第38話
四国支部に配属されて一か月が経とうとしている。一か月も経てば仕事もしっかり覚え一人前の軍人として戦っている、そう思っていた。
「受け身遅れてるよ!」
あの一件以降ずっと、僕は支部長との稽古漬けの毎日だ。
確かにあの時、実戦経験を全くしていなかった自分は妖1体を倒すのに精いっぱいだった。次は迷惑をかけないよう力をつけることは納得する。
だが、1か月も稽古つけてもらうとは思ってもいなかった。それくらい自分の成長速度が遅いということなのか。
「すみません!」
支部長の攻撃は一切緩まない。こっちが受け身の体勢を取ろうとしたら反対側を狙ってくる。ずっとやってきたから動きの癖は多少わかるようにはなってきた。序盤は支部長の動きに合わせて受け身を取れるようにはなってる。けど、今みたいに長時間の戦闘ってなると、
「がっ!!」
もろに一撃をくらって吹き飛ばされる。
本人は軽くと言ってるけど、普通に痛い。今回みたいに腹に突きなら尚更。
最初の稽古の時、正々堂々正面から勝てるようにって支部長は言ってたけど、この人には一生勝てない自信がある。
「恒一、話がある。」
腹を抑えている自分を見下ろしながら支部長は僕に言った。
◇◇◇
「今日で私との稽古は終わりだ。」
「え?」
訓練場に僕の零れた声が響く。
あまりにも突然だった。確かに稽古開始から1か月も経っている。稽古終了になってもおかしくはない。だが、自分の中では満足していなかった。毎日毎日支部長にサーベルで殴られる日々。自分の実力がついてきているとはあまり実感できていないからだ。
「待ってください…。どうしてこんな急なんですか?」
「こっちにもこっちの都合があるの。それよりも、支部長直々に面倒見てあげたことを感謝してほしいね。」
「確かに支部長との稽古は有意義なものでしたし、忙しい中見てくれたことにも感謝しています。」
「だろ?」
「でも、自分の中では満足できていません。もっと支部長から教わりたいです。」
「自分の中では満足できていない…か。向上心があるのは素晴らしいな。」
支部長は座り込み、僕と目線を合わせた。
「妾から見たら恒一はだいぶ成長したと感じたぞ。最初は最初っから私にコテンパンにされてたけど、今は30分は互角に渡り歩いてる。動きの僅かな無駄も矯正されたし、式の流れも1か月前よりも速くなってる。だいぶ成長できたと思うぞ。」
「そう言われても…実感がわきません。」
「そうだな。じゃあそれを確かめるために恒一には『結界張り替え』行ってもらおうかな。」
「え?」
「大丈夫だ。今の恒一なら妖との勝負で変化が起こっているはずだよ。」
「そうですかね…。」
「ということで、明日から行ってもらうよ。いいね?」
「はい…。」
支部長への返答は、不安と疑念が籠った声だった。
◇◇◇
次の日、支部長室に入ると懐かしい顔が目に入った。
「よっ。久しぶり。」
「おはよう。今回の任務を共にする上官だ。まぁ、面識があるから自己紹介は不要だな。」
「面識があるって言っても最後に会ったの半年以上も前ですよ?覚えているわけg」
「覚えています。あの時はお世話になりました。」
「お世話にって…。僕は落とした人だからそう言われると変な感じになるな…。」
僕とその人気まずい空気を誤魔化すように失笑した。
しばらくしたのち、失笑に包まれている空間に支部長の手を叩いた衝撃音が響く。
「ということで、恒一は龍明と一緒に結界張替えを行ってもらう。いいな?」
「よろしくね、恒一君。」




