第27話
床に倒れ込む四龍。
恒一は躊躇せず四龍の顔を踏みつけようと足を勢いよく落とす。
間一髪で四龍は転がってかわし、蹴られた頬を手で押さえながら立ち上がった。
「こいつは驚いた…。」
四龍は呟いた。
勢いを詰める恒一。恒一の右拳が四龍の腹に押し寄せる。
拳は勢いよく四龍の腹に直撃した。
「久方ぶりだ。私が顔を床に打ち付けたのは。」
四龍はゆっくりと恒一に語り掛ける。
恒一に緊張が走る。
あの時、自分は全力で四龍の腹に目掛けて式を込めた拳をぶつけた。その前には全力の蹴りを四龍の顔に叩き込んだ。
なのに四龍は平然としている。自分の全力の攻撃が、全く効いていないのか?
恒一は反対の腕に限界まで式を込め、四龍に向かって勢いよくぶつけた。
四龍はそれを、守る姿勢をとらずそのまま受け止めた。
恒一の緊張が少しずつ恐怖に変わっていく。
手ごたえが…全くない。
自分の出せる全力の攻撃だ(内波は除く)。それなのに…。
「今までは、式操作をせずに戦っていた。」
恒一は恐る恐る四龍の顔に視線を向ける。
四龍は恒一を見下ろしていた。その目つきは、絶対的強者が弱者を見下すようなものを感じさせる。
「式を覚えたての若人が相手と聞いたので、式操作なしで相手していた。だが、さっきの一撃をくらって感じた。『舐めてかかりすぎたな』と。」
四龍は腹に当たっている恒一の腕の手首を握る。
恒一は反対の手で引きはがそうとするが、びくともしない。
「今まで恒一がまともに戦えていたのは私が『受け身』を使用していなかったからだ。受け身を使えば、恒一の攻撃なんて赤子同然なんだよ。」
四龍は恒一の手首を握っていない方の手を握りしめる。
恒一は危険を察知し、全力で四龍の手を引きはがそうとする。
だが、握っている四龍の腕はびくともしない。
「恒一。妖との戦いはこんなん日常茶飯事だ。妖と人間では各が天と地ほどある。私たち『龍』といった上位の妖ならなおさらだ。そんな状況下で、どうやって戦うか。それを確かめるのがこの試験だ。」
四龍は拳を握りしめた手に式を集中させる。
「さぁ、この拳が直撃したらただでは済まないぞ。さぁ、どうする。」
四龍は殴りの体勢に入っていく。
◇◇◇
「まずい、四龍が少し怒ってる。止めないと。」
端で観戦していた静奈は召喚した時と同じ指を取る。
「顕現解j「まぁ、待て。」
静奈は空也の方を見る。
空也は状況に動じることなく恒一のことを見ていた。
「何でですか!このままだと恒一君はタダでは済みませんよ!」
「さっきも言っただろ。『恒一はこの程度の男ではない』と。」
「で、でも…。」
静奈は指を元に戻し、不安げに四龍と恒一に視線を向けた。
◇◇◇
(マズい。このままだと…死ぬ!)
恒一の脳内に最悪の状況が映し出される。それを回避しようと、恒一は必死に頭を回転させる。
相手の力はすさまじく、握られた手を振り払うことは不可能だ。
なら、強烈な一撃を叩き込み、力が緩んだ隙に振りほどくのはどうだろうか。いや、さっきの全力の攻撃で四龍はびくともしなかった。よってこの案も棄却される。
四龍の攻撃を受け止めるか?いや、それでもかなりの重傷を負う。
一体、どうすれば…。
(空「その名の通り、相手の防御を貫通し内側から攻撃する方法だ。」)
恒一の脳内に、一つの希望が浮かび上がる。
実戦では一度も使用してこなかった。成功する保証はない。
だが、この状況を打開するには、これにすべてを賭けるしかない!
恒一は握られていない方の腕の拳に式を集中させる。
(ここで…決める!!今までの努力を、信じろ!!)
恒一は拳を引き、自分のすべてを込めた一撃を四龍にぶつけた。
四龍は先ほどと同様、それを腹の受け身のみで受け止めようとする。
「くっ!!」
四龍の掴みが少し緩んだ。
恒一はこの隙を見逃さず、掴まれている腕に力を籠め、四龍の拘束を振りほどいた。
四龍はそんな恒一に向けて式を込めた拳をぶつけようとする。
だが、拘束から解き放たれた恒一はすぐさま距離をとったため、その拳は空気を押し出すことに終わった。
その様子を見て唖然とする静奈。
満足げに恒一を見る空也。
太郎は思わずつぶやいた。
「あいつ、『内波』を決めやがった!!」
次回 修行編最終回!!




