第20話
仮免試験が終わって最初の修行日。
太郎は空也に言われ妖防衛課の隊員寮に来ていた。
寮の管理人から親鍵を貰いに管理人の部屋に伺う。
事情を説明すると管理人は快く太郎に親鍵を渡してくれた。
「帰ってきたとき、恒一はどんな様子でしたか?」
「昨日は早く寝たから恒一くんが帰ってきたのは見てないかなぁ。」
「そうですか。親鍵貸していただきありがとうございます。」
太郎は管理人に一礼して部屋を後にした。
◇◇◇
部屋の向こうから音は聞こえない。
だが、向こうから式の存在は感知できる。
「恒一、入るぞ。」
部屋からは何も返ってこない。
先生(空也)が予想していた通りだ。
そしてその後の行動も先生から伝えられている。
太郎は少し待ったのち、管理人からもらった親鍵で恒一の扉の鍵を開けた。
6畳ほどの小さな部屋。奥には入口ほどの襖がある。部屋の隅には小さな机と座布団があり、机には本が乱雑に積まれていた。
部屋の中央部に布団が敷かれている。掛布団の中央部が山のように盛り上がっており、たまに中央部が僅かに動いていた。
「心の整理が出来たら出てこい。」
太郎は掛布団の盛り上がっている部分に告げた。
(さて、ここまでは先生に言われた通りのことをしただけ。本題は恒一が出て来てからだな。)
太郎は今後の対応を考えながら布団の隣に座った。
◇◇◇
太郎が座って10分後、隣の掛布団が波のようにうねった。
掛布団がはがれ、中にいた恒一が姿を見せる。
それほど日にちが経っていないため、身体的な変化は特に見られない。少し髪が乱れている程度だ。
太郎は恒一の顔を横目に見る。
目からは普段の光が消え去り、ただ眼球としての役割だけを果たしているかのような状態だった。
「雑魚に何の用ですか?」
恒一は太郎と顔を合わせずに話しかけた。
「雑魚って、誰のことだ?」
「あなたの隣にいる人ですよ。」
「俺はそう思わないけどな。龍明相手にあの動きはすごいと思うぞ。」
「でも負けました。」
「試験だろ?勝ち負けなんかどうでm」
「何が『試験だろ』ですか!!」
恒一の声が部屋中に響く。
太郎は恒一の豹変具合に気圧された。
「僕は負けたんです!!その事実に変わりはない!!軍人にとって負けることは『死』なんです!敗北した人間は死んだも同然なんですよ!しかもその後の『内波』だって一回も決まらなかった。あれだけ頑張ったのに…一回も決まらなかった。僕には才能がないんだ!!だから…僕は軍人にはなれない!!!」
太郎は聞いていた。
ただ、聞いていた。
今の恒一に話しかけても、自分を追い込ませることにしか繋がらない。
空也のように恒一の心を変えるような言葉を発する自信がない。
だから、隣で恒一の言葉を聞くことしかできない。
太郎は思い返す。
ここに来る前に空也と話したことを。
◇◇◇
「何なんですか先生。急に呼び出して。」
太郎は突然空也に呼び出された。
時刻はAM5:00。太郎が目覚めたのとほぼ同時だった。
「太郎、悪いが恒一の元へ行ってきてはくれないか?」
空也からの突然のお願いだった。
「いいですけど…、俺が行くべきなんですか?」
「どういう意味だ?」
「こういうのは先生が行くべきだと思います。俺が行っては恒一の気持ちをさらに沈める可能性があります。ここは先生が行った方が恒一がやる気を取り戻す可能性が高いです。だから先生が行くべきかと。」
「太郎、私はこの機会にお前と恒一の仲を深めようと思っているんだ。」
「いや、そうだとしても悪くなる可能性の方が高いと…。」
「お前ならできる。何せ私の一番弟子にして息子だからな。恒一の気持ちを沈めるようなことはせん。」
空也を反論しようとするも、太郎の言葉は詰まる。
先生は自分を信頼している。先生が自分ならできると言ってくれている。
自分の中ではできるかどうかわからない。
だが、先生ができるというなら、そういうことだろう。
「わかりました。やってみます。」
「そうか。」
「ですが!、恒一への最初の対応だけ教えてほしいです。ここで恒一に拒絶されては俺は何もできないので。」
「そんなことか。いいだろう。向こうに着いたら…」
空也は太郎に恒一にどう接すればいいのか話し始めた。




