第32話
恒一は視線を向ける。
鳥のような鋭い嘴、目は蜻蛉のような複眼、体は石のような色の蛙。
異形…これが、妖!
恒一は妖の攻撃を両腕に式を集中させた。回避は間に合わないという判断だ。
嘴が激突し、凄まじい音が木々を震わせる。
轟音を上げながら、妖の嘴が恒一の交差した腕に食い込んでいく。
(まずい…!防げない!)
恒一は交差した腕を全力へ一気に下に向ける。
嘴が腕に食い込んだ妖は、恒一につられて勢いを下方に向けさせられた。
その勢いのまま、恒一の足元に一気に突っ込み、爆発音と土煙をあげた。
妖は前足を使い、突っ込んだ嘴を引っこ抜こうとする。
しかし、勢いよく突っ込んだため、嘴が完全に埋まってしまい中々抜け出せない。
(よしっ!胴体がむき出しの今なら!)
恒一は、右足の甲に式を集め、胴体がむき出しになっている妖目掛けて勢いよく右回し蹴りをぶつける。
蹴りを無防備状態で受けた妖は、地面を抉りながら吹き飛ばされ、大木に叩きつけられた。
大木は妖にぶつかった衝撃でクレーターが形成され、その中央部で妖が嘴を(恒一から見て)左側に向け仰向けに倒れ込む。
それを見た恒一は一気に妖との距離を詰める。
妖の肉体が崩壊して霧状になっていない。この妖はまだ生きている。
完全に仕留めるまで油断できない。
恒一右拳を引き、そこに式をため込む。
(倒れ込んでいる今が好機!『内波』で一気に仕留める!)
恒一が妖に拳を打ち込もうとしたその時だった。
倒れ込んでいた妖が、何かに吸い寄せられるように仰向けのまま(恒一から見て)左方向に行ってしまった。
恒一の右拳は地面に激突し、地面を抉りながら轟音と土煙をあげる。
(クソっ!逃げられた。おそらくあの妖の能力…。一体どういう能力なんだ?)
恒一は周囲を見渡す。土煙が周囲に立ちこみ、最寄りの木が見えるのがやっとな状況だ。
恒一は手で土煙を祓いながら視界を確保しようとする。
(!!)
恒一は顔を左肩に当たるほど一気にひねる。
その刹那、恒一の眼前をあの妖が土煙を纏いながら勢いよく通り過ぎていった。
(危ない…!一瞬でも判断が遅れたら頭を貫かれていた!)
恒一は体勢を整え、周囲を見渡す。
妖が勢いよく通り過ぎていったおかげで、土煙はだいぶ晴れた。
だが、妖は視界内にいない。
おそらくさっきと同じように遠くから勢いよく突進してくる。
恒一は目を閉じ、周囲の式に集中する。
(ダメだ…。感知できないくらい遠くにいる。)
そう思ったのもつかの間、恒一は背後から迫る式の塊を感知した。
恒一はすぐさま態勢を低くする。
そこを妖が弾丸の如く恒一の頭上を通過していく。
(このままだと消耗戦になる…。どうすれば…。)
恒一は構えを取りながら必死に考える。
妖はそんな恒一に容赦なく襲い掛かっていく。
恒一はそれを、紙一重で何度もかわしていく。
(最初みたいに正面から受け止めるか?いや、あの速さはあの時の数倍程度。まともに受け止めようとしたら貫かれて死ぬ。…いや、待てよ?最初の攻撃の時、僕が軌道を逸らすと地面に嘴が埋まるほどの勢いで激突した。とすれば…。)
妖は恒一の正面に勢いよくやって来る。
恒一はそれを何とか躱し、構えの体勢をとる。
妖は速度を落とすことなく過ぎ去っていく。
視界内から妖が消えると、恒一は両手を耳に当て、聴覚を研ぎ澄ませる。
(…やっぱりだ!)
恒一はすぐさま、妖が通っていった場所を突き進んでいく。
しばらく走ると、恒一の視界内にあるものが入る。
それを見た恒一に笑みが浮かんだ。
「わかったぞ…。あの妖の能力!」
恒一の眼前には、あの妖の嘴くらいの大きさの穴が開いた大木が映っていた。




