第30話
「少なくとも…、50は超えていると思われます…。」
「…そうか。」
玄嘋は拳を強く握りしめた。拳の隙間から、わずかな式が零れていく。
「荕醸様に悪気はないんです。その…」
「『その…』、何だ?」
玄嘋の雰囲気が変わった。
それを察知した瀧嵐は玄嘋に向かって頭と両腕を地面につける。
玄嘋はそんな瀧嵐の元に歩み寄り、眼前に座り込む。
「瀧嵐、荕醸は何をやった?50は何の数字だ?」
「…荕醸様が…、…葬った部下の数です…。」
玄嘋の淡々とした冷たい声に、瀧嵐は震えながら返す。
玄嘋は一呼吸置き、瀧嵐の顔を右手で掴んだ。
そしてそれを自分の眼前に持ってくる。
瀧嵐は恐る恐る目を開け玄嘋の表情を見る。
玄嘋の左右の目は眼前の者を威嚇しているような鋭さをしている。しかし、額の一つ目は眼前を威嚇しつつもわずかに潤んでいた。
「お前は、これでいいのか?あいつの横暴を許すのか?どんな理由であれ、何十もの部下を葬る奴が長として君臨するこの現状を許していいのか!?」
玄嘋の語気が強くなっていく。それと同時に瀧嵐を握る手の力が強くなっていき、瀧嵐の苦しみが増していく。
「今回だけじゃない!あいつが四国の妖を統べるようになって百数年、あいつによって失った部下の数は計り知れない!それなのにあいつが許されている理由がわかるか!?『強いから』たったこれだけだ!誰も荕醸に勝てない!だからあいつが部下を手にかけようとしても誰も止められない。止めれば自分が死ぬからな。そんな現状を…どうにかしたいと思わないのか…?」
いつの間にか玄嘋の左右の目も潤んでおり、3つの目から涙が零れ落ちていく。
玄嘋は瀧嵐を握っている手を離し、膝から崩れ落ちた。
瀧嵐はそんな玄嘋をただ見ていることしかできなかった。
◇◇◇
荕醸組
四国の妖を統率している妖団体である。
名前の通り、荕醸が組長として長年鎮座している。
そんな荕醸を二本柱と言えるのが玄嘋と瀧嵐だ。
玄嘋は荕醸組副組長として幹部たちをまとめており、瀧嵐は組長補佐として本部の部下たちを管理している。
玄嘋と瀧嵐、彼らによって荕醸組が四国を統べる組織になることができた。
そして四国を全て尚、彼らの尽力によって四国内の妖が上手く統率することが出来ているのである。
そんな荕醸組にはとある問題があった。
荕醸の酒癖の悪さである。
荕醸は事あるごとに酒を飲む。そのため、起きている時は常に酒が回った状態となっている。
これだけならよかったのだが、これにもう一つ大きな問題が加わる。
それは、荕醸の能力。
荕醸の能力は『酔えば酔うほど強くなる』というもの。
しかも厄介なことに荕醸が制御することができず、酔い状態になると意図せずに発動してしまう。
これにより、何気なくツッコミ気分で部下の背中を叩くだけでも部下が爆散し死んでしまうほどの威力になる。
さらに悪質なことに当人は部下を葬ったことを覚えていないという。後日そのこと聞かされ、部下を惜しみ酒を飲む…。
このようにして荕醸は数多くの部下を誤って殺してきた。
両腕はなんとかして荕醸の部下殺しを抑えようと努力している。
だが、どんなに頑張っても止めることができなかった。
酔い状態の荕醸を止めようとすれば自分が殺されてしまう。
酒を飲ませないようにすると、禁断症状によって攻撃的になり、部下を襲っていく。
酔っていない状態でも並みの妖では太刀打ちできないのがより厄介にさせている。
このような状況に瀧嵐は諦めを感じ、玄嘋はとある決意を固めていた…。
◇◇◇
「瀧嵐、お前は…荕醸が好きか?」
「それは…、主であるから一応。」
「そうか。じゃあ、荕醸と私なら、どっちを選ぶ?」
嵐瀧は戸惑った。玄嘋と知り合って百数年、初めて聞かれたことだった。
そして、即決できないほどの難問だったからだ。
「それは…どういう意味でしょうか?」
思わず嵐瀧は質問で返してしまった。
「例えばだ…、私と荕醸が戦争を始めるとしたとき、お前はどっちに着く?」
嵐瀧の問いに合った返答ではない。だが、この質問から玄嘋がどうするつもりなのかを察した。
(玄嘋は…、荕醸様を殺すつもりなんだ!)
ご愛読ありがとうございます。本来は8月13日に投稿する予定でしたが、私情により今日投稿することになりました。待たせてしまい申し訳ありません。
次回は恒一サイドの物語になります。数週間ぶりの主人公登場ですねw




