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第17話

 9月12日。

 この日、空也(くうや)宅に1人の人物が訪ねてきた。

 身長160センチほどでやせ型、軍服を着こなし腰にサーベルを備えている。幼さもあるが整った端正な顔立ちに肩まで伸びて艶のある髪はまるで舞台役者のようだ。肩からは革製の鞄を下げている。

 その人物は空也宅の玄関の前に立ち止まり、扉を数回叩き家に呼びかけた。


「空也さん!秋寧(あきね)さんに言われてきた者です!」


 しばらくすると扉が開き、扉から空也が顔を出した。


「あっ、忙しい中わざわざ来ていただきありがとうございます。さぁさぁどうぞこちらへ。」


 空也はそう言いながらその人物を招き入れた。

 


◇◇◇



「初めまして恒一(つねかず)君、僕は猾對(かっつい) 龍明(たつあき)。四国支部に勤めている第四級戦力保持者だ。今回の仮免試験の試験官をさせてもらう。」

「初めまして。世輪(せわ) 恒一です。今日はよろしくお願いします。」


 恒一は龍明に軽く頭を下げる。龍明もそれを見て恒一と隣にいる太郎(たろう)、空也に頭を下げた。

 お互いに顔を上げた後、龍明は恒一をじっくり見ながら話し始めた。


「支部長からは『真面目な坊主頭の少年』って聞いたけど、結構髪伸びてるね。」

「そうですね、こっちに来てから一度も髪切っていないので。」


 恒一は龍明にそう答えた。

 こっちに来てから約半年。恒一は一度も髪を切っていない。

 そのため、いつの間にか前髪を下せるほどの長さになっていた。

 恒一は前髪をいじりながら龍明に話す。


「近いうちに四国に来る前の髪に戻しておきます。」

「いや、今のままのほうが男前だからいまの状態を維持するくらいにしておけばいいと思うよ。」


 そういって二人は軽く笑いあった。

 その様子を太郎と空也は遠目で眺めている。

 2人は恒一が四国支部に入り、龍明たちとなじんでいる様子を想像していた。


 「さて。」


 しばらく笑いあったのち、龍明は恒一と距離を取り、手を後ろで組んで背骨を伸ばす。

 そして、笑顔を真顔に戻し、淡々と話し始めた。


「空也さんから聞いていると思うけど、改めて試験についての説明をさせてもらうね。試験は『学科』と『実技』の二つ。『学科』では主に数学や物理、戦術学の他に妖についても出題される。100点満点中70点を取れば合格だ。場所は…」

「ここでやろう。」


 空也はそういって近くにある木製の机を軽く叩く。

 学科の勉強の際に使った教室。恒一が入ったのは最後の学科授業以来である。


「そうですね。ここでやりましょう。」


 龍明は頷くと、持ってきた鞄から書類を取り出す。

 書類には『妖防衛隊 学科試験問題』と書かれていた。

 そして龍明はそれを空也が軽く叩いた机の上に乗せた。


「試験時間は60分。当然書類等の持ち込み禁止。不正行為と見做されたら失格とする。とりあえず説明は終わりやね。質問ある?」

「いえ、特にありません。」


 恒一がそう言い、家から持ってきた筆記用具を机に並べる。

 鉛筆3本に消しゴム2つ、落とした時の対策も万全だ。

 龍明は鉛筆や消しゴムを1つずつ手に取り、じっくり見渡す。

 そして、一通り確認し終えると、鞄から砂時計を取り出した。


「じゃあ恒一君、席に座って始めようか。」


 恒一は龍明に言われたままに席に座り鉛筆を手に取る。


「じゃあ、私と太郎は学科が終わるまでここを離れさせてもらうよ。それでいいな龍明君?」

「ええ、恒一君の集中を妨げるかもしれないので、よろしくお願いします。」

「じゃあ失礼させてもらうよ。」


 そう言うと、空也は教室を後にした。


「健闘を祈る。」


 太郎は恒一にそう言い残して空也についていった。

 2人を見届けた恒一は机にある試験問題に目を向けた。


「それでは学科試験を開始します。始めてください。」


 恒一は試験問題の用紙を勢いよく音を立てながらめくった。



◇◇◇



 学科試験を終えた恒一は昼食を終えた後、太郎と組手をする道場に向かった。

 恒一は手ごたえをしっかり感じていた。この1週間前からの見返しと、東京で浪人生のような生活によって刷り込まれた知識が生かされたのである。

 おそらく学科試験は通っているだろう。

 だが問題は、この後だ。


 扉を開き、恒一は道場に入っていく。

 中心部には龍明が待ち構えており、端には空也と太郎が座っていた。


「これから実技試験を始めるよ恒一君。まずは『実践組手』だ。今から僕と組手を行ってもらう。普段は式の使用は禁じられているが、ここでは『内波』以外は使用を許可する。制限時間は30分。僕を妖だと思って全力で倒しにこい!」


 入ってきた恒一に対し、龍明は道場内で響くほどの声で話しかける。

 恒一は目を閉じ一呼吸する。

 そして、目を開け龍明の方に歩み始めた。

 恒一が歩み寄るのを見た龍明は懐にあるサーベルを右手でゆっくりと抜く。

 そのサーベルの刀身は…木製だった。

 サーベルを鞘から完全に抜いた龍明は右手を軽く払って呟いた。


「仮免実技試験『組手』、開始。」


 龍明は勢いよく恒一に接近した。

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