第24話
「何で今なんだ?これまでも聞く機会があっただろ?」
太郎の問いを受け、恒一は下を向いた。
「初めて会った時からずっと思ってました。でも、自分のことで精一杯でなかなか聞けなかったんです。それに太郎さん、雰囲気怖いし。」
「ははっ、なるほどな。」
太郎は苦笑いをした。
確かに自分よりも一回りも大きく、肌の色が恒一や空也と異なり、屈強な体つきの自分を見たら怖気づくのも頷ける。
「そうだな…。あれは確か…15年以上前かな。」
太郎は恒一に自分の過去について話し始めた。
◇◇◇
俺は日本から遠く離れた国で生まれた。
生みの親によって幸せに暮らす…ことはなかった。
親は毎日一日中働かされた。休むことも許されず、自由を与えられず、ずっと働かされた。
俺が物心がついたときに両親は亡くなった。両親の顔を覚えることなく、ただ死んだことを伝えられた。だから俺は、両親が死んだことを知ったとき、何も感じなかった。赤の他人が死んだような…そんな感覚だった。
それから俺は、母親と仲が良かった人に引き取られた。
だが、そこで待っていたのは奴隷も同然の生活だ。
掃除、洗濯、水汲み…あらゆる家事をしていた。
ご飯は食わせてもらっていたが、量は圧倒的に足りなかった。
その家には俺と同い年くらいの子供がいたんだが、そいつのご飯は俺の2倍以上だったよ。
俺は小さいながら思ったよ。早くこんな生活から解き放たれたいってね。
学校にも当然通っていない。だから最低限の言葉しか知らなかった。
よく「こんなこともわからないのか!」ってぶっ叩かれたな。
今思えば、壮絶な幼少期だったな。
それは強い雨の日の晩。
家の主はその日、たいそう不機嫌だった。
俺の顔を見ると腹いせと言わんばかりに俺の顔面を勢いよく殴ってきやがった。
幼かった俺はかなり吹き飛ばされてしまった。あまりの衝撃と日ごろの生活の限界で体力がなかった俺はなんとか立ち上がって主に目線を向けたんだ。主はそれでも満足してなくて、もう一発俺を殴ろうと迫って来ていたよ。
このままだったら確実に殺される。
俺は全力で玄関に向かって、この忌まわしい家を飛び出した。
雨の中、ただひたすら走り続けた。とにかく遠くへ、それしか頭になかった。
しばらく走っていると、とある空き地が目に入った。
日は沈んでいる。少しくらい休んでいても問題ないだろう。
そう思って俺は雨の中空き地にこっそり侵入し、座り込んだ。
ずっと雨に打たれて体温がどんどん低くなっていくのを感じる。
ああ、俺はここで死ぬのかな。
そんなことを考えていた時だった。
「坊主、そこで何してる?」
これが、先生と俺の出会いだった。
◇◇◇
「…何かすみません、辛い出来事を思い出させてしまって。」
「いやいいんだよ。恒一にはどこかで話そうと思っていたことだったからな。」
「そうですか…。でもなんで先生は太郎さんの故郷の国に来ていたんですかね?」
「後から聞いたんだが、その国に強大な妖が出現して、増援という形で来ていたらしい。俺を拾ったのは『なかなか夫婦の間で子供が出来なくて、跡取りが欲しかったから』って言ってたよ。」
太郎は笑みを作りながら恒一の質問に返した。
恒一は太郎の顔を見て、さらに気まずくなった。
「産みの親については特別な感情は持っていない。だが、式を持つ体質であったことに対しては感謝している。これのおかげで俺は先生の体術や式操作を受け継ぐことができたからな。」
恒一は太郎の言葉に対して愛想笑いをした。
「一つ気になったのが、太郎さんって日本語をどうやって修得したんですか?」
「ああ、それはおふくろ(空也の妻)に教わった。有名な女子学校出身で、俺の故郷の国の言語も多少話せた。だからおふくろにもとても感謝してる。」
「先生の奥さん、そんなすごい人だったんですか!?」
「そうだな。恒一はおふくろとあまり関わりないからわからないよな。」
太郎はそう言うと、ははっと笑った。
(先生、太郎さんを救ってくれてありがとう。)
恒一は笑っている太郎を見ながら、心の中で呟いた。
「さて、だいぶ休憩したし式も回復しただろ?練習再開だ!」
そう言うと太郎は立ち上がり、いつも組手を始めるときの位置に向かった。
「わかりました!お相手よろしくお願いします!」
恒一も立ち上がり、太郎と反対側の位置に向かった。
豆知識
「太郎」という名前は空也が日本に帰国した際に命名したよ。本編でそのことについて触れたかったけど、ねじ込めなかったからあとがきに記したよ。
それとあと2~4話で修行編を終わらせるつもりだよ。中の人が終わらせたがっているからだよ。だから次回は二回目の仮免試験だよ。新キャラ出すよ。よろしくね。




