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第15話

 あっという間に7月が終わり8月となった。

 恒一(つねかず)は今日、空也(くうや)と共に近くの川の上流に向かっていた。

 きちんと整備された道ではないため、足場が悪くいつ転んでもおかしくない。

 そんな道を平然と進む空也と足元を気にしながら空也の後を追う恒一。

 恒一はなぜ急にこんな場所を行くことになったのか疑問に思いながらついていった。


 川の流れが強くなり、足元の石も大きくなってきた。

 周辺には恒一と同程度、一回り以上大きい岩がいくつもある。


「さて、この辺でいいかな。」


 空也の足が止まった。

 後ろをついてきていた恒一も足を止める。

 

「今日ここまで来させたのには理由がある。恒一にある技を教えたくてな。」


 恒一は息をのんだ。

 空也の下で修行を初めて4か月。

 自分もとうとう技を修得するほどの段階に来たということに対する高揚と、だからこそ気を引き締めていかなければならないという心構えが入り混じる。


「9月に行われる仮免試験。それを突破する際に避けてはならない技術だ。正直もっと早く教えたかったが…。まぁいい。ここから1か月は今から教える2つの技の習得を目指してもらう。」

「はい!」


 恒一の返事を聞いた空也は、2メートルほどの巨石の前に立つ。

 深呼吸を軽くし、恒一や太郎(たろう)がやっている組手の構えをとる。

 そして勢いよく右手で巨石に拳をぶつけた。

 すると、巨石が内側から鈍い音を出しながら粉塵と化し飛散する。

 恒一は目の前で何が起こったのか理解できなかった。

 構えを解いた空也は恒一の方を向き話し出す。


「何が起こったかわかるか?」

「いえ…。何が起こったのか全く…。」

「今見せたのが『式術(しきじゅつ)』と『式波(しきは)』の合わせ技だ。我々はこれを『内波(ないは)』と呼んでいる。」

「内波…。」

「その名の通り、相手の防御を貫通し内側から攻撃する方法だ。」

「ってことは、どんなに硬い妖でも倒せるということですか!?」

「いや、どれくらい貫通できるかは本人の技量による。何なら1回貫通するだけでも相当難しい。」

「どれくらい難しいのでしょうか?」

「そうだな…。裁縫で使う針に一発で糸を通す、これが一回貫通する時の感覚だ。」

「ええ…。」


 不安そうな恒一を見つめる空也。

 自分も昔、師匠に教わったときに同じ反応をした。

 しかし、地道な努力と鍛錬で今では二回程度なら簡単に貫通できるようになった。

 だからこそ、恒一にも頑張ってほしい。


「まぁ、『内波(ないは)』についてはこの辺にしておこう。今日は軽い説明をする程度だからな。」

「そう…ですね。」

「では2つ目のやつに入るぞ。」


 そう言うと、空也は遠くにある滝の方に視線を向ける。

 そして、内波の時と同様の構えをとった。

 一呼吸を置き、右の拳を思い切り突き出す。

 空也の右拳から白濁とした何かが勢いよく飛び出した。

 それは勢いよく空を切り、滝に直撃する。

 直撃した滝は、何かが当たった場所に虚空を生み出しながら川へ落ちていった。

 構えを解いた空也は恒一の方を向き、話し出す。


「今のが『式波(しきは)』の応用技、『空波(くうは)』だ。式波の波動を一点から一気に放出することで攻撃することができる。といっても、所詮は式波の応用技。これだけで妖を倒せるといったら絶対に無理なほど殺傷能力が低い。」

「っていうことは、相手をけん制する時に使うようなものなのでしょうか?」

「その通り!相手の目を狙って一時的に視界を奪ったり、相手の受け身を乱したりといった用法で使うぞ。」

「…なんか、内波と原理が似ているきがします。」

「そうだな。空波を出す感覚と、内波で相手の防御を一回貫通する感覚は同じようなものだ。つまり、糸を通す局面が攻撃を出すときか、攻撃を当てた時かという違いだ。」

「なるほど…。」


 一通りの説明を終えた空也はさらに奥へ向かう。

 それを見た恒一は慌てて空也についていった。



◇◇◇



「この辺がいいかな。」


 空也はそう言って立ち止まった。

 空也の家からかなり離れた山の奥。川の流れが速く、足元をすくわれ入ってしまえば滝まで流されてしまいそうなほどだ。周りには巨石が多く、内波の練習場所としては最適と言えるだろう。

 恒一も空也に追いつき、近くにあった岩に腰を据える。


「座ってていいから見ておれ。」


 空也は恒一にそう言うと、近くにある巨石に内波をぶつける。

 巨石は鈍い音を出しながら霧散していく。

 その後空也は手あたり次第巨石に内波をぶつけていった。

 空也が辞めたときには、辺り一面が砕かれた石で埋め尽くされていた。


「恒一、今の私の式の状態がわかるか?」


 恒一は空也の方をじっと見る。

 空也との修行を得て、恒一は式の気配を何となく感じれるようになった。

 しかし、今の空也からは何も感じない。


「先生から…式を感じません。」


 空也は軽く笑い、説明を始める。


「その通りだ。内波、空波、あと式波もだな。これらは使いすぎると『無式(むしき)状態』になってしまう。その名の通り、式を用いた技や身体強化、疲労回復といったことができない状態のことだ。30秒程度で治るが、戦闘中になってしまえば一巻の終わりだ。」

「つまり、内波などを乱用しすぎるなということですね!」

「まぁそんなところだ。…一通り説明したらちょうどいい時間だな。今日はここまでだ。家に帰るか。」

「はい!」


 空也と恒一は山を下りて行った。


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