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第5話

 愛媛県宇摩郡新宮村。三島町から山を越えた先にある数十個の集落が点在する村である。村の傾斜が激しいため、村の人々は棚田で農業をする。

 その集落の一つに大きな家屋がある。

 他の家と比べると倍以上の敷地を占めており、かなりの富豪が住んでいるんではと感じる。

 そんな家屋の門の前に両手を膝にあて下を向き息を整えている青年がいる。

 青年…恒一(つねかず)はかなり疲弊していた。

 無理もない。

 三島町から新宮村まではおおよそ15km。それも山道である。

 いくら士官学校を目指していた人間といえど、これほどの道のりを進むとなるとかなりの体力を消費する。

 秋寧(あきね)から渡された地図がわかりやすかったため何とか道に迷わずに来れたが、もし道に迷ったら…恒一は想像し震えた。


 呼吸が安定した恒一は門を通り、その先に見える戸の前に立つ。

 そして、戸を数回叩く。


「すみません。誰かいませんか?」


 そう言うと、家からうっすらだが足音が聞こえる。

 やがて足音が大きくなり、戸を開ける音へ変わった。

 戸の向こうにいるのは…黒い肌の大柄な男だった。青い瞳をしており、髪は自分と同じく短く剃ってある。自分より2回りほど大きく、戸を通る際はしゃがまなければならないのではと思うほどだった。何より特筆すべきはその肉体。藍色の着物越しだが腕の太さや胸板の厚さが常人と比べものにならないほど大きい。物語に出てくる鬼を彷彿とさせる肉体だ。


「何の用だ?」


大柄な男は野太い声で恒一に語り掛けた。見た目に反し、流暢に日本語を話す。恒一は戸惑いながらも答えた。


獅能(しの) 秋寧支部長にここで修行するよう命ぜられたものです!」

「そうか。入れ。」


そう言うと大柄な男は部屋の奥に戻っていった。恒一は玄関で靴を脱ぎ、部屋の中へ入っていった。



◇◇◇



 大柄な男と恒一は廊下を進んでいく。

 秋寧のいた支部とは違い和風な場所であることに恒一はどこか懐かしさを感じていた。

 恒一の家もここほど大きくなかったがこのような感じだったからだ。

 大柄な男は途中で止まり、左を向きそこにある障子を開ける。


「入れ。」


 大柄な男に言われ、恒一はゆっくりと入っていった。

 座敷と思われる場所には長方形のちゃぶ台が置いてある。そして、ちゃぶ台の向こうに目を向けると一人の男がいた。

 髪は黒と白が入り混じっており、しっかり整ってある。いくつかのしわがあるが、どこか若さを感じるほどしっかり整った顔立ちをしている。白の下地に黒のまだら模様の点がある着物を着て正座をしている。見た感じ、元々妖防衛課(あやかしぼうえいか)にいたんだろう。


「よく来たね。そこに座りなさい。」


 そう言われ、恒一は反対側に正座した。大柄な男は白髪交じりの男の隣に座った。


「初めまして。ここで新人隊員を指南している達風(たつかぜ) 空也(くうや)だ。秋寧から聞いているよ。今日からここで修行する恒一君だね。」

「はい!」


 恒一はとっさに声をあげ答えた。

 それを見た白髪交じりの男は少し笑い話し出す。


「君は元気があっていいねぇ。これからみっちり指導するから頑張ってくれ。」


 そう言うと、空也は隣で正座する大柄な男に視線を送るよう指して話す。


「隣にいるのが達風(たつかぜ) 太郎(たろう)。私の養子だ。これから模擬実践などをする際にお世話になるだろう。」


「太郎だ。よろしく。」


「私のことは先生と呼んでくれ。」

「よろしくお願いします!先生!」


 恒一は頭を軽く下げる。恒一が頭を上げると空也は話し始めた。


「今日はそうだな…これからどのような日々を送るか簡単に説明するとしよう。」

「はい!」


 恒一のやる気ある声を聞き、空也は話し始めた。


◇◇◇


空「まず、君にはこれから9月にある試験に向けて頑張ってもらう。」

恒「試験ですか!?」

空「そこからか。(あやかし)退治をするには本部が発行する免許が必要になる。免許は2種類ある。仮免許と本免許だ。」

恒「ちょっと待ってください。妖退治するのに免許が必要って…思っていたのと違っていて…。支部長(秋寧)が自分の手を握って『君は現場に行くには実力不足過ぎるね。』って言っていたのでてっきり支部長から認められたら妖退治できるものかと。」

空「すまない訂正させてくれ。仮免許は秋寧…支部長が発行するものだ。故に秋寧は仮免許を渡すにふさわしいか実力を試したのだろう。」

恒「そうでしたか…。自分1秒も耐えられずに手を放してしまって。」

空「そうかそうか。安心しろ。しっかり耐えれるよう鍛えてやる。」

恒「はい!頑張ります。」


空「ということでここで鍛えるにあたって守ってほしいことがある。」

恒「はい!」

空「これから月から土曜は三島町からここまで走って通うこと。」

恒「へ?」

空「君はまだ基礎的な技術ができないだろうから…10時までにはここに来てほしいかな。」

恒「すみません。それって鍛えてもらうために山越えしてここまで来いってことですか?」

空「そうだな。体力づくりをしなければならないからこれくらいはやってもらわないと。

恒「あのー。ここ来るまで4時間以上かかったんですけど…。」

空「それくらいかかるだろうから朝10時までにしてある。慣れてきたら少しずつ時間を減らしていくぞ。」

恒「えぇ…。」

太「安心しろ。基礎技術を習得出来たら1時間以上短縮できるから。」

恒「はぇ…。」


空「主にすることは座学と実習。座学は妖の生態や基礎技術について、あとは歴史も少しやるぞ。」

恒「はぁ。」

空「実習は座学で学んだことを実際にやってもらう。」

太「俺が練習台や手本になってやる。しっかりやるんだぞ。」

恒「はい。」


空「衣食はこっちで面倒をみよう。とりあえず恒一君は仮免許取得に向けて頑張ってくれ。我々も精一杯指導するが、取得できるかどうかは君次第だ。どうだ?ここまで聞いて頑張れそうか?」

恒「正直不安はありますが…ここで頑張ると決めた以上は精一杯努力するつもりです。」

太「その意気だ。頑張れ。」

恒「はい!」


空「仮免許取得後のことは…取れてからにするか。とりあえず今日のところは以上だ。帰っていいぞ。」

恒「はい。これからご指導よろしくお願いします!」

空「ああ。気をつけて帰るんだぞ。」

恒「はい!」


恒一は部屋を後にした。

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