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第4話

 平日昼前の東京の下町は閑散としている。住人のほとんどは仕事に行っているからだ。当然道にも人影一つない。

 そんな道を電光石火で駆け抜けるなにかがいた。

 通った部分からはすさまじい土煙が吹き荒れ、後方にいれば間違いなく視界が奪われるほどだった。

 しばらくしてなにかは急に立ち止まる。

 立ち止まっていたのは…男を背負った女性『速見(はやみ) 早矢(さや)』だった。彼に背負われている男『世輪(せわ) 恒一(つねかず)』は気を失っている。

 彼女は後ろを向き、気を失っている恒一を見て少し微笑み声をかけた。


「恒一さん、着きましたよ。ここで合ってますよね?」


 恒一は以前気を失ったままだ。

 早矢は抑えていた恒一の足を離す。

 恒一はそのまま尻から落下してしまった。

 恒一の尻に激痛が走り、余りの痛さに目を覚ます。

 それを見た早矢は改めて声をかけた。


「起きましたか恒一さん、大丈夫ですか?ここで合ってますか?」


 恒一は尻を抑えながら早矢に答える。

 

「痛ぇ…。あ、はい大丈夫です。ここで合ってます。」


「よかったぁ。この辺結構複雑だから道間違えたらどうしようかなって思ってたんですよ。恒一さんは気絶することは大体わかっていたので。

「なんか…すみません」

「全然気にしないで下さい。私のこと知らない人が乗ったら大体こうなるので。」


 恒一は苦笑いをした。


 

 おぶってもらった時から違和感があった。

 人を送り届けるのになぜおぶる必要があるのだろうと。

 そして、違和感が嫌な予感に変わったのは建物を出てから。

 早矢からただならぬ雰囲気を感じ、いまからとんでもないことが起こることを恒一は本能的に理解した。

 走り出す直前、早矢は恒一に聞いた。


「恒一さんの自宅ってどの辺にあるか教えてくれますか?」


 恒一は答えた。

 今自分がどこにいるのかわからないことと、近くの建物だけではわからないだろうと思い、一応住所も言った。

 それを聞き彼女は笑顔を見せ、

「それだけ教えてくれれば大丈夫です。では、行きますよ!」


と言い走り出した。

 その速度は恒一が一秒も持たずに失神してしまうほどだった。


 

「では、私は失礼します。引っ越しする準備ができたら、こちらに連絡してください。」


 そう言うと早矢は恒一に一切れの紙を渡した。

 恒一は受け取りそれを見ると住所が書かれてあった。

 おそらく、自分が御阴と話していた場所だろう。

 早矢は恒一が受け取ったのを確認すると、一礼して帰っていった。


◇◇◇


 愛媛県宇摩郡三島町。現代では四国中央市と呼ばれているところだ。周囲は農村となっているが、沿岸部では海運や小さな製紙工場が存在する。

 そんな町の一角に農村部では目立つ建物がある。西洋風の2階建てと思われるその建物はまるで田園風景を一望するかの如く鎮座しており、この町の統括しているのかと思わせるほどだった。

 時刻は14時前。そんな建物の入り口に立ち、見上げる軍服を着た人とそれを見つめる人がいた。恒一と早矢である。恒一は左手で尻を優しくなでながら、早矢は黒い布で隠されているが多くの荷物が乗せられているように見える台車を引きながら恒一を見ている。

