第21話
「なぁ恒一、一つ質問していいか?」
太郎は恒一に語りかけた。
恒一は太郎の声を無視した。それどころか目を合わせようとしない。
太郎は横目で少し恒一の方を見る。涙ながらに自分の心を打ち明けた恒一の目の下は、汗によってかぶれた皮膚のように赤くなっていた。
「仮免試験を受けることが決まった日、先生(空也)は恒一に『合格することにこだわるな。自分の実力を確かめるつもりで受けろ』って言ったはずだ。なのに何でこんなになるまで落ち込んでいるんだ?」
恒一からの反応はない。
やっぱりこの質問は恒一の逆鱗に触れる内容だったのだろうか。
太郎は空也の言葉を思い返す。
「(お前ならできる。何せ私の一番弟子にして息子だからな。恒一の気持ちを沈めるようなことはせん。)」
「買い被りですよ…、先生。」
太郎は恒一に聞こえないほどの小さな声で呟いた。
◇◇◇
「あの時の記憶が…、蘇ったからです。」
恒一は呟いた。
太郎は恒一の声を聞き逃さなかった。すぐに恒一の方を見る。
恒一は太郎の方を向いており、太郎が振り向くと太郎の顔に目を向けた。
目の下はまだ赤くなっているが、太郎が横目で見た時よりかは薄くなっていた。
「陸軍士官学校に落ちたときの記憶が…蘇ったんです。あの試験は、自分を極限状態まで追い込んでから受験しました。ですが、結果は不合格。この国から『お前は軍人にはなれない』ということを突き付けられた感覚でした。それ以降、不合格に対して怯えるようになりました。先生から『合格することにこだわるな』って言われても、自分の中ではやっぱり…。」
「…そうか。」
太郎は恒一になんと返せばいいか考える。
ここで下手に『お前の気持ちがわかる』なんて言えば恒一を刺激しかねない。
今恒一を刺激すれば気持ちを立て直すことが絶望的になる。
太郎はしばらく考えたのち、恒一に言った。
「俺は…恒一が合格すると思っていた。」
◇◇◇
「俺は…恒一が合格すると思っていた。」
太郎の言葉を聞き、恒一は少し微笑みながら下を向いた。
「ありがとう…ございます。そう思ってもらえて嬉しいです。期待に応えられなくてごめんなさい。」
「あぁ、内波が決まらなかった時、俺は辛かったよ。あんなに頑張っていたのに、一発も決まらないなんて。それによって不合格が決まるなんて。」
「そう…ですよね…。」
「だが、今はそんなことよりも辛いことがある。」
「それは…、一緒に修行してきた弟弟子が諦めようとしていることだ。」
恒一は顔をゆっくり上げ、太郎の顔を見る。
太郎の瞳は、この先を照らすかの如く輝いていた。
「一緒に組手を何十回もしてきたからわかる。恒一は努力をしっかりするし、教えたことを頑張って吸収しようとするし、それを自分の中で生かそうとする。こんなに真面目でひたむきな人間に、俺は出会ったことがない。」
恒一の瞳の下から涙が少しずつ溢れてくる。
「半年で俺に『合格できるのでは?』と思わせるくらいお前の成長速度はすさまじいと思う。だからこそ恒一はこんなところで終わってほしくない。しっかり合格して、夢をかなえてほしい。」
恒一のまぶたにたまった涙が頬に垂れていく。
「恒一、先生も俺も恒一が合格するために最大限協力する。だから、もう一度頑張らないか!?」
太郎は恒一に手を差し出す。
恒一は目に溜まった涙を腕でふき取った後、太郎の手をとった。
二人はお互いの手を固く握りあう。
「もう一度…頑張らせてください!!」
恒一は太郎の誘いに強く了承した。
恒一の瞳の奥がまた輝き始めた。
少し短いですがキリがいいので今回はここまでにしときます。
恒一修行編、7月中に終わるかなぁ…って感じです。




