど。興味深いね」
ときやも自分のノートを見せた。
「洗脳の段階について復習した。第二段階までなら、完全に支配される前に救出できれば、回復の可能性がある」
「時間がない」
「ああ。第三段階に入ると、自我が完全に失われる。そうなったら…」
ときやの表情が曇った。
「取り返しがつかない」
二人は顔を見合わせた。
「次は警察署だ」
コンヌは時計を見た。
「桐龍警部との面談が十二時。十一時半には着きたい」
「分かった」
図書館の外は、晴れていた。だが、空気は冷たい。
「寒いね」
コンヌがカーディガンを羽織った。
「もう冬が近いね」
ときやが車のロックを解除した。
「今日一日で、できるだけ情報を集めよう」
「うん」
二人は車に乗り込んだ。
車が走り出してから、コンヌはシートベルトをしながら言った。
「古鷹さんが紹介してくれた人なんだけど、桐龍警部ってどんな人なんだろうね」
「N県警の刑事部で長く働いてる人らしい。古鷹さんが警察にいた頃の同僚で、今も信頼できる数少ない人間だって話してたけども」
ときやは古鷹から聞いた話を思い出す。
「内通者がいる中で、信頼できる警察官が一人いるのは大きいね」
コンヌが相槌をうつ。
「あぁ。古鷹さんが直接連絡を取って、面談の約束を取り付けてくれたんだって」
ときやは前を向いたまま言った。
「どんな人かは会ってみないと分からないけど」
「うん。でも古鷹さんが信頼してる人なら、話す価値はあると思う」