 しばらくして早矢は恒一に話しかけた。


「では私は指定されている住居に荷物を届けに行ってきます。恒一さんは先に入って秋寧(あきね)さんに挨拶してきてください。」


 そういうと早矢は建物を背に走り出した。

 恒一は緊張を抑えながら入口を超え、扉の前に立つ。

 深呼吸を1回し、気持ちを整えてその扉を開けた。

 扉の向こうは建物の大きさに見合わないほどに閑散としていた。玄関には靴を置く場所がない。そのため恒一は土足で進んでいく。

 目の前には階段があり、両脇には通路が広がっている。階段の壁にはこの建物の部屋割りについて記されており、恒一はそれを見つつポケットから紙切れを取り出す。

 紙切れには四国支部の住所と「着イタラマズ支部長室ニコイ」と書かれている。

 恒一はそれを見ながら支部長室を探す。支部長室は2階に上がり左に曲がって2番目の場所のようだ。

 恒一はその通りに進み、支部長室の前に行く。



 支部長室の扉に立った時、恒一を強烈な悪寒が襲う。

 扉の向こうから感じる2つの力。

 扉の取っ手を持とうとした手が軽く震えた。

 しかし、これからそこで鍛えてもらう身。

 このまま怖気づいてはダメだ。一歩を踏み出すんだ!

 そう自分に言い聞かせながら恒一は扉を数回叩き、ゆっくりと開けた。

 目の前には2つのソファが向かい合っており、それをソファの座面ほどの大きさの机を挟んでいる。

 奥側のソファには腰掛けている秋寧(あきね)の姿があった。

 そして恒一からみて秋寧の左隣には一人の軍服を着た男が後ろで手を組み立っている。

 身長は…御阴より少し大きいくらいだろうか。腰には秋寧同様サーベルが備えられている。全体的に軍人なのかと思えるほどの華奢な体に子供と思われてもおかしくない顔立ちをしている。髪型は左右に前髪を分けて下ろしている(現代で言う『韓流センターパートマッシュ』)。


「やぁよく来たね。そこに座りな」


 秋寧がそう言うと、恒一は恐る恐る秋寧の反対側のソファに座った。


「あき姉さん、こいつが言っていた新人ですか?」


 秋寧の隣に立っている男が聞いた。声は甲高く、見た目も相まって女装すれば女と間違われてもおかしくないのではと感じるほどだった。

「そうだよ。東京からきた世輪(せわ) 恒一(つねかず)君だ。」

 男は恒一の方を向いた。

妖防衛課(あやかしぼうえいか)四国支部副支部長兼第三級戦力保持者、明瀨(あかせ) 陸胡(りくう)だ。よろしく。」


「じゃあ私も改めて、妖防衛課四国支部支部長兼第ニ級戦力保持者、獅能(しの) 秋寧だ。これからよろしくね。恒一君。」


 そう言うと、秋寧は右手を差し出す。

 右手には数多のまめがあり、強者の風格を感じさせる。

 恒一も右手を出し秋寧と握手をした。

 その瞬間恒一の全身を強烈な衝撃が襲った。

 思わず恒一は手をはじいてしまう。


「あき姉さん、新人をいじめないでください。可哀そうじゃないですか」


 陸胡の言葉に秋寧は少し笑いながら相づちをした。

 そして恒一に向けて一礼して話し出す。


「恒一君すまないね、少し君の実力を測らせてもらったよ。予想した通り、君は現場に行くには実力不足過ぎるね。ゆえに、これから新宮村にある道場で修行してもらう。そこからの説明は…そっちに任せようかな。」

「そう…ですよね。この場にいる時点で修行に行くだろうことは感じていたので。」


 恒一の言葉に秋寧は改まり恒一の面を見て話す。


「今日は引っ越した後の荷物整理で忙しいと思うから帰りな。明日から新宮村の道場に行って修行してもらいな。」

「はい!」


 恒一は声を張って答えた。

 それを聞いた陸胡は口角をあげ、秋寧は恒一の瞳をじっくり見た。

 恒一の覚悟ある眼差し。秋寧はそれを感じ取った後、恒一にはがきほどの大きさの紙を2枚渡した。


「ここに恒一君の住む場所と新宮にある道場の場所が書かれてある。一応見つからなかった時用のために住所もな。道に迷わないようしっかり帰り、しっかり向かってくれ。」

「はい!ありがとうございます!」


そういうと恒一は部屋を後にした。

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